◇概要
中国雲南、ラオス、タイ東北部、ベトナム北西部は、メコン河上中流域ないしその支流域にあたる。この地域の特徴を簡単に挙げると次のとおりである。
- 河谷平野、山間盆地農村部のマジョリティはタイ系の人々である。山腹山上部には、モーンクメール系の人々などさまざまなエスニシティの人々の集落が点在している。市街部には華人系、インド系、ベトナム系の人々も住んでいる。
- 人々の多数は農山村で各々の生態的条件のもと、水稲作、焼畑作、漁撈や狩猟、家畜飼養など、さまざまな生業を組み合わせて、半自足的に暮らしてきた。
- 第2次世界大戦期からインドシナ戦争期まで、戦乱ないし政治的対立の影響を人々は直接間接に受けてきた。人々が移動せざるをえない事態も少なからず生じた。
- 1980年代後半のタイ経済の急成長やラオス、ベトナムの市場開放政策への転換以降、とりわけ 1990年代に入って、地方農村の暮らしにも、資本主義的市場経済の影響が本格的に及ぶようになった。経済開発が新たな移動や関係を生み、新しい街や集住地が形成されつつある。
本研究では、地方社会を、地方都市−農村の関係のなかで捉えること、それを「地方世界」として分析することを考えている。この地域では、ルアンパバーンなど、「くに」の政治や宗教や交易の中心地はいくつかあった。小規模な、しかし、相対的に自律的な文化圏が存在し、農山村はその周縁にあった。バンコクなど労働力を吸引する首位都市の影響を、タイ東北部の人々は被ったが、他の地域の多くはその圏外にあった。しかし、1990年代以降、道路建設や電化などインフラの整備に導かれ、タイ(バンコク)やベトナムや中国の経済圏への組み込みが、さまざまなレベルで急速に進んでいる。その過程で、かつての「くに」の中心地はどのように変容しているのか、どのような新たな「地方都市」が誕生しているのか、地方都市という場で、人々はどのように交わり、どのような生き方を身に付けつつあるのか、これから現地調査を得るであろう見聞を手がかりに、そのありように接近していきたい。
本研究では東アジア内陸部(メコン圏)に、中国雲南(大理他)、ラオス北部(ウドムサイ他)、ベトナム北西部(ディエンビエン他)、タイ東北部(ローイエット他)の4つの調査地を設定している。まずはそれぞれの変容の事実把握に努めたい。その過程でそれぞれの相違点や共通点が浮かび上がってくるものと期待している。
高井 康弘(大谷大学文学部)
2009年度調査報告
○ベトナム(PDFファイル)
○中国・雲南
○タイ
2008年度調査報告
○ベトナム
○中国・雲南
○タイ
○ラオス
2007年度調査報告
○ベトナム
○中国・雲南
○タイ
○ラオス |