―基層・動態・持続可能な発展―

Basic structure,Dynamics, and Sustainable Development

 

 
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2008年度調査報告(ラオス)

 ラオス北部のムアンサイを調査地に据えた本年度は、主として、中心市街地の住民集住プロセスと、ウドムサイ県内の教育移動について調査を実施した。
 前者については、サイ市域(テーサバーン・ムアンサイ)を構成する9行政地区(チェーン、ティン、ワンハイ、プーキアウ、ホームサイ、パーサック、ノーンメンダー、ナーワンノーイ、ナーラオ)を対象として、人口集中、行政区の分岐・再編およびエスニシティの地域的特色に関す聞き取り調査を実施した。後者では、ウドムサイ県教育課とナーモー郡教育事務所、四校の小学校への聞き取り、およびルアンパバーンからナーモー郡のに点在する小学校数校への視察調査を通して、都市農村部での子どもの移動、教育問題およびエスニシティの相違などを把握した。
  いずれも、激しい社会経済変化の中で、ウドムサイ県に、ムアンサイを含めた地域・地方の中心が形作られるプロセスを明らかにしようとしたものである。

 以下、ウドムサイ県教育課の業務と県内の教育事情に関する調査概要を示しておく【写真1】。インフォーマントは、基礎教育係係長SS氏であり、以下は氏からの聞き取りの要旨である。
 教育課は、課長1人、副課長2人のもとに、7つの係(審査係、運営管理係、人事係、基礎教育、学外教育係(夜間教育、職業を持っている大人の読み書き教育)、統計係、教員開発係)が置かれている。職員数は30人あまりである。
 管轄は、ウドムサイ県内の7つの郡である。サイ郡を中心としてみると、ラー郡(28km)、ナーモー郡(58km)、ンガー郡(70km・県内でもっとも貧困)、ベン郡(64km)、フン郡(92km)、パクベン郡(126km)がある。県内には506村(昨年2008年度の数字)あり、それに対して、小学校は495校、私立小学校は7校(いずれもムアンサイ市内)ある。ただし、5年生まで完備した完全小学校は186校に過ぎない。生徒は55,708人(女26,513人)、教員数は1,659人(女566人)である。教員については、公務員身分ではない教員314人(教員養成学校を出たが、配属されていない教員。予算の関係で配属人数には制限がある。)も含まれている。2008年の小学校入学率は92%であった。
 ほかにも県内には、中学校43校、高校13校、高等専門学校(高専)5校(ビジネススクール・パソコン・電気電子等)、専門学校5校(公立1校、私立4校、バイクの修理・タイピング・会計等)がある。また高校の生徒数は、17,779人(女7,577人)、 教師602人(女228人)である。中学への進学率は56%であり、高校への進学者はごく一部である。
ウドムサイ県の民族構成は、およそラオルム25%、ラオトゥン60%、ラオスン15%であるから、ラオ語を母語とするラオルムが約4分の1にすぎず、ほとんどがラオス語を喋ることができない山腹部か山間部の子どもと言うことになる。
 山間地域は、交通と貧困の問題も抱えがちである。山がちだから、雨期には山崩れが多発し、交通網が遮断されることが多い。特にンガー郡は道が十分通じていない。ウドムサイ県は、18県中下から2番目の貧困県にあたり、北部74郡のうち47郡は貧困である。ウドムサイのなかでは、ムアンサイとラーは貧困ではないが、ラーの場合富裕層がいるため実質的にはかなり貧困層が多い。要するに、サイを除くすべての郡が貧困なのである。
 県内で大きな問題となっているのは、少数民族の1年生の高い留年率である。言葉の壁もあり、一学年を終えるのに1年〜1年半はかかっている。その他の問題として、校舎、交通の便、公務員の身分をもっていない学校の先生、30-40万kipの支払い(村の人から援助をもらう。非金銭的援助も含む。)などが挙げられる【写真2】。

 教育現場で生じる出来事は、若年層の経験に劇的な変化をもたらしており、そこで培われた知識や人的関係が、今後のラオスの地域関係に及ぼす影響は計り知れない。大人たちも、この事態への対処を重ねるうちに、新たな付き合いや地域関係が生まれていることを感じ取っている。来年度も、こうした教育事象を一つの軸として、家族関係、集落間関係、都市農村関係など、ウドムサイを中心とした地方的世界の有り様を明らかにしていくつもりである。
  同時に、こうした子どもたちを中心とした社会生活の変化は、中心市街地の住民集住プロセスと連動しているので、今後は、両者の関連も踏まえながら、ムアンサイおよびウドムサイ県における地方社会の特質を明らかにしていきたい。

ウドムサイ県教育課の庁舎
【写真1】
ウドムサイ県教育課の庁舎
教師宿舎の様子
【写真2】
教師宿舎の様子
(大半の教師は苦しい経済事情を抱えている。)

福田 恵(大谷大学文学部・助教)