地域歴史遺産の活用を図る地域リーダー養成事業
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事業概要

《取組の背景》

 神戸大学は、地元自治体や NGO と協力し、阪神淡路大震災で被災した史料などの歴史遺産の調査・保全、市民講座による地域歴史文化の探求等、多彩な歴史文化地域連携事業を進めてきた。また、兵庫県教育委員会と連携し、全国に先駆けて地域歴史遺産保全活用員の養成にも努めてきた。これらの事業は先進的な地域連携の取組として高い評価を得ている。
 現在、自治体は住民のアイデンティティの再生等による地域活性化のために、消失の危機にある地域歴史遺産の保全活用を図りつつあるが、それを実践する地域リーダー養成が、上記のような実績を持つ神戸大学に強く要請されている。
 そこで本取組では、兵庫県下の自治体、地域住民組織と連携し、地域歴史遺産を保全・活用する地域リーダーを養成する教育プログラムを開発し、学生・社会人の教育に導入することによって、地域を活性化する人材を養成する方法を確立することを、目標とする。

《取組の概要》

 この教育プログラムの柱は、次の3つからなる。

  1. 地域歴史文化事業を担う職業的リーダー (研究者、博物館員・文書館職員、NPO職員等) 養成教育プログラムの開発と大学教育 (学生教育・社会人教育) への導入。
  2. 地域歴史遺産保全・地域歴史文化形成を担う地域住民リーダー (地方マスコミ関係者、小中高の教員、 自治体職員、歴史ボランティア、観光関係者、建設業者等) 養成教育プログラムの開発と大学教育 (学生教育、社会人教育) への導入。
  3. 職業的リーダーと地域住民リーダーの協働のための教育プログラムの開発と試行。

 上記のプログラムを確立するために、具体的には、次のような学際的な地域歴史遺産保全・活用教育を行う。

  1. 基礎的能力養成教育では、次の三領域での教育プログラムを開発し、実施する。
    • 地域の歴史的変遷の中に歴史遺産を位置づける学習 (地域史、地域文化財論)。
    • 地域歴史遺産保全に必要な基礎的技術の学習 (建築物の図面や古文書の解読、歴史遺産補修基礎論、考古学概論等)。
    • 地域社会論・地域再生論の基礎的学習 (地域コミュニティ論、観光開発論、ツーリズム論、歴史遺産・観光資源の老齢者・障害者への開放に関する基礎論)。
  2. 実践的能力養成教育では、文学部地域連携センター、工学部建設学科が自治体等と連携して展開している歴史遺産保全活用事業を拡充して、学生・大学院生が地域住民と協同して企画立案・実行するインターンシップ的カリキュラム (地域歴史遺産保全活用基礎実習、地域歴史遺産保全活用演習) を開発し、実施する。
    • 住民との地域歴史遺産共同調査、住民への古文書解読・歴史遺産マップ作成の指導。
    • 地域史料・歴史遺産目録の住民との共同作成。
    • 地域歴史遺産についての住民との共同研究。
    • ・以上の成果についての講演会の住民との共同開催。
    • 成果物の現地及びホームページ上での展示 (バーチャル博物館等の構築)。

 以上の教育を実施していく際、各地での地域講座開催などで学生・大学院生と地域住民が相互に学ぶことを重視する。

《選定理由》

 ※文部科学省ホームページ<平成16年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム選定取組の概要及び選定理由>より抜粋

 この取組は、阪神淡路大震災後の地域復興に貢献した貴学が、地域活性化を実践するリーダー育成の必要性を認識し、これまでの産学連携事業推進を活かしながら自治体とも連携して、大学教育に歴史文化遺産を保全活用する職業的リーダー養成計画を導入するものです。

 この地域では未曾有の天災の体験から、地域の復興・再生という観点からも自治体と地域住民の連携、住民自身による地域コミュニティー構築の重要性が広く認識されるようになりました。また、地域住民のアイデンティティの再生に必要な住民自身による地域の歴史認識を可能にするシンボル的な存在としての地域歴史遺産 (歴史的建築・石造文化財・埋蔵文化財・古文書など) の重要性についての認識も高まっています。
 大学教育に地域歴史遺産保全活用教育を体系的に導入する本取組はそれ自体ユニークですが、総合大学としての強みを活かして学際的な地域歴史遺産保全活用教育を導入するということに特に独創性が認められます。 また、この分野ではすでに実績とノウハウを蓄積しており、実現性も期待できます。
 この人材育成事業は地域貢献につながり、高等教育の質的向上のモデルをも提示している取組です。さらに他地域、他大学などへの参考になる事例と認められることから選定に値するものと評価します。

《平成16年度の事業計画》

 全体の目的にしたがって、平成16年度は、基礎的能力養成のための授業について教材作成準備作業と実践的能力養成のためのカリキュラム開発をすすめる。

  1. 基礎的能力養成授業の教材作成については、その基本的な方針を確定することを目的とし、具体的には以下のような作業をおこなう。
    1. 兵庫県域の歴史的変遷に関する教材作成方針の確定と準備作業。
    2. 地域歴史遺産保全の基礎技術学習の教材作成方針の確定と準備作業。
    3. 地域社会論・地域再生論に関する教材作成方針の確定と準備作業。
  2. 実践的能力養成のためのカリキュラム開発・作成については、具体的には以下のような作業をおこなう。
    1. 兵庫県、生野町、神戸市と連携し、生野町、神戸市北区淡河町、阪神間の大学近隣地域をフィールドとした「地域歴史遺産保全活用基礎実習」(学部学生対象)、「地域歴史遺産保全活用演習」(修士課程大学院生対象)のカリキュラムの開発・作成をおこなう。
    2. 兵庫県のヘリテージ・マネージャー養成講座への神戸大学参画方法の検討と養成講座カリキュラムの高度化に関する兵庫県との協議をすすめる。

《平成16年度の活動実績》

 上記の計画に対し、本年度は以下のような事業を展開した(以下、上記《本年度の事業計画》と対応。事業個々の内容については、こちらを参照)。

  1. 基礎的能力養成授業の教材作成
    1. 地域史教材の一事例として、『兵庫県の歴史』(山川出版社)の検討会を行い、地域史教材の編み方について検討した。
    2. 生野町での古文書整理事業、台風23号に伴う山陰地方の水損史料保全事業、新潟中部地震に伴う地域文化財の保全状況の現地調査および研究会参加をつうじて、日常時、災害時の史料取り扱い方法について検討した。また、これらの成果は、神戸で開催された国連防災会議において、パネル展示と講演(奥村弘助教授)で発表した。
    3. ツーリズムに関する研究会を開催し、地域の歴史文化の活用を応用的に研究した。
  2. 実践的能力養成授業の教材作成
    1. 生野町(市民向け古文書講座)、神戸市淡河地区(史料所在調査)において大学院生のインターンシップ実習を試験的におこなった。また、小野市においては、博物館事業の先進的取り組みについて、関係者を交えた研究会をもった。
    2. ヘリテイジ・マネージャー、県関係者、大学の三者で、地域住民が主体となって地域文化財を保全する方策について検討する、研究会をもった。さらに、県下自治体諸機関、住民団体と大学との連携による歴史文化の活用を検討する、大規模な協議会(56機関参加)を開催した。

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