2008年度
フォーラムの開催記録
「フォーラム」は古典力と対話力を学術的かつ応用的に発展させるために設けられた場のひとつです。
異なる学域の専門家との学術的対話を、若手研究者と学生が共同で企画・運営し、社会との学術的対話力の展開を図ります。
■倫理創成プロジェクトフォーラム(第3回日仏共同研究報告会)
- 日程:2009年3月17日(火) 14:00~
- 場所:神戸大学文学部 B棟152 視聴覚教室
- 発表者:
- 第一部 日仏共同研究報告会
- 松田 毅氏(神戸大学人文学研究科 教授)
- 村山武彦氏(早稲田大学理工学術院 教授)
- 中谷友樹氏(立命館大学歴史都市防災研究センター准教授)
- 毛利一平氏(財団法人 労働科学研究所研究部副部長)
- 油井清光氏(神戸大学人文学研究科 教授)
- ポール・ジョバン氏(パリ・ディドロ大学准教授)
- 藤木 篤氏(神戸大学人文学研究科 大学院生)
- 第二部 講演
- 原田正純氏(熊本学園大学水俣学研究センター長 教授)
- 「学際的研究としての“水俣学”」
原田正純氏(熊本学園大学水俣学研究センター長)とポール・ジョバン氏(パリ・ディドロ大学)をお招きし、講演会とアスベスト問題に関する日仏共同研究の成果報告会を行います。
■レポート 原田正純氏(熊本学園大学水俣学研究センター長)とポール・ジョバン氏(パリ・ディドロ大学)をお招きし、講演会とアスベスト問題に関する日仏共同研究の成果報告会を行った。 |
ジェンダー論研究会第1回フォーラム
- 日程:2009年3月16日(月) 15:00~17:00
- 場所:神戸大学文学部 A棟1階学生ホール
- 講演者:
- 三成美保氏(摂南大学教授)
- 「ジェンダー概念とその有効性―スコットの議論を手がかりに」(仮題)
三成美保氏(摂南大学教授)をお迎えし、法史学とフェミニズムやジェンダー論に関わる問題について検討します。
■レポート ジェンダー論研究会は、昨年12月から古典ゼミナールにおいて、ジョーン・W・スコット『ジェンダーと歴史学』(平凡社、2004年)を読み、歴史学とフェミニズムやジェンダー論とのかかわりについて基本的な事柄を学びつつ、ジェンダー概念の可能性、有効性を検討してきた。そして歴史学をはじめとして、既存の学問分野におけるジェンダー概念への対応を、基礎知識として把握するよう努めてきた。しかし、このような試みには、適切な専門家の解説を必要とする。これをふまえて本フォーラムでは、摂南大学の三成美保氏に講演を依頼した。氏はドイツ法制史、および法史学とジェンダーの問題についての専門家であり、『ジェンダーの法史学―近代ドイツの家族とセクシュアリティ』(勁草書房、2005年)の著者である。本フォーラムでの氏の演題は、「ジェンダー概念とその有効性―スコットの議論を手がかりに―」であった。司会は高田京比子氏(本研究科准教授)、ディスカサントは磯貝真澄(文化学研究科OD)と沖野真理香(人文学研究科D2)が担当した。(文責:磯貝真澄) A.講演の内容 |
社会学的対話とコミュニケーション
- 日程:2009年3月11日(水)10:00~12:00
- 場所:神戸大学文学部 A棟1階学生ホール
- 講演者:イヴ・ヴァンカン氏(リヨン高等師範学校文学・人文科学校副学長)
- 司会:油井清光氏(神戸大学教授)
■レポート 本フォーラム「社会学的対話とコミュニケーション」は、高等師範大学人文科学校リヨン副学長イヴ・ヴァンカン氏による講演「魔術化の工学」を中心に組織されたものである。同氏は、本フォーラムが行われる前日(2009年3月11日)に開催された、大学院教育改革支援プログラム(神戸大学人文学研究科)「古典力と対話力を核とする人文学教育」のキック・オフ・セレモニーにも基調講演者として参加し、古典力育成に伴う重要事項について言及したが、その中で同氏は、学際的・異文化間の対話、つまり異質なものとの対話を通じた相互理解が、古典理解を真の意味において深めていくためには重要であると提言していた。本フォーラにおける講演は、そのことば通り、社会学の古典理論を学際的に開かれた観点から検討すること、そして(高等師範大学と神戸大学の共同調査研究を提案するなど)比較文化的な研究の可能性を模索することに焦点が当てられたものであった。
なお、「魔術化の工学」の構成は、以下の通りである。1.E.ゴッフマン理論をはじめとした古典社会学理論の学際的な理解とその応用可能性の検討、2.同理論を基調に展開している経験的調査――「現代フランス社会における消費文化と現実の組織化に関わる考察」――に関する報告と神戸大学との共同調査研究に関わる提案。 |
カント感性論の現在形
(第3回神戸芸術学研究会/第15回視聴覚文化研究会 合同研究会)
- 日程:2009年3月8日(日)13:00~17:00
- 場所:神戸大学文学部 B棟152 視聴覚教室
- 発表者:
- 杉山卓史氏(京都市立芸術大学非常勤講師)
- 伊藤政志(近畿大学医学部非常勤講師)
- コメンテーター:中川克志氏(京都大学非常勤講師)
- オブザーバー:長野順子氏(神戸大学教授)
コンピューター・テクノロジーの到来によって大きく変化する社会において、カント哲学、とりわけ感性論を私達はどのように捉えることが可能なのか。またこうした状況下で、カント哲学の周辺で従来語られてきた、「カント哲学のアクチュアリティ」という問題は、どのように考えることができるのか。以上の問いをこのフォーラムでは検討する。
■レポート コンピュータ・テクノロジーの到来によって大きく変化する社会において、カント哲学、とりわけ感性論を私たちはどのように捉え、または捉え直すことが可能なのか。またこうした状況下で、カント哲学の周辺で従来語られてきた「カント哲学のアクチュアリティ」という問題はどのように考えることができるのか、そもそも問いとして成立するのか。本研究会は、以上の問題に対して様々な側面から検討した。 「心身問題から感性論へ―不惑のカント―」(杉山) 「カントに初音ミクを批判させてみた―脱魔術化時代におけるイリュージョンのために―」(伊藤) フォーラムにかんする告知が遅れたのにもかかわらず、当日、多くの来訪者があった。参加者の多くは、神戸大学または関西の大学に所属し、とりわけメディア、社会、文化に注目した芸術学、美学を専門領域とする大学院生と若手研究者たちであった。 |
第7回 歴史文化をめぐる地域連携協議会
「自治体合併後の地域遺産の保全・活用をめぐる現状と課題」



- 日程:平成21年(2009)年2月1日(日)11:00~17:00
- 場所:神戸大学瀧川記念学術交流会館
- 主催:神戸大学大学院人文学研究科、同地域連携センター
- 共催:兵庫県教育委員会、小野市教育委員会、佐用町教育委員会、香寺町史編集室
- 参加者数:74名
- プログラム:
- 第1部
- 岡田知弘氏(京都大学大学院経済学研究科教授)
- 「『平成の大合併』の歴史的意味と地方自治・地域づくり」
- 第2部
- 大槻守氏(香寺町史編集室長)
- 「自治体史編纂史料の行方と自治体合併」
- 藤木透氏(佐用町教育委員総務課文化財係課長補佐)
- 「合併と公文書・地域史料 ~その保存への思いと現実~」
- 上田脩氏(丹波市春日町棚原地区自治会棚原パワーアップ事業推進委員会事務局長)
- 「地域の歴史文化を活かしたまちづくり」
- 第3部
- 村上裕道氏(兵庫県教育委員会文化財室長)
- 「文化財専門職員の動向 -市町村合併前後を比較して-」
- 紀藤雄一郎氏(神戸大学人文学研究科博士課程前期課程)
- 「学生の視点から」
神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクトの主催で開催された本フォーラムでは、アメリカ哲学や東洋‐西洋比較哲学、フェミニスト倫理、ジェンダー・セオリーなどを専門に研究されているヘザー・キース氏によって、フェミニズムの観点からケアの倫理(the Ethics of Care)についての講演が行われた。フェミニズムに関するフォーラムのため、古典ゼミナールのジェンダー論研究会が共催となった。ケアの倫理に基づいたキース氏のフェミニズム観は、フェミニズムやジェンダーの問題を敬遠しがちな学生にとっても受け入れやすいものである。
■レポート 「地域連携協議会」とは、地域連携センターが、毎年の年度末に開く、歴史文化をめぐる協議会(カンファレンス)である。県内自治体の文化財担当者、博物館等の学芸員、市民・NGO団体、大学関係者が一同に集うことで、県内各地の各分野での取組や活動の情報交換をはかり、歴史遺産の保存・活用のためのネットワーク作りを進めることを目的として開催されている。本年は70人を超える参加者を得て、盛況のもとに行われた。 最初に午前の第1部では、京都大学の岡田知弘氏より「平成の大合併」後の地方自治・地域づくりのあり方についての基調講演がなされた。そして午後の第2部では、現場の方々からの具体的な報告があり、香寺町史編集室の大槻守氏より、自治体史編纂の現場について、佐用町教育委員会の藤木透氏より、合併による組織改変や公文書の処理について、棚原パワーアップ事業推進委員会の上田脩氏より、歴史文化資源の活用の実践についての報告がそれぞれなされた。さらに第3部では、兵庫県教育委員会の村上裕道氏と神戸大学院生の紀藤雄一郎氏より、コメントがあり、それらをもとに総合討論が行われた。 いずれの現場においても、自治体合併後の地域遺産の保全・活用をめぐる厳しい現状が確認されたが、そうした中でも、同時にそれらに自律的に対応しようとする実践のあり方の呈示もなされた。こうした問題については、自治体関係者と地域住民が各々の現状と問題意識を共有し、議論をすることが、第一義的に重要である。そうした意味において本協議会は、自治体合併後の地域遺産の保全・活用をめぐる各々の諸活動の紐帯としての役割を果たす、貴重な集まりとなったのではないかと思う。(文責:新見克彦[学術推進研究員]) |
バイオエシックスとカント(第2回倫理創成フォーラム)
- 開催日:2009年1月15日(木)C棟3F会議室
- 報告者:蔵田伸雄氏
- コメンテーター:
- 志村幸紀氏
- 食見文彦氏
- 信田尚久氏
- 参加人数:30名程度
■レポート カントを専門としつつバイオエシックス(生命倫理学)の分野においても一線で活躍される蔵田伸雄氏(北大)を招き、院生とともに、 バイオエシックスの先端的諸問題を、カント倫理学という古典的枠組みと照らしあわせつつ検討した。 第1部の蔵田伸雄氏(北海道大学大学院文学研究科准教授)による講演(講演タイトル「カントの「人間の尊厳」と人胚研究の倫理」)では、ES細胞研究における生命倫理上の問題点、「人間の尊厳」という概念が一般的にもつ規範的な価値と特にカントの使用においてもつ意味、ES細胞研究における生命倫理上の諸問題への人間の尊厳概念の応用に関し発表が行われた。さらに講演では、「古典力と対話力」というパースペクティブから、哲学的立場から応用倫理の諸問題に接近する際の基本的姿勢や、基礎研究が持つ意義に関しても言及された。 第2部では博士後期院生コメンテーターの志村幸紀、食見文彦、信田尚久を中心にフロアを交えてのディスカッションが行われた。コメンテーターはそれぞれ、生命倫理的観点、人間の尊厳という概念の哲学史的位置づけ、カント倫理学の立場から質問を行い、カント倫理学を生命倫理の先端的問題に応用することの有効性とその射程が中心的な議論の争点となった。(文責:藤井) |
■ヨーロッパにおける〈マンガ〉と〈日本〉
- 開催日:2008年12月8日(月)
- 基調講演:ジャン=マリー・ブイッスー氏(パリ政治学院 国際研究調査センター研究部長)
- コメンテーター:荻野昌弘氏(関西学院大学教授・先端社会研究所所長)
- 報告者:
- 猪俣紀子氏(くらしき絵本館代表)
- 雑賀忠宏氏(神戸大学大学院人文学研究科・学術推進研究員)
■レポート 日常的に人々が慣れ親しむ文化を象徴的な闘争と交渉の場とみなすカルチュラル・スタディーズの隆盛に示されるように、文学や社会学、芸術学といった人文学の領域において、ポピュラー文化が学際的な問題構成の新たなレパートリーとして浮上してきて久しい。近年、「クール・ジャパン」というフレーズのもとで、欧米やアジア地域において人気を博しているとされる日本発のポピュラー文化であるマンガもまた、社会現象として人々に注目されているだけでなく、こうした視座からの研究関心を集めつつある。上記のような状況のもと、マンガという特定の文化領域を議論の共通のステージとして設定することで、日本とヨーロッパ、あるいは人文学と社会科学、研究者と市民といった様々な項の関心を結びつける学術的対話の実現を目的として、本フォーラムは開催された。 |
■第1回倫理創成フォーラム
- 開催日:2008年11月14日(金)15:00~19:30
- 報告者(第一部):
- 成瀬尚志氏・藤木篤氏(神戸大学)
- ポール・ジョバン氏(パリ・ディドロ大学)
- 長松康子氏(聖路加看護大学)
- 講演者(第二部):
- マリ・クリスティーヌ氏(国連ハビタット親善大使)
- 永倉冬史氏(中皮腫・じん肺アスベストセンター事務局長)
■レポート 研究会では、倫理創成プロジェクトがこれまで取り組んできたアスベスト問題に関して、専門家やNPOの立場から実践的活動を行っている方々をお招きし、ご報告いただき、アスベスト問題を人文学の学域横断的主題としてさらに深め、展開させる基盤を見出すことを目指した。 第1部では、まず倫理創成プロジェクトの活動全体に関して松田毅(人文学研究科教授)が報告した。次いで、プロジェクトに参加している成瀬尚志(同研究科教育研究補佐員)と藤木篤(同研究科博士後期課程)がアスベスト被害者への聞き取り調査の意義に関して共同報告し、倫理創成の観点で一人称からのリスク評価という視点の重要性を強調した。社会学のポール・ジョバン(パリ・ディドロ大学准教授)からは、フランスにおけるアスベスト被害の実情や補償状況に関する報告がなされた。看護・保健学の長松康子(聖路加看護大学助教)からは、今後深刻な問題になると予想される子どものアスベスト被害に関する報告がなされた。 第2部では、アスベスト問題に実践的に取り組んできたマリ・クリスティーヌ(国連ハビタット親善大使)と永倉冬史(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)から、その活動内容に関する報告がなされた。最後に、永倉が、災害時のアスベスト被害を予防するために子ども用の防じんマスクの備蓄を推進する「マスク・プロジェクト」の趣旨の説明を行った。当日は学生だけではなく、一般市民やマスコミも数多く参加し、アスベストリスクに対する予防とコミュニケーションの具体化に向けて、活発な討議が行われた。なお、会の様子が当日、午後8時45分からのNHKのローカルニュースで報道された。(文責:稲岡大志[学術推進研究員]) |