神戸市を中心とする文献資料調査

神戸市中央区北野地区における活動

 神戸市中央区北野地区は、現在の神戸市の中心地である三宮からもほど近い、六甲山の山すそに位置する地区です。慶応3年(1867)に兵庫が開港されたことをうけて、神戸村に外国人居留地が設定されましたが、明治時代半ばになると居留地に住む外国人達は、居留地からもほど近く風光明媚な高台である北野の地に着目し、次々と洋館を建ててゆきました。そのため、北野・山本通地区は異国情緒の漂う住宅地として発展してゆきます。その後、時代と共に洋館は次第に姿を消してゆきましたが、いまなおエキゾチックな雰囲気が残されています。昭和55年(1980)には国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、さらにNHKの連続テレビ小説「風見鶏」放映(1977〜8年)の影響もあって、北野を訪れる観光客は今も絶えません。
 この北野の地に伝わり、明治時代以前の北野村の歴史を語るうえできわめて貴重な史料群に西脇家文書があります。本文書群は、平成18年(2006)度以来当センターが調査・整理を行ってきましたが、平成22年(2010)5月に同家のご意志によって人文学研究科に寄贈されました。
 当センターではこれまでに、この西脇家文書を中心に北野地区において以下のような活動に取り組んでまいりました。

■西脇家文書の調査と寄贈受け入れ
(1)西脇家文書との出会い
(2)西脇家文書の調査
(3)西脇家文書研究会の発足
(4)西脇家文書の寄贈

■古文書展示会の開催
(1)展示会「北野村古文書さとがえり展」
(2)神戸北野美術館におけるコーナー展示

 今後も、可能な限り北野地区での調査活動を継続するとともに、地域への還元活動も進めたいと考えています。

北野村古文書さとがえり展のビラ(PDF 1.03MB)
*当日の配布パンフレット
   解説パンフレット(PDF 328KB)/図版パンフレット(PDF 3.52MB)



西脇家文書の調査と寄贈受け入れ

(1)西脇家文書との出会い

 西脇家文書は、旧摂津国八部郡北野村(現神戸市中央区北野町)に伝わった近世〜近代文書群です。本文書群は、大正7年(1918)より資料収集が始められた『神戸市史』編纂過程に調査がされたようですが、大正9年5月に開催された「神戸市史資料展覧会」へ西脇重兵衛氏所蔵文書として、何点かの史料が出陳されており、それが『神戸市史資料展覧会出陳目録』(1921年)の中で目録として登場しているのが、文書群内容の情報としては最初のものと考えられます。『神戸市史資料展覧会出陳目録』(以下『出陳目録』)から、西脇重兵衛氏所蔵を抽出すると78項117点を数えることができます。なお『神戸市史』へは、あまり調査成果が反映されていないのが残念です。また昭和5年(1930)9月に開催された「観艦式記念海港博覧会」でも何点かが展示された模様で、両展示会の開催時に貼付されたキャプション札が多くの原文書につけられたままになっています。
 その後、本文書群はほとんどその存在が忘れられてしまいましたが、2006年までに西脇家が、某古物商、および某機関へ文書群についての相談をもちかけ、さらに神戸大学文学部(当時)の奥村弘教授へも相談を持ちかけたことで、ほぼ75年ぶりにその存在が確認されるにいたりました。

(2)西脇家文書の調査

西脇家での古文書調査 その後は当センターによって文書群の調査・整理が進められました。整理の結果、文書群の総数は266点を数え、『出陳目録』の総数を上回る点数が確認されました。ただし、異同を調べてみると、『出陳目録』に収載されていないものが新たに確認された一方、逆に『出陳目録』に収載されていながら、今回調査した文書群には含まれていないものが少なからずみられました。この理由として、まず時の経過による散逸もあったと思われますが、最初に本文書群に手をつけた古物商へ西脇家が売却した影響もあるかもしれません。実は、この古物商に売却されたものは、その後まわりまわって、ある古書店より神戸大学大学院人文学研究科(地域連携センター)が購入した「北野村文書」と題された文書群に相当するらしいことが、史料につけられていた出陳札や『出陳目録』から確認できました(但し、札に記載されていた「西脇重兵衛氏」の名前の部分がすべて古物商によって切除されていました)。したがって、本文書群と神大所蔵の「北野村文書」は本来同一の文書群として把握すべきものです。

(3)西脇家文書研究会の発足

 文書の所蔵者だった西脇美代子さんは、当初こそ家に伝来した文書にそれほど関心をお持ちではなかった模様ですが、当センターによる調査の際に調査員がすこしづつ説明をするうちに、古文書の中身に関心を寄せられるようになり、結果として2007年4月より西脇さんとそのご友人からなる小グループで「西脇家文書研究会」を発足し、その後ほぼ月1回のペースで今日(2010年5月現在)まで継続しています。その進め方は主に、古文書の輪読を中心に行い、チューターを当センター研究員が務めるという形が取られています。月1回という緩やかなペースながら、参加されている皆さんがそれぞれ熱心なこともあり、現在ではくずし字の読解力はかなり上達されています。

(4)西脇家文書の寄贈

 2010年5月に西脇家文書は、神戸大学大学院人文学研究科に寄贈されることになりました。これは、所蔵者である西脇美代子さんがご自宅での保管が困難であると判断されたことに加え、そのかんずっと「西脇家文書研究会」の活動に継続的に取り組んできたことも縁となり、本学への文書群のご寄贈を申し出られるにいたったものです。事務手続きを経て、現在は同科古文書室に保管されています。

古文書展示会の開催

(1)展示会「北野村古文書さとがえり展」

郡境山境草山出入裁許絵図 西脇家文書の寄贈を記念し、北野の地元で古文書の展示会を企画・開催しました。開催日程は、平成22年(2010)11月3日(火・祝)から6日(土)までの4日間。場所は、神戸北野天満神社境内にあるイベントスペース「北野プラムテラス」を同神社のご厚意で借りることができました。
 本来、古文書を展示できる設備がほとんどない会場でしたが、短期間での開催でもあり、一部の文書を除いて、会場備品のテーブルを並べた上に不織布を敷き、文書をひろげ、上から透明のテーブルクロスを被せて展示する工夫をしました。また、絵図の一部は、アルミフレーム付パネルに入れて、壁に掛けたものもありました。さらに、冊子ものなどの文書については、神戸市教育委員会より拝借した展示ケース二台にディスプレイしました。これらを会場の形態を勘案して配置し、パネル解説を多用する形で展示会場をしつらえました。さらに担当研究員は、観覧者への解説も随時おこないました。会場には研究員が常時詰めるようにしましたが、「西脇家文書研究会」のメンバーにもご協力いただいたので、会場が無人になる時間をなくすことができました。
北野村新開帳 4日間の観覧者は約350名を数えました。宣伝面は決して充分ではありませんでしたが、北野天満神社や地区内の浄土宗浄福寺、「北野・山本地区をまもり、そだてる会」にもご協力いただき、案内ちらしを氏子や檀家に配布していただくなどしたこともあって、地元の方々はもとより、当地を離れた元住人の方が観覧に来られたケースも少なくありませんでした。
 アンケートも実施し、六八名の方々から様々な感想が寄せられた。ここではその全てを紹介できませんが、とりわけ多かった感想としましては、北野の地にこうした古文書が大切に保管されてきたことに驚いたという感想や、古文書の実物をみることができたこと、明治以前の北野村のことを初めて知ったという感想などがありました。また、こうした展示会が当地に限らず数多く開かれることを望んだ意見もみられ、小さくとも現地で開催される展示会が、地域調査・研究の成果発表の手段として有効かつ需要もかなりあることが実感されました。

展示会場「北野プラムテラス」会場内の様子
展示会場「北野プラムテラス」 会場内の様子
(2)神戸北野美術館におけるコーナー展示

山本通一丁目・二丁目絵図 2011年4月に、「北野村古文書さとがえり展」準備段階でのお出会いが機縁となって、「北野・山本地区をまもり、そだてる会」の会長で、神戸北野美術館のオーナーでもいらっしゃる浅木隆子さんより、同館の展示リニューアルにあわせて、北野村の古文書ないし歴史について常設のコーナーを設けたいので是非協力してほしいという要請をいただきました。グランドオープンは4月15日ということで準備期間はあまりありませんでしたが、前回の展示会での経験もあったため、なんとかなるものと考え承諾しました。
 5月いっぱいはリニューアル記念として、明治初年の北野地区を描いた絵図を中心に9点ほどの原史料を展示しましたが、6月以降は北野村の歴史を中心にパネルによる展示を行い、半年に1回程度づつ原文書の展示をおこなってゆくことにしました。
 現在の神戸北野美術館の展示概要はこちら→http://www.kitano-museum.com/

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