2009年度
コロキウムの開催記録

 

「コロキウム」は古典力と対話力を学術的かつ応用的に発展させるために設けられた場のひとつです。
 海外連携大学との共同実施などを通じ、幅広い学問領域の学生間の対話を実現することで、古典力と対話力の学術的展開をはかります。

 

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資料収集・研究交流会

  • 日程:
  • 3月1日 来日、歓迎懇親会
  • 3月2日 オリエンテーション
  • 3月2日~4日 資料収集
  • 3月5日 資料収集総括報告会 懇親会
  • 3月6日 離日

 

■レポート

 「資料収集・研究交流会」は、海港都市研究に関心をもつ海外の若手研究者を対象として、日本で海港都市に関連する資料を収集する作業を支援し、これを本学の大学院生が補助することで、次世代の研究者による海港都市研究の進展とお互いの研究交流を深めることを目的として開催する交流会である。これまで過去4回海港都市研究センターが主催して行ってきたが、昨年度同様、大学院教育改革支援プログラム「古典力と対話力を核とする人文学教育」と共催で開催した。
 平成22(2010)年3月1日-6日、海港都市研究センターの海外連携大学である中国中山大学・中国海洋大学・韓国海洋大学・木浦大学・台湾大学から、若手研究者(大学院生を含む)5名を神戸大学に招聘し、神戸を中心とする海港都市関係の資料の調査・収集を行ってもらった。それぞれに本学の大学院生5名が同行し、公共機関の利用や資料の閲覧・複写などの補助にあたった。
 参加者は以下の通り。

  • 尤 洪波(中山大学):東アジア史/補佐:四方俊祐(西洋史・ポスドク)
  • 李 紅英(中国海洋大学):海洋社会学/補佐:段東海(社会学・博士後期)
  • 林 書沂(台湾大学):日本中世史/補佐:藤井孝太(日本史・博士前期)
  • 韓 賢石(韓国海洋大学):日本植民地史・神社史/補佐:金潤煥(日本史・博士前期)
  • 趙 仁暻(韓国木浦大学):文化人類学/補佐:金玄(日本史・博士後期)

 3月5日には、総括報告会を開催し、調査した資料の内容について報告してもらい、補助の大学院生や教員も加わり意見交換を行った。補助の大学院生の通訳を交えながら、収集した資料の性格や研究の問題点、さらには、今後の研究の方向性などについて活発な議論が行われた。
 資料収集・研究交流会は、海外から招聘した方々にとっては、専門領域にかかわって日本に所蔵されている資料を調査・収集でき、同時に日本の研究者と交流できる貴重な機会となる。また、補助としてついた大学院生にとっても、海外の、また自分の専門領域とはことなる分野の研究者と交流することで、より国際的・学際的な視点から自分の研究を見つめ直すよい機会である。さらに人文学研究科にとっても、国内に所蔵されている海港都市関係資料を海外の視点から見直し、それらの資料情報を収集できるというメリットがある。よって、来年度も引き続き、大学院教育改革支援プログラム「古典力と対話力を核とする人文学教育」と共催で開催する予定である。(文責:添田仁)

 


 

海港都市国際学術シンポジウム「越境する人々とナショナリズム」

  • 日時:2009年11月26日~28日
  • 場所:
    • 神戸クラウンプラザホテル
    • 神戸大学文学部A棟1階学生ホール
  • 主催:神戸大学・韓国海洋大学校
  • 共催:中国中山大学・中国海洋大学・台湾大学・木浦大学校
●報告者(26日)
・竹沢泰子
(京都大学人文科学研究所教授/文化人類学)
「神戸における多文化共生のいま~阪神淡路大震災から15年を経て」
・安美貞
(韓国海洋大学校国際海洋問題研究所HK研究教授/文化人類学)
「海を挟んだ島と都市の家族:帰郷と帰国の間で」
・大津留厚
(神戸大学人文学研究科教授/西洋史)
「ボヘミアからアメリカ合衆国ミネソタへ-移民史研究の行方-」
・朴珉洙
(韓国海洋大学校国際海洋問題研究所HK研究教授/ドイツ文学)
「17~18世紀のバルト海空間におけるオランダ美術の人気と海港都市ダンチヒおよびハンブルクの役割」
・増本浩子
(神戸大学人文学研究科准教授/ドイツ文学)
「ドイツ語で書く<越境した>作家たち」
・李ソンイ
(韓国海洋大学校国際海洋問題研究所HK研究教授/フランス文学)
「追放と解放、疎外と疎通の間の海港都市-映画「Bye-bye」、「La Ville est tranquille(町は静か)」にあらわれるマルセイユ研究」
・金那英
(韓国海洋大学校国際海洋問題研究所HK研究教授/建築工学)
「20世紀前半における植民地海港都市形成に関する研究-中国青島を対象に-」
・田村恵子
(オーストラリア国立大学リサーチフェロー/文化人類学)
「戦前神戸の反英運動と定住英国人」
・呉美京
(韓国海洋大学校国際海洋問題研究所HK研究教授/言語学)
「韓国人日本語学習者の語彙使用実態に関する一考察 -海港都市の釜山に在住している学習者の物語発話を中心に-」
●報告者(27日)
・川口ひとみ
(神戸大学大学院人文学研究科・博士課程/社会学)
「海港都市長崎における行桟・客桟業務-華商「泰昌号」の事例-」
・韓賢石
(歴史学・韓国海洋大学校東アジア学科・修士課程/日本史)
「開港期釜山日本人居留地における神社」
・権京仙
(神戸大学大学院人文学研究科・博士課程/社会学)
「日本占領期(1914-1922)中国青島における日本人・中国人社会経済団体活動の研究」
・張伝宇
(神戸大学大学院人文学研究科・博士課程/東洋史)
「近代印度尼西亚华侨的抵制日货运动」
・姜帆
(中山大学博士研究生/現代東南アジア史)
「汪伪政府与台湾华侨的互动-以台湾侨生回国升学补习班为个案」
・浅利文子
(神戸大学大学院人文学研究科・博士課程/日本史)
「外国米のインパクトと帝国内自給論-1918~1920年の兵庫県農会を中心に-」
・張双双
(中国海洋大学碩士研究生/環境社会学)
「胶州湾开发与青岛城市变迁」
・吉原大志
(神戸大学大学院人文学研究科・博士課程/日本史)
「明治中後期における海港都市神戸の形成について―湊川付替事業を事例に―」
・高啟豪
(台湾大学研究生・專任助理/日本文学)「芥川龍之介の「少年」について」
・李光一
(木浦大学校考古人類学科/社会学)
「浦口村から商業村に:韓国忠清南道広川村の事例」

 

■レポート

 神戸大学大学院人文学研究科海港都市研究センターと韓国海洋大学校国際海洋問題研究所は、中国中山大学、中国海洋大学、台湾大学、木浦大学と連携しながら「海港都市文化研究」を進めてきた。今年度は海港都市センター設立5年目の節目に当たっており、これまでの研究の総括と今後の道筋の模索のため「越境する人々とナショナリズム」と題したシンポジウムが神戸において開催された。大学院教育改革支援プログラムは同シンポジウムの準備・運営に携わった。
シンポジウムは2009年11月26日(木)から28日(土)の三日間に亘って開催された。初日はクラウンプラザ神戸において、これまでの研究の総括報告会と各大学の教員による研究報告会が行われた。二日目は会場を神戸大学に移し、各大学の大学院生による研究報告会と総合討論が行われた。最終日は神戸市内のフィールドワークが行われた。
初日の総括報告会では、まず各大学の代表教員による研究の総括と課題の提示が行われ、その後会場の出席者も加えて今後の方針をめぐって議論が交わされた。研究報告会では、民族的・文化的他者の流入によって生み出された社会・文化の諸相について、神戸大学から2名、韓国海洋大学から5名、京都大学から1名、オーストラリア国立大学から1名の教員による報告が行われ、人文学・理工学の幅広い見地から学際的な議論が行われた。
研究報告会は二度の休憩を挟んで三つに分けられ、第一報告会では、まず竹沢泰子氏が阪神淡路大震災から15年を経た神戸における他文化共生の現状を報告し、続いて安美貞氏が大阪在住のコリアン女性の家族を対象に、彼らの歴史的経験について述べた。そして最後に大津留厚氏が「エスニシティ」の観点からアメリカ合衆国在住のチェコスロヴァキア系の人々を対象とした移民史研究を総括した。
第二報告会では、まず朴珉洙氏が17~18世紀のバルト海に隣接する諸都市におけるオランダ美術の流行とその中でダンチヒとハンブルクが果たした役割について報告を行った。次に増本浩子氏が現在ドイツにおいてドイツ語で創作活動を行うトルコ系、旧ソ連出身、旧東独出身の作家たちを対象に、彼らの作品に見られる様々な自己認識のありようを述べ、最後に李ソンイ氏がフランス映画に描き出された海港都市マルセイユの多様な側面について報告を行った。
第三報告会では、まず金那英氏が20世紀前半における青島の近代建築や都市の形成過程に関する調査報告を行い、続いて田村恵子氏が1940年神戸で起こった反英運動における在住英国人の立場や経験について述べた。そして最後に呉美京氏が釜山在住の韓国人日本語学習者の語彙使用に見られる内容語と機能語の特徴を報告した。
二日目の研究報告会は、神戸大学瀧川記念学術交流会館と同文学部学生ホールの二箇所で開催され、神戸大学から5名、韓国海洋大学校から1名、中山大学から1名、中国海洋大学から1名、台湾大学から1名、木浦大学から1名の院生による研究報告と相互討論が行われた。
そして最後に総合討論が瀧川学術交流会館において開催され、シンポジウムの成果の確認と今後の活動についての活発な意見交換が行われた。(文責:大東敬典)

 


 

近代アジアにおける教育

  • 日時:2009年11月21日(土) 11:00~17:30
  • 場所:神戸大学文学部 B152教室
  • 報告:
    • 長谷部圭彦氏(日本学術振興会特別研究員・明治大学)
    • 「近代オスマン帝国における「公教育」構想-教育行政法を中心に-」
    • 宮原佳昭氏(京都大学人文研附属現代中国研究センター産学官連携研究員)
    • 「1920年代、湖南省における平民教育運動の再検討」
    • 森岡伸枝氏(奈良女子大学非常勤講師)
    • 「明治初期における『公教育』としての女紅場」
    • 田中剛氏(神戸大学人文学研究科学術推進研究員)
    • 「学校のなかの『チンギス・ハーン』」
    • 磯貝真澄(神戸大学文化学研究科博士課程)
    • 「ロシア帝政末期ムスリム知識人の『新方式』教育における『akhlaq』の系譜」
  • ディスカサント:
    • 湯田拓史氏(神戸大学百年史編集室助教)
    • 岡本託氏(神戸大学文化学研究科博士課程)

 

■レポート

 本コロキウムは、本研究科の大学院生と若手の研究者が、学外の若手研究者とともに、「近代アジアにおける教育」をテーマに、歴史学における日本史学、西洋史学、東洋史学という従来の学問分野の枠組を超えて議論を深めることを目的として企画された。学外からの報告者は、長谷部圭彦氏(日本学術振興会特別研究員・明治大学)、宮原佳昭氏(京都大学産学官連携研究員)、森岡伸枝氏(奈良女子大学非常勤講師)の3名であった。本研究科からは田中剛氏(人文学研究科学術推進研究員)と磯貝真澄(神戸大学文化学研究科博士課程)が報告した。またディスカサントは、教育学を専門とする湯田拓史氏(神戸大学百年史編集室助教)と岡本託氏(神戸大学文化学研究科博士課程)の2名が務めた。司会は本研究科の三村昌司氏(人文学研究科学術推進研究員)と大東敬典氏(人文学研究科博士後期課程)であった。
本コロキウムの最大の特徴は、報告者が決定した段階でメーリングリストが開設され、報告者やディスカサントと、本研究科学術推進研究員や学生研究支援員がともに、メーリングリストにおいて議論を重ねたうえで、開催されたことであった。メーリングリストは、参加者各自の自己紹介で開始された。報告者は自らの研究報告の構想を送信し、他の報告者やディスカサントらに意見を求めた。そして研究報告の内容について長文のメールが交換された。メーリングリストにおいて事前に学術的な交流が行なわれたことで、コロキウム当日の議論はより活発となった。結果として、参加者らのあいだで新たな研究会が立ち上げられつつあることは、本コロキウムが極めて充実したものであったことの証左である。
研究報告の題目は以下であった。
・長谷部圭彦氏「近代オスマン帝国における『公教育』構想―教育行政法を中心に―」
・宮原佳昭氏「1920年代、湖南省における平民教育運動の再検討」
・森岡伸枝氏「明治初期における『公教育』としての女紅場」
・田中剛氏「学校のなかの『チンギス・ハーン』」
・磯貝真澄「ロシア帝政末期ムスリム知識人の『新方式』教育におけるakhlaqの系譜」
本研究科の大学院生は、まちがいなく学外の若手研究者から大きな知的刺激を受けた。総合討論の時間が大学院生からの活発な質問により30分延長するほどの盛会であった。(文責:磯貝真澄)

 


 

水俣病をめぐる研究交流会

  • 日時:2009年8月3日午後2時から午後6時
  • 場所:熊本学園大学水俣学研究センター
  • 報告:
    • 山崎勇士(神戸大学大学院人文学研究科博士前期課程)・宇野佑(神戸大学大学院人文学研究科博士前期課程)・三宅陽平(神戸大学文学部)
    • 「アスベスト問題について」
    • 本林良章(神戸大学大学院人文学研究科博士前期課程)・奥野大貴(神戸大学文学部)
    • 「公害被害者の観点から考える倫理」
    • 杉川綾(神戸大学大学院人文学研究科博士前期課程)・八幡さくら(神戸大学大学院人文学研究科博士前期課程)
    • 「アスベスト問題における未解決の問題―補償問題と因果関係に焦点を当てて―」
  • 参加人数:8名

■レポート

●概要:
熊本県水俣市を訪問し、水俣病の被害者への聞き取り調査や水俣病資料館の見学などを行った後(8月1・2日)、水俣病研究の拠点である熊本学園大学の大学院生と神戸大学との合同研究会を開催し、研究者間の交流を行った。まず、熊本学園大学側のメンバーが現在の水俣病に関する研究発表を行い、神戸大学側はアスベスト問題に関する研究発表を行った。その後、それぞれの発表に関する質疑応答からディスカッションへと移った。ディスカッションは盛況のうちに終った。以下は参加した大学院生である宇野佑による感想である。

●熊本学園大学の発表に対する感想:
熊本学園大学の発表者全員に共通して感じられたのは、フィールドワークの重要性であった。この点は、熊本学園大学ほどフィールドワークの経験がない、主に哲学を専攻している神戸大学側の参加者には新鮮に感じられた。原田正純先生の胎児性患者発見のエピソードがそれをよく示しているように、「患者さんが一番よく知っている」ということが重要なポイントであると感じた。フィールドワークの際には、信頼関係が重要であり、信頼関係がないと情報を引き出すことができず、研究もできないということを改めて実感させられた。水俣の場合、歴史的に差別と分断があり、研究調査に当たってそのことがネックになるということも知った。
被害者の聞き取り調査内容をあまりにも絶対視しすぎてはいないかという意見に対しては、水俣では企業や国は熊本学園大学のような研究機関に対して口を開かないという面があるということを教えていただいた。その際、暗黙的に「これ以上水俣病に関して研究してはいけない」というような圧力があったという、宮北先生の熊本大学医学部時代のエピソードを伺った。
水俣病は、決して水銀だけの問題ではなく、化学物質の複合的要因があり、複合的な要素が絡み合った問題であるということを、宮北先生から指摘された。また、地域による問題への取り組み方の熱意の差も指摘された。たとえば、熊本県内では最低でも三日に一回は水俣病に関するニュースが報じられるが、一歩熊本を出ると、そのような状況は見られないということから、水俣病に関する熊本と全国のニュース、情報格差の問題があることを知った。

●神戸大学の発表に関する感想:
神戸大学側の発表も、熊本学園大学の方々が普段接する機会がない哲学を専攻する人間の発表ということで、興味深いものであったようだった。倫理創成プロジェクトが継続的に取り組んでいるアスベスト問題と水俣病の異同ということが浮き彫りになり、双方にとって得るところは多いように思う。また、認定制度について、被害者が自ら声を上げないといけないという点などが挙げられた。このことに関係して、日本では、公害問題における立証責任は被害者側にあるのに対して、スエーデンの場合、加害者の側に、原因の有無、責任についての立証責任がある、すなわち、被害と自分の間に関係がないことを企業側が証明しなければならないという問題を宮北先生から指摘された。
アスベスト問題の場合、いつ発症するかわからないという不安があるという点に対しては、水俣病の場合でも、実際は劇症化へ変化するのではないかという不安が常につきまとうということが指摘された。
また、熊本学園大学大学院より、会話や聞き取り内容の分析についてはどのような手法を用いて行っているのかという質問が寄せられた。(文責:稲岡大志)

 


 

東アジアにおける比較市民社会論

  • 日時:2009年7月9日(木)・10日(金)
  • 場所:神戸大学滝川学術記念会館2F
  • 報告者:プログラム(PDF)を参照
  • 使用言語:英語
  • 主催:神戸大学大学院人文学研究科・延世大学

 中国中山大学・中国海洋大学・韓国愛用大学・韓国木浦大学・台湾大学の各大学から、海港都市もしくは国際交流・異文化接触といったテーマで研究をしている若手研究者を神戸大学に招聘し、各自の研究テーマに沿って「神戸開港文書」から資料を収集するとともに、研究者間の交流を行います。

■レポート

 神戸大学大学院人文学研究科と延世大学(韓国)との共催で、「東アジアにおける比較市民社会論」をテーマとした合同研究報告会を開催した。2日間にわたって開催された本フォーラムでは、神戸大学・延世大学の両大学から参加した計15名の院生・PDに国際的な学術的交流の機会を提供したのみならず、哲学・文学・社会学といった領域の両大学の教員、そして国立台湾大学・アジア太平洋研究所所長の蕭新煌教授や全国労働安全衛生センター連絡会議の古谷杉郎事務局長といった報告者も迎え、学術横断的かつ多角的な研究報告と問題提起が行われた。
 フォーラムはテーマごとに6つのセッションに分けられて進行された。初日の第1セッションでは、本フォーラム開催において中心的役割を演じた、神戸大学の油井清光教授、延世大学のキム・ドンノ教授、そして国立台湾大学の蕭教授の3名を含む5名の報告者によって、主に理論的視座から東アジアにおける市民社会を捉えるための方法論が提示され、本フォーラム全体をつらぬくようなパースペクティブを提供するかたちとなった。次いで午後の2つのセッションでは、市民社会と工業倫理というテーマで、神戸大学文学部倫理創成プロジェクトの進めてきたアスベスト問題に関する研究報告と、韓国における消費社会化を企業倫理と社会運動の観点から問い直す研究報告とがそれぞれ行われた。初日が社会学および倫理学の視点からの報告で占められたのに対し、2日目午前のセッションでは文学研究とジェンダー論の視点からアジアの市民社会の様相を問い直す報告が行われ、報告後の質疑応答も含めて本フォーラムにおける学域横断性を象徴する場となった。次いで、午後の2セッションでは、東アジアにおけるコミュニティと都市空間の形成について、もっぱらフィールドワーク研究に基づいた報告が集められ、それまでの本フォーラムにおける議論から浮かび上がってきた論点が、あらためて多様な具体的事例に則して論議されることとなった。
 また、本フォーラムにおける議論の白熱ぶりを象徴するかのように、閉会における蕭教授の挨拶は、本フォーラムにおける全ての報告に対するコメントとそれらを概観した上での新たな東アジアにおける市民社会の比較モデルの提示という内容となり、予定された終了時刻を大幅に超過しつつも、学術的交流という点では極めて大きな成功と言える会となった。(文責:雑賀忠宏)

 


 

日本研究における若手研究者たちの出会いの場

  • 日程:2009年7月5日・6日
  • 場所:神戸大学瀧川学術交流記念館 2F
  • 発表者:プログラム参照(PDF
  • 使用言語:英語・日本語
  • ・主催:神戸大学大学院人文学研究科・香港大学現代語及現代文化学院

 

■レポート

 本コロキウムは、香港大学の現代語及現代文化学院との共催のもと、両大学の院生・研究員を中心とした若手研究者たちの研究報告と国際的な学術交流のための場として企画された。両大学の院生・研究員を中心に、教員なども含めて最終的に17名を数えることとなった報告者たちは、それぞれ、社会学のみならず文学や芸術学、経営人類学など多様なディシプリンに属し、また、その報告内容も「日本研究」という大きな括りのもとで、歴史研究、日本企業研究、近代化論、家族制度論、ポピュラー文化論など、極めて多岐に渡るものであったため、2日間にわたって、学域横断性という観点から見ても多角的で興味深い報告と議論が提示されることとなった。
「次世代研究者たちの出会いの場」というタイトルが示すように、本コロキウムで報告者として参加した神戸大学・香港大学の院生の大部分は博士課程前期の所属であり、その研究者としてのキャリアの極めて早い段階においてこうした国際的な研究報告会で報告の機会を持つことは、大学院教育の観点から見ても極めて有意義なものであったといえよう。とりわけ、香港大学の院生たちの洗練されたプレゼンテーションは、神戸大学の院生たち、そして若手研究員たちにとっても大きな刺激となっていた。個々の研究内容の質を深化していくのみならず、それをこうした学術的交流の舞台においていかに伝えられるのかという点においても、本コロキウムは貴重な機会となった。また、最終日のミーティングにおいて、本コロキウム開催の中心的役割を果たした油井清光・神戸大学教授と王向華・香港大学現代語及現代文化学院長との間で、この神戸大学・香港大学合同による若手研究者のための国際研究報告会を、今後も継続的に開催していくという方針が確認された。(文責:雑賀忠宏)