歴史資料ネットワークへの協力

 当センターでは、NGO歴史資料ネットワーク(事務局=神戸大学人文学研究科内、代表=奥村弘)と連携した地域遺産保全活動や古文書整理事業、及び神戸市内の自治会単位での地域の歴史の掘り起こし事業を推進しています。
 同ネットワークは、阪神・淡路大震災発生直後の1995年2月に、関西に拠点を置く歴史学会を中心に、震災で被災した歴史資料保全のために結成された「阪神大震災対策歴史学会連絡会」からスタートした組織です。大学教員や院生・学生、史料保存機関職員、地域の歴史研究者などが参加するボランティア団体で、1996年に「歴史資料ネットワーク」(略称「史料ネット」)と改称し、2002年5月には市民と歴史学会による組織として会員制に移行し、現在にいたっています。
 阪神・淡路大震災時には、3年間でのべ800人のボランティアを組織し、被災地を巡回調査しながら、文献資料等段ボール箱1500箱に及ぶ近世から現代にかけての貴重な歴史資料を救出してきました。1995年以降も、鳥取県西部地震や芸予地震、宮城県北部連続地震などの大規模災害時においても、被災地へ多くのボランティアを派遣し、地震発生直後から活動を開始し、現地での地域の歴史遺産保全体制づくりに大きな成果をあげています。
 近年では、2004年が風水害の多発した年となり、新潟・福井等での水害や、度重なる台風により、地域の歴史遺産に対する水損被害が多く発生しました。特に、台風23号では、兵庫県北部や京都府北部で大規模な水害が発生したため、当センターでは同ネットワークに協力して、台風による被災歴史資料の調査・レスキュー、水損史料の乾燥・修復活動へのボランティア派遣などを行ってきました。
 2008年度も、同ネットワークと協力して、神戸大学の授業科目「地域歴史遺産保全活用基礎論」で水損史料の吸水乾燥ワークショップを実施することができました。また、日本近世史と文化財修復が専門の多仁照廣氏を招いて、2004年福井水害時の被災史料保全活動と紙資料修復の方法について講演をいただくとともに、「漉き嵌め研修会」を開催し、史料修復についてのノウハウ普及に力を入れました。「漉き嵌め」とは、和紙の紙漉きの原理を応用して、虫に喰われるなどして穴があいた部分に紙漉きを行ない、水に溶かした紙の繊維を流し込む(嵌める)修復方法の一つです。当センターでは、漉き嵌めをはじめとした、資料保存に携わる者にとって必要不可欠な技術についての研修会を今後とも行い、研究員自体のスキルアップとともに、行政の文化財担当職員や地域住民へもそのノウハウを伝えていく機会を持つ予定です。

台風23号による被災歴史資料の救済・修復活動への協力

 センターでは、歴史資料ネットワークに協力して、2004年台風23号による被災歴史資料の調査・レスキュー、及び修復活動に携わっています。
 2004年12月15日現在、被災史料調査は8回(10/28豊岡市、11/1日高町、11/4西脇市・黒田庄町、11/6但東町、11/6洲本市・西淡町・三原町、11/14養父市、11/18出石町、12/1宮津市・京丹後市・加悦町・福知山市・大江町)に及び、3度のレスキューを実施しました。レスキューでは、11月1日に日高町のM家から近代以降の文書約20点、11月7日に同町のT家から近世・近現代の文書・書籍等約300点以上及びふすま6枚、11月19日に出石町H地区から公民館保管の近世・近現代の文書・絵図・写真(アルバム)・ファイル等段ボール箱11箱分を救出しました。いずれも、水濡れによる被害(水損)に加え、泥水による被害(汚損)を受けているものが多く、また一部にはカビが生じるなど、極めて深刻な状態にあり、早急な修復を要するものです。

日高町M家日高町T家
▲日高町M家での所蔵者による陰干し▲日高町T家の汚損史料
出石町H地区
▲出石町H地区の水損史料

 上記救出史料のうち、日高町M家の史料については、京都造形芸術大学歴史遺産研究センターの尾立和則氏に修復を依頼しましたが(すでに乾燥作業を終了)、日高町T家および出石町H地区の史料については、神戸大学文学部に搬入し、のべ200名を超える学生・市民ボランティアの皆さんのご協力を得ながら、処置を進めました。このうち前者については、水損の程度の軽微なものは1点ずつキッチンペーパーを用いて吸水・乾燥作業を行ったあと陰干しし、水損・汚損の著しいものは、真空凍結乾燥処理を念頭に冷凍凍結することとしてその準備作業(水洗い・吸水・消毒・整形・袋詰め等)を行いました(11/27,28で終了)。これに並行して仮目録の作成も行っています。一方、後者については、被災から長い時間が経過し、劣化が進行していることに鑑み、一刻も早く全点冷凍凍結して真空凍結乾燥処理に回すことにし、準備作業を行いました(12/4,5に終了)。そして12月6日、両者の冷凍凍結分(段ボール箱39箱)を冷凍倉庫会社へ搬入しました。これらについては、現在、兵庫県文化財室のご協力を得ながら、真空凍結乾燥処理に向けての検討を行っています。処理機を所有する機関での処理の実施とその後の受入、学内処置分とあわせての整理、所蔵者への返却が今後の課題となります。

キッチンペーパー真空凍結
▲キッチンペーパーによる吸水・乾燥作業▲真空凍結乾燥処理の準備作業

 T家・H地区の史料については、ほぼ当面の処置は完了した訳ですが、被災史料調査は今後も継続して実施致しますので、その中で新たに水損・汚損史料が発見される可能性が高いと考えられます。そのため、今後とも修復作業に携わる多くのボランティア、特にそのとりまとめ役となるボランティア・リーダーとなっていただける方が必要です。ご協力いただける方は、歴史資料ネットワーク事務局までご連絡いただきますようよろしくお願い致します。

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