兵庫県公館県政資料館との連携事業

 兵庫県公館県政資料館歴史部門は、2007年10月1日から運営専門委員を設置しました。この委員は、これまでの懇話会にかわり、歴史資料部門の運営方針や収蔵資料の利用促進対策等について多角的視点から専門的助言を得るためのものです。2007年度に続き、当センターからは、奥村弘副センター長が委員となりました。
 また、2006年6月から7月にかけて県政資料館で「郡役所文書の世界」の展示が行われました。その経緯や内容については、奥村弘・深見貴成「県政資料館、神戸大学文学部地域連携センター共同企画「郡役所文書の世界」について」(『兵庫のしおり』9、2007年3月)を参照ください。県政資料館所蔵の「宍粟郡役所文書」をベースとして、文学部の授業を通じて学生を中心に展示内容や図録作成が行われ、展示を具体的に企画する学生教育という面、また公開授業・公開ゼミへの市民の参加という面など、新たな取り組みを行うことができました。

共同企画展覧会「郡役所文書の世界」展

 地域連携センターと兵庫県公館県政資料館の共同企画、特別企画展示「郡役所文書の世界」が、2006年6月19日〜7月18日、兵庫県公館県政資料館の第1展示室でおこなわれました。
 センターと資料館の間では、2005年、同館所蔵の歴史資料を活用し、学生自らが史料分析を加え、その制作・展示までをおこなうという企画案がまとまりました。センターとしては、これを通じて、学生の歴史教育におけるインターシップの導入をはかるとともに、「地域歴史遺産の活用を図る地域リーダーの養成」事業の推進をめざしています。
  今回の企画展示対象に選ばれた史料は、同館が所蔵する「宍粟郡役所文書(しそうぐんやくしょもんじょ)」。展示の準備風景同文書は明治前期から大正末年頃におよぶ計67冊の簿冊からなり、かつて全国的に設置されたいた郡役所の役割や機能をみる上で貴重な史料群といえます。このうち実際に分析・展示できたものはわずかですか、会場ではそれが、「I教育事業(二部教授)」「II公有林整理事業」「III壮丁教育-兵役をひかえて-」「IV罹災救助事業」の4つのグループに分けられ、それぞれに解説展示が加えられています。
   文学部の奥村弘教授(地域連携センター事業責任者)のゼミナールでは、1年以上の月日をかけて、この文書群の分析・研究にあたり、今回ようやくその展示にこぎつけました。
見学風景 同教授の指導をうけて、実際に分析・展示制作にあたった学生・院生たちからは、「史料の実物に触れて分析や研究ができたのはとても嬉しかった」、「いつも自分が観る立場にいる展示物を現実に制作できたのは良い経験になった」という声がだされた反面、「展示パネルのキャプション作りなど、誰がみてもわかりやすい展示にすることの難しさをよく理解できた」などの感想が寄せられました。
開会式テープカット   なお6月19日の午前中には開会式がひらかれ、鈴木正幸副学長と大原義弘兵庫県企画管理部教育・情報局長によるテープカットもおこなわれました。また同日午後には、展示制作を指導した奥村弘教授による展示解説セミナー「兵庫県の地方自治と郡役所の成立」がおこなわれ(兵庫県民会館にて)、60名以上の市民・学生が聴講しました。

巡回展示及びセミナー 2005年度

11月11日 兵庫県立淡路文化会館

 さる11月11日、兵庫県立淡路文化会館において、県政資料館巡回展示及びセミナーが開催されました。
 展示は11月5日(土)より同月20日(日)までの期間開催されていましたが、この日開催されたセミナーでは、まず伏谷聡氏(同志社大学文学部非常勤講師)により、今回の巡回展示の主要展示物である県政資料館蔵「兵庫県漁業慣行録」についての展示解説セミナーがなされ、兵庫県における近代漁業以前の漁業慣行についての記録である同書の解説を丁寧に解説されました。
 続いて、神戸大学文学部地域連携センター研究員の木村修二より「地域歴史遺産としての古文書」と題する講演がなされました。
 同講演では、様々な理由から現在滅失の危機に瀕している文献史料(古文書)を、滅失の危機から防ぎ保全・活用してゆくことの意義を、昨年の台風23号水害における歴史資料ネットワークの活動を主な事例に論じました。

12月10日 兵庫県立丹波の森公苑

(1)展示
○展示内容:兵庫県公館県政資料館の収蔵資料である柿芝町(現丹波市氷上町付近)の江戸後期〜明治の文書を紹介しています。
○期間:2005年12月2日(金)〜12月13日(火)

(2)セミナー
○内容
・伏谷聡氏(同志社大学文学部非常勤講師)
 「柿芝町文書−丹波国氷上郡の古文書−」
 「柿芝町文書」にみえる江戸時代や明治時代にかけての租税・村政関係史料、刀屋新五郎家の経済活動をしめす史料、丹波の綿業にかかわる史料などをわかりやすく紹介・解説しながら、当時の丹波国氷上郡の地域社会の歴史にせまる報告でした。
・松下正和(神戸大学文学部助手)
 「被災歴史資料保全活動と丹波の災害史」
 2004年の台風23号で兵庫県や京都府内の歴史資料が水損等の危機にあう中で、被災地の行政・住民・研究者が連携しながら保全活動を行ってきました。演者が事務局長を務め、地域連携センターも協力を行ったボランティア団体の「歴史資料ネットワーク」による、これら兵庫県内の被災歴史資料保全活動をふりかえりながら、災害からの歴史資料を保全する方法について検討しました。また、明治以降の氷上郡域を中心に、丹波の水害史を紹介し、『兵庫県災害誌』だけでは把握しきれない水害が127回記録されていることを明らかにしました。その中でも記録がよく残っている水害に、・雨台風の昭和28年台風13号と風台風の昭和29年台風15号との対比・昭和34年の伊勢湾台風(台風15号)(「三四災」)・昭和40年の台風23号、集中豪雨、台風24号(「四十年災害」)があることを報告しました。
 当日、参加者にアンケートを実施してみると、伊勢湾台風の記憶が一番強烈だったとのことでした。
 但馬地域(円山川流域)では「伊勢湾台風よりも水位が高かった」が丹後地域(由良川流域)では「二十八水(昭和28年台風13号)よりも水位が低かった」という、台風23号による被災者の水害の記憶と比べてみると興味深いものがありました。このような、災害の歴史は「美和村日誌」「春日部村役場日誌」などの役場の記録、「兵庫県立柏原高等学校気象班誌」などの学校の記録、古い新聞、碑文などにより明らかになること、また過去の水害の記憶の継承があってはじめて明らかになることをお伝えしました。万が一水害被害にあっても、自然乾燥や真空凍結乾燥などによって修復可能な場合があるので、安易に身近な記録類を廃棄せず、できるかぎり残していただきたい点と、災害にまつわる伝承や記憶も含めて次世代に継承していただければ大規模災害から地域を守る基礎的な作業になりうる点を参加者の皆さんに強調し、講演を終えました。
 講演後、碑文の拓本のとり方や災害史の調べ方についての質問をうけました。他には、伊勢湾台風時に実際に河川の水位調査を行った方のお話も伺うことができ、貴重な体験をすることができました。また、園田家文書にみえる元治二年の播丹国境地震についての史料の写しを提供してくださった方もいらっしゃいました。参加者も定員をオーバーし、地元の災害の歴史に対する関心の高さを改めて感じました。

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