2008年度
古典サロンの開催記録

 

「古典サロン」は古典力と対話力を学術的かつ応用的に発展させるために設けられた場のひとつです。

学術推進研究員等が指導し、学生が一般市民と触れ合いながら表現力や企画運営を学ぶなど、学生と教員とが共同でコーディネートしつつ、市民へのアウトリーチを実践していきます。

 

>>2009年度のサロン開催記録

 

 


 

生野銀山古文書合宿

  • 日程:2009年2月28日(土)~3月1日(日)
  • 内容:
    • 2009年2月28日(土)
      • (1) 生野銀山の合宿、生野銀山町の散策
      • (2) 生野書院企画展「生野書院文書の世界」の閲覧
      • (3) 古文書の整理
    • 2009年3月1日(日)  
      • (4) 古文書から掘り起こす歴史講演会
        • 森田竜雄「森垣村・石川家の人々」
      • (5) 座談会「石川家の先祖を語る」
        • 石川道敬・石川道代

 市民と学生が一緒になって、生野銀山に眠る古文書に触れ、また整理することを通じて、地域に遺された古文書の意義と、そこから明らかになる地域の歴史について考えます。

●本古典サロンの記録

(1)趣旨
本合宿は、学生が市民と協力しながら地域の歴史遺産を保全・活用する技術やノウハウを学ぶ場であり、地域歴史遺産の保全・活用を実践しうる地域リーダーの養成を目的としている。
 古文書合宿という形式で、平成21年2月28日・3月1日の両日、朝来市生野マインホールにおいておこなった。大学からは、教員5名・地域連携研究員2名・院プロ研究員4名・大学院生14名・学部学生17名の計42名が参加した。
 学習の素材となる地域遺産として、生野銀山に隣接した森垣村石川家の古文書を活用した。石川家は、江戸時代から龍野屋という屋号で宿屋や薬屋を営みながら、大庄屋や本陣をつとめ、大正期以降は醤油屋を営んだ巨大地主・商家であった。また生野代官所役人や町内の山師・郷宿・掛屋とも縁戚・金融関係をもち、互いに銀山・代官所の経営をめぐって連絡を取り合うなど、鉱山の近郊農村にありながら、生野銀山・鉱山町とも深いかかわりを持っていた。
 なお専門性の高い合宿となるため、事前にガイダンスをおこない、整理する古文書や生野銀山などについて、大学からの参加者が知識を共有できる環境を整えた。

(2)概要
①銀山坑道の見学、銀山町内の散策(2月28日)
 生野銀山の古文書を整理する前提として、生野が如何なる特色を持つ地域であったのかを知っておくために、フィールドワークを設定した。まず、シルバー生野職員の案内のもと、鉱山資料館と金香瀬坑道を見学した。ついで、古文書学習会の海崎氏の案内のもと、銀山町内のうち生野代官所周辺の散策をおこなった。
②歴史講演会「肖像・墓碑銘・過去帳からみた石川家」(森田竜雄)
 石川家文書の整理を進めるなかで明らかになった史実を、生野町の方々に紹介するためにおこなった講演会である。学術推進研究員の森田竜雄が、石川家の歴代当主について、同家の掛け軸に描かれた肖像や墓碑銘、過去帳などから詳細に分析し、報告した。
③古文書整理(2月28日・3月1日)
 石川家文書を用いて、地域住民の方々とともに古文書整理を行った。今年度は、古文書整理経験者と未経験者を分けて、それぞれの班に市民にも参加してもらった。市民22名の参加を得た。一度整理を終えた古文書ではなく、石川家文書のうち未着手のものを使用した。とくに桐箱に入った古文書の保存状態をデッサンしながら記録し、その上で整理をおこない、もとの桐箱に戻すという一連の作業を体験した。
④生野書院常設展・企画展の閲覧(3月1日)
 生野書院の常設展と、企画展「生野代官所の世界」を閲覧し、古文書から歴史像を描き出す手法を学んだ。
⑤石川家のおもひで座談会(3月1日)
 石川家の方に、自家の歴史について語っていただき、学生・市民がざっくばらんに感想・意見を交わす座談会を実施した。石川通敬氏には、父親であり、郷土の歴史家であった石川準吉氏に関するお話をいただいた。また、石川道代氏には、実際に古文書などの古い資料を所蔵している家ゆえの特別な経験や、古文書や歴史学に対する思いなどについてお話いただいた。

(3)合宿の効果
①実践的な古文書整理
 全体として、地域遺産の保存・活用をめぐる実践的な能力を身につけさせることを最重要課題においた。とくに、古文書は整理未着手のものを用い、整理作業についても、古文書を桐箱から出して整理し、もとのかたちに復元するまでの一連の過程を体験させた。古文書の原秩序を維持しながら整理することの重要性と難しさを体感してもらうことを意図した。今後は、古文書の面白さを知ってもらう夏の古文書合宿と連動するかたちでプログラム全体の構成を組み直す必要があるのではないか。
②市民との対話力
 鉱山坑道や銀山町内散策の案内を市民に依頼し、学生が市民から学ぶ場を設定した。また、企画展「生野代官所の世界」では研究者が研究成果を市民にアウトリーチする方法を提示し、座談会では研究者や学生が市民と直接対話する場をもうけた。古文書整理は、学生と市民が協同でおこない、互いの知識や意見を交換しながら歴史遺産を保存・活用する場として設定した。このように市民と対話できる場を成り立たせるためには、学生の側が専門的知識や地域の情報を事前に仕入れておく必要があるため、ガイダンスが不可欠となる。
③院生のコーディネート力の養成
 演習の準備をすべて研究員が行うのではなく、意図的に大学院生に振り分けることで、演習に対する彼らのモチベーションと緊張感を維持させた。とくに、23日のガイダンスでは、古文書整理の方法について大学院生から報告させた。この点については、大学院生に「地域歴史遺産保全活用の真の「地域リーダー」たるには、自分だけが古文書の整理能力を身につければよいのではなく、下の学年(次世代)にもその「実践力」を継承していくためのアクチュアルな技術が必要である」(前田結城)との認識を植え付けることができた。(文責:添田仁)