第1回 地域歴史文化連携コンソーシアム
2010年6月28日(月) 15:30〜
於:神戸大学文学部A棟・学生ホール
《参加機関》
朝来市教育委員会、尼崎市立地域研究史料館、伊丹市立博物館、小野市立好古館、加西市教育委員会、香寺町史研究室、神戸市立中央図書館、神戸市立博物館、神戸市立文書館、神戸市立埋蔵文化財センター、神戸新聞社、三田市(市史編さん担当)、佐用町教育委員会、たつの市教育委員会、丹波市春日町棚原自治会パワーアップ事業推進委員会、兵庫県教育委員会文化財室、兵庫県立考古博物館、福崎町教育委員会、神戸大学経済経営研究所・同大学院人文学研究科地域・同文化学研究科・同地域連携推進室
当日の報告と提起内容
《個別報告》
(1)大槻守(香寺町史研究室)「町史編さんと市町合併」
- 「村の記憶」という形で住民が主体になった執筆方針。
- 合併がもたらした意味→町史と収集史料の保全、活用を困難に。
- 市との協議のあり方(なかなか打開策がでない)。
- 編集室解散後も、町内の連合自治体から部屋を借り、町史研究室を継続運用。
(2)大村敬通(小野市立好古館)「地域展と新たな動き」
- 子供たちの市内各地域の歴史と文化を伝えていくための「地域展」の概要と変遷。
- 地域展がもたらした効果→入館者数の増加、地域の活性化。
- 平成20年には地域展を開いた黍田町で「伝統文化子ども教室」の開催が定例化。
- 平成22年には地域展を開いた河合町で「河合の伝統と文化を伝える会」の発足。
(3)松下正和(人文学研究科)「センター事業の成果と課題」
- 丹波市春日町棚原地区での取組の内容と効果→古文書を活用したまちづくり、3世代へのPR、地区外への波及効果、ただし解決すべき課題も多い。
- 地域リーダーの資質としては、様々な分野の専門家をコーディネートできる能力をもった人が必要。中山間部地域の歴史遺産のケアのためには、拠点づくりを前提とした支援が不可欠。
《地域づくりプランの提起》
坂江渉(地域連携センター)「ひょうご歴史資料情報基盤システム」(仮称)の構築と「地域歴史文化を担う人材育成」プランの提起
(1)「ひょうご歴史資料情報基盤システム」(仮称)の構築
【内容】
I.地域史料の悉皆的調査にもとづいた全県的な史料目録の作成
II.作成された史料目録を市民も利用できる環境の整備
【システム構築に向けての具体的提案と検討事項】
I.全県的な史料目録作成のための研究とその具体化
研究課題
(@)既存の各地の史料目録をどう活かすか
(A)未調査史料、再調査が必要な史料への対応
パイロット事業
戦前期の地方新聞の画像デジタルデータ化作業 (神戸又新日報、コーベ・クロニクルetc)
II.利用環境を整えるための市民向け「まちづくりハンドブック」の作成
地域史料を用いて一定の成果をあげた地域、団体での経験や方法論を紹介
(2)地域歴史文化を担う人材育成
【人材育成の対象】(2本柱)
I.専門職(自治体職員・学芸員など)…リカレント教育
II.一般市民…歴史文化をめぐる広い知識と能力をもつ市民の育成
「歴史遺産活用士」(仮称)として認定し、認定後も支援するシステム
※平成24年度から変更される「学芸員資格の認定制度」への対応も必要
【提案実現のための試行案と研究テキストの作成計画】
I.大学と連携事業をすすめている拠点地域(県民局なども含む)において、「地域歴史遺産活用講座 夏の学校」or「歴史文化サテライト教室」を実施
・利用可能施設での集中講座
II.これまでの連携事業の成果を踏まえた研究テキストの作成
・地域遺産の活用のための市民向けテキストの作成なども視野に入れる
(3)歴史文化ファンドの確立
【3年間の研究プロジェクトやそれを通じて開発されたシステムを支えるための基金作りをどう進めるか】
・どのような課題を解決すれば恒常的な資金を引き出せるか
討議内容
《個別報告をめぐって》
- 合併がもたらした香寺町史の現状の話を聞いて心傷むものがある。
- 香寺町史の「村の記憶」の取組は大きな財産。合併による弊害を、何とか住民の力を結集させていくことで突破できないか。
- 香寺や小野での話にもあるように、地域づくりの一番のポイントは「人と人の関係」をどう繋いでいくかの問題。それを各地域の個性や特性にもとづき進展させる工夫が必要。
- 地域遺産を活用するためには、地域内にどのような遺産や資料があるかを整理し、おさえていて行くことが不可欠。その意味で「歴史情報基盤システム」のようなものが出来るのは大賛成。
《地域づくりプランをめぐって》
「歴史情報基盤システム」
(全県的調査のすすめ方と目録の取り方)
- データベース作りをおこなう際にまずやるべき事は、史料一件ごとの目録作りではなく、史料群ごとの現状調査と目録作りではないか。
- 今回のコンソーシアムに参加していない自治体地域での対応をどう行うのか。
(既存資料の扱い)
- 各自治体史編集室で集めた写真版の資料をどう扱うのか。
- 兵庫県史の編纂過程で集めた史料については、時代別・分野別のワーキンググループによる検討が必要。
(公開の仕方)
- 提案には賛成するが、整備する前に全県的レベルでの議論が必要。個人所蔵文書の扱いやプラバシーの問題がある。
- 調査(再調査)した史料目録データの管理・公開をどう進めるか(集中orクラウド)。
(緊急的課題)
- 限界集落など緊急を要する地域での史料の把握には早急に取り組むべき(庄屋・戸長文書調査、デジカメ撮影など)。
「人材育成」
- いきなり体系的なシステム作りをめざすのではなく、地域の実情に合わせた緩やかなものを作るべき。
- 兵庫県のヘリテージマネージャー制度などの経験も参考にして、じっくりと考えるべき。
- ファンド作りは大変な課題だが、例えば、各事業・講座ごとにワンコイン募金箱制度なども実施したらどうか。
参加者の感想文
- 今後解決すべき課題は多いが、早急に取組べき必要性は参加者の合意点になったと思う。図書館に勤務する者にとっては、所蔵(死蔵)資料の活用が大きな課題である。各所属機関の現状や機能に応じたプラン作りが重要。
- 大きな計画なので、関係機関と連絡を取りながら、是非とも推進してほしい。
- 平成の大合併により巨大化した市などでは、文化財関連の財政難、担当者の異動などが生じてかなり厳しい現状にある。平成の合併に地域への関わりの変化についても検討する必要がある。丹波市棚原地区のような基礎コミュニティーを基軸にした動きは、厳しい全体状況の中での明るい兆しともいえる。同じように置塩城の夢前や但馬国分寺跡における市民の動きにも期待できるように思える。
- 前半の報告での香寺・小野市・丹波市などの動きは前からある程度知っていたが、今回、その現状と課題を聞けて良かったと思う。「歴史資料情報基盤システム」の構築の話については、もう少し具体的にすすめないとかなり厳しい。全県的レベルで協力して出来るシステム作りについては、相当疑問だ。また現在の県内の各市町レベルで、今回の提案に対応できる基盤・体制があるかどうか、あらかじめ把握しておく必要がある。また今回のプロジェクトをきっかけにして、逆に歴史資料を取り巻く現状や課題を、それぞれの市町の担当者に知ってもらうのも有効であろう。
- コンソーシアムが歴史資料の情報発信ばかりではなく、幅広い市民を巻き込むような活動をどのように作り上げていくのかについても考慮する必要がある。人材育成については、地域の歴史遺産全般を理解し、その保存・活用を提案できるような人材の育成にも考慮して欲しい。
- 討論時間がやや不足気味だった。今回は全体の総論ということで、次回以降、個別具体的に深められたら良い。震災を機に地域連携を全国に先駈けて取り組んだ大学として、良い方向にあると思った。一緒に頑張りましょう。あまりガチガチのものは困るが、何らかの旗印は必要。ネーミングや内容にはいろいろ精査すべき点はあるが、「旗印」を立てることは重要。「ゆるやかなもの」という本質は守りつつも、印象の強い「旗印」は守って行きたい。