お知らせ

第14回地域歴史資料学研究会
(第12回阪神・淡路大震災資料の保存・活用に関する研究会)

日時: 2012年7月2日(月)
場所: 神戸大学大学院人文学研究科A棟1F学生ホール
内容:

【報告】
板垣 貴志氏(神戸大学大学院人文学研究科)
  「書評 『阪神・淡路大震災における住まいの再建―論説と資料―』
                    (人と防災未来センター資料室、2012)」
石原 凌河氏(人と防災未来センター資料室)
  「書評 『伊丹からの発信 本文編』(伊丹市立博物館、2012)」

概要:

 阪神・淡路大震災発生から17年余りが経ち、阪神・淡路の被災地では、大震災を歴史的にとらえ、それを次世代に引き継ごうとする動きができてきている。阪神・淡路大震災の資料・記録を保存しようとする動きは、震災直後から被災地のさまざまな団体や個人によって行われてきたが、大震災発生から時が経ち、被災地でも震災を体験した人が減少してきている中、一方で東日本大震災の発生を受け、そうした震災資料を用いて、大震災を「歴史」の中であらためてとらえ直し、その経験を次世代や東日本の被災地に伝えようとする意識が社会的に強まっていることも確かだといえよう。

 こうした中、「震災史」や「震災資料集」の編纂・刊行が近年進められている。2011年度には、伊丹市立博物館編『阪神・淡路大震災 伊丹からの発信 手引・資料編』が刊行され、2012年度には、同館編『阪神・淡路大震災 伊丹からの発信 本文編』と、人と防災未来センター資料室編『阪神・淡路大震災における住まいの再建―論説と資料―』の2 冊が刊行された。

 本研究会ではこれらの書評を通して、震災資料を活用し、大震災を次世代に伝えていく方法につ
いて議論された。石原氏が前著を、板垣氏が後著を書評し、それぞれの編集・執筆に関わったメンバーからのリプライがあった。研究会の詳細については、報告書『阪神・淡路大震災資料の保存・活用に関する研究会』(神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター、2013 年3月)を参照されたい。
 
 なお、本研究会は、今年で12回目となる「阪神・淡路大震災資料の保存・活用に関する研究会」との共催である。(吉川圭太)

主催: 神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター  阪神・淡路大震災資料の保存・活用に関する研究会
科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ
震災復興支援・災害科学研究推進活動サポート経費(奥村弘)「災害資料学の実践的研究―阪神・淡路大震災の知見を基礎として―」

第13回地域歴史資料学研究会
―水損資料救済取り扱いワークショップ―

日時: 2012年6月16日(土)〜17日(日)
場所: 敦賀短期大学
内容:

【報告・実演】6月16日
内田俊秀氏(京都造形芸術大学)  「和紙解説/移動式凍結真空乾燥器の説明」
松下正和氏(近大姫路大学)     「汚損資料の洗浄・乾燥方法の概要について」
多仁照廣氏(敦賀短期大学)     「水損資料の脱水試験」

【オプショナル・ワークショップ】6月17日
多仁式漉き嵌め法ワークショップ

概要:   東日本大震災では、津波によって大量の史料が水損・汚損した。現在でも、全国各地で洗浄・吸水・乾燥・防黴・脱塩といった処理が続けられている。このような史料保全の現場において、一つでも多くの史料を救済できるよう、専門家ではなくても活用できる技術や機材について実践的に学ぶことができるワークショップを開催した。

 内田俊秀氏は、和紙の構造と、各地で行われている真空凍結乾燥処理の事例について報告した。松下正和氏は、身の回りにある品物を用いて吸水・乾燥する方法、一枚ずつ水洗いする方法、冊子状のものをビニール袋に入れて密封し吸水する方法等を実演・紹介した。多仁照廣氏は、独自に開発した簡易な漉き嵌めの方法を実演・紹介した。

 参加者からは、「大震災が起こった場合、自分は何をすればいいのか、大変気になるところではあったので、今回その作業の一端を見せていただくことが出来、具体的な作業もあり理解し易く、とても有意義なものでした」、「多くの場所で、いろいろな方法が使えるようになればリスク分散にもなり、より多くの史料が救済出来ると思います。有事の際のネットワークの構築が重要だと思いました」といった感想が寄せられた。(添田仁)
主催:

科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ
福井史料ネットワーク
敦賀短期大学

第12回地域歴史資料学研究会
日時: 2012年6月14日(木)
場所: 神戸大学大学院人文学研究科A棟1F学生ホール
内容: 【報告】
三村昌司氏(東京未来大学)
「地域歴史資料の活用と歴史学」 
概要:  科学と市民社会の関係は、歴史学分野に限っても、 古くから、そして常に問い続けられてきた課題である。そのなかで、その関係性は徐々に変化し、近年はまた新しい局面を迎えている。すなわち、価値観が多元化した現代社会において、「啓蒙」という一 方向的なコミュニケーションではなく、かつて科学運動が理念として掲げた「研究と社会との相互関係性」をどのように再び位置づけなおしていくのかが問われている。

 そのことを考える手がかりとして、 黒田俊雄氏の70 年代から80 年代の論考を取り上げた。黒田氏は、価値観の多元化にともなって新しい多様な主題を見つけ出し叙述する必要があるが、それは「分析」や「考証」によって、科学的な認識の型=体系に高められる必要があると述べた。一方で、 相対化された「小さな物語」を、「つまみ食い」的に羅列することは明瞭に否定した。そのような黒田氏が新しい主題として見出したのが「全体史」であり、より具体的には民衆生活史としての「地域史」 であった。

 この黒田氏の論考に、近年あらためて光を当てたのが、1997年に始まる「戦後史料保存運動史学習会」 を契機とした、大阪歴史科学協議会の一連の活動であった。しかし、大阪歴史科学協議会の取り組みは、 黒田氏の「全体史」を手がかりに、歴史学の復権を目指すように読み取れる。ただ、そこには研究者が求める地域史を、果たして住民も求めているのかという問題点が存在するように思える。

 しかし、「地域史」は歴史学の全体性を回復するためのものではない、と考えるべきではないか。では、「地域史」とはどのようなものなのか。黒田のかつて述べた叙述のあり方をふまえて考えるならば、それは叙述する主体は果して誰なのか、という問いを立てることで、その回答の手がかりを得ることができる。すなわち、「研究者」や「住民」というラベリングを再考することである。「研究者」「住民」といった役割を固定化することなく、地域史にかかわる個々の人間が、いかに連携しつつ地域史を叙述するか。そのことを模索していくことが、新しい地域史への道程となるのではないだろうか。(三村昌司)
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ


第11回地域歴史資料学研究会
日時: 2011年10月20日(木)
場所: 神戸大学大学院人文学研究科A棟1F学生ホール
内容: 【報告】
  大場利康氏((国立国会図書館関西館)
 「東日本大震災とデジタルアーカイブ」
  佐々木和子氏(神戸大学地域連携推進室)
 「阪神淡路大震災における震災資料」
  板垣 貴志氏(神戸大学大学院人文学研究科)
 「神戸市震災関連行政文書の整理について」
概要:  2011年3月11日に発生した東日本大震災のあと、被災地では写真や位牌を拾い集める動きが自主的に起こったり、指定未指定にかかわらず様々な文化財を保全する活動が立ち上がった。これらは、人々の歴史や記憶にかかわるものを守ろうとする人々のさまざまな営みであると考えられよう。

 このような人々の動きは、過去の記憶や歴史文化を伝える資料や文化財が、わたしたちの社会を形づくってきたという意識に支えられたからこそ、起こったものではないかと考えられる。そうだとすれば、震災にかかわるあらゆる資料を守りながら、それを「震災資料」としてどのように伝え、生かしていくかもまた、大震災を後世に伝えていくための大きな課題といえるだろう。このような問題意識のもと、本科研では、震災の記録や記憶にかかわる「震災資料」をめぐる今日的な状況と問題を議論するための場として、今回の研究会を開催した。

 大場報告では、前提として、インターネット時代におけるきわめて多様な記録・記憶を長期間共有するために、災害からデジタルデータを守るためのデータ分散と、バックアップの必要性がまず述べられた。そのうえで、東日本大震災にかかわる国内外のデジタルアーカイブの現状が紹介され、また国立国会図書館としての取り組みにも触れられた。最後に、課題として、(1)日本国内の様々な動きをどのように、誰がまとめていくのかという問題、(2)蓄積されたデータの保存・円滑な活用を長期的に担う仕組みをどのように作っていくのかという問題があることを挙げた。また、(3)日本国外との連携をどのように進めていくか、この点もまだ十分ではなく、海外に蓄積されている情報共有が問題としてあることが語られた。

 佐々木報告では、阪神・淡路大震災のさいに、21世紀ひょうご創造協会がどのようなものを「震災資料」として収集を行ったかということについて述べられた。阪神・淡路大震災時には、「震災資料」がどのようなものかということがまったく対象化されていなかったため、まずその内容(地震の実態、地震被害の実態、地震対応の実態、被災者の生活実態、復興計画・事業の経過などを示す資料・記録類)を定めることからはじまったことなどを中心に説明があった。また板垣報告では、現在進められている神戸市の震災関連公文書の整理状況がどのようなものであるかついて説明があり、保管環境の問題や今後の公開・活用体制が見えてこないという問題点の指摘がなされた。(三村昌司)

 なおこの研究会は、当初2011年9月21日(水)に予定されていたが、台風15号で延期になったものを改めて開催したものである。
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第10回地域歴史資料学研究会
日時: 2011年7月8日(金)
場所: 龍野藩西組大庄屋八瀬家住宅(たつの市揖西町中垣内甲296)
内容: 被災した襖下張り文書の保全作業について
指導: 尾立和則氏(修復家)、松下正和氏(近大姫路大学)
概要:  2011年5月29日に発生した台風2号により、八瀬家住宅(たつの市指定重要文化財(建造物))仏間の2枚のふすまが破損したという市よりの相談をうけた。

 さいわい水濡れはなく、研究協力者の尾立和則氏と研究分担者の松下正和氏の協力で、これら被害をうけたふすまのオモテ紙のはがし作業を実施した。作業は市職員・八瀬家ご当主たちあいのもと行われた。

 作業はまずふすまに名称を付し、採寸・スケッチ作成を行ったあと、木枠・引き手の撤去をまず行った。そののちオモテ紙をはがし(そのさいウケ紙も一緒にはがす)、さらに下地骨も一括してはがした。はがしたものはSILティッシュでくるんで保管、木枠・骨組はエアーキャップで梱包し保管することとした。なお作業の様子は逐一撮影、生じた断簡などは中性紙封筒に保管することとした。

 災害時にはこのようなふすまの下貼り文書が大量に被害にあうと考えられるが、はがして保存できるということとの周知と、簡易なはがしの技術法の模索が引き続き求められるだろう。(三村昌司)
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

宮城県仙台市における歴史資料保全活動レポート
日時: 2011年7月5日(火)〜7月6日(水)
場所: 向田文化財整理収蔵室
実施主体: 東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会
参加: 国士舘大学沢田正昭研究室・宮城資料ネット・神戸史料ネット・人と防災未来センタ ー・神戸大学科研・ボランティア
総計: 14名
内容: 【石巻文化センターの被災と資料保全活動】
 宮城県石巻市・石巻文化センターは、3月11日の東日本大震災で発生した津波によって1階の収蔵庫部分が甚大な被害を受けた。当館は、石巻市住吉町の故毛利総七郎氏が収集した毛利コレクション(考古資料・古文書・武具・古鏡・燈火具・アイヌ資料・装身具等)や日本人としてはじめて韓国建国勲章を受章した石巻市出身の弁護士・布施辰治の関係資料を所蔵する施設である。4月下旬から、東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会による文化財レスキュー事業の対象となり、多くの収蔵品が形態に応じて全国の関係諸機関に移送され、洗浄・燻蒸・修復といった処理を受けている(『産経新聞』4月28日/『毎日新聞』4月28日/『毎日新聞』4月29日/『河北新報』5月24日)。今回は、当館で使用していた資料の目録やコピー等をファイリングした現用資料の洗浄を行った。

【被災資料の洗浄作業】
9時からの作業であったが遅れて参加し、13時から洗浄作業にあたった。天候は雨で、時折雹が降るなど荒れた天気であった。

 今回洗浄した資料は、レスキュー直後、カビの発生を防ぐために、一度冷凍処理したものである。よって、ほぼ凍ったままの資料をテンバコにはった水につけて融かしながら、刷毛やへらを使って付着した汚れ・カビ等を落とす作業であった。

 洗浄作業は困難を極めた。とくに被災時、石巻文化センターには、近隣の製紙工場から大量のパルプが津波に運ばれてきたために、個々の資料の頁間にもパルプが入り込み、さらに凍結し、固着している状態であった。また、金具部分にはすでに錆が見られ、これが周囲の洋紙にも付着していた。カビによるものか、重油やヘドロによる汚損なのか判明しないが、テンバコの水は資料1点を洗浄するだけで、真っ黒に変色してしまう。一方で、大半が洋紙であり、水につけて刷毛をあてるだけでくずれていくものも多く、洗浄作業には細心の注意を払う必要があった。

 悩ましい課題もあった。とくに、今回洗浄した目録には、資料の写真が貼り付けられたものも含まれていた。今回の津波で失われたかもしれない資料の現物の写真。しかし、目録が凍結して頁が開かないため、作業者のなかには写真の存在に気付かず、目録をそのまま水につけ、融けて頁が開いてはじめて、水中に沈んだ写真の存在に気付くという者も見られた。津波による水損を免れた写真も、これで完全に水につかることになる。もちろん作業効率の問題もあるが、事前にどのような資料が含まれているのかを確認し、写真などはデジカメで撮影しておく処理も必要かもしれない。

 さらに悩ましい課題は、津波によって被災した資料が、種々の有害物質を含んでいる危険性があることである。具体的に言えば、海底に堆積していたヘドロが津波によって巻き上げられて付着したり、近隣の工場が被災して漏れ出した硫酸や苛性ソーダ等を吸収したパルプが付着したりしている可能性を否定できない。当日も、作業場がおかれた室内には「海水が腐ったようなにおい」が充満していた。これから夏本番となり、気温・湿度ともに上昇して、作業場は快適とは言えない環境となることが予想される。しかし、作業者は長袖にゴム手袋、マスクの着用といった基本的な装備を欠いてはならない。

 2日間で行う予定の作業を1日で終えた。洗浄された資料は、真空凍結乾燥処理をほどこすために、近日中に奈良文化財研究所へ移送されるとのことであった。 (添田仁)

平成22年度総括研究会
日時: 2011年3月6日(日)14時00分〜18時00分
場所: 神戸大学大学院人文学研究科A棟学生ホール
内容: 【報告】
小林准士氏(島根大学)
「中山間地域の現在と歴史資料保存・活用にむけた課題―鳥取県日野町に即して」
寺内浩氏(愛媛大学)
「2001年芸予地震時の史料保全とその後」
矢田俊文氏(新潟大学)
「中山間地における地域歴史資料と歴史資料保全活動―新潟県を事例に―」
伊藤昭弘氏(佐賀大学)
「福岡県内歴史資料保全調査会の活動」
【コメント】
奥村弘(神戸大学)・平川新(東北大学)
【各研究分担者よりの報告】
概要: (報告書参照)
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第9回地域歴史資料学研究会
日時: 2011年2月24日(木)15時00分〜17時00分
場所: 神戸大学大学院人文学研究科A棟小会議室
内容: 【報告】
宇野淳子氏(國學院大學研究開発推進機構臨時雇員)
 「音声記録の調査をふまえた地域歴史資料学の一考察」
概要:  本研究会では音声記録研究をすすめている宇野淳子氏から、従来は研究論文執筆の素材としてみなされがちであった文字化原稿などの口頭発表関連の諸記録について、一括して「音声資料」としてアーカイブスする必要があることを提起する内容の報告があった。

 報告では、都道府県・市が設置する図書館および文書館・公文書館にアンケートを送付し、音声記録の所在確認とその利用提供の状況に関して回答を得て集計した結果は「ない」という回答から実数まで把握しているところまで様々であったが、そもそも「音声記録」の定義が一義的ではないことから、逆にアンケート実施者(報告者)に「音声記録」の定義を問われることが少なかったと述べられた。音声記録の所蔵状況はもちろんだが、何をもってお「音声記録」とするかの定義の必要性も同時に課題として挙げられた。また、2010年9月の神奈川県内の大雨時における史料保全活動についてもふれられ、そのさいに非記録情報を記録媒体に固定し(録音)、それを利用可能な形に保持し保存していく必要性があるのではないかという提起がなされた。

 討論では、アンケート調査を全国的に行ったことの意義については非常に興味深いが、集計した数字をどのように評価していくかという点がまだはっきりしないという意見などが出された。(三村昌司)
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第8回地域歴史資料学研究会
日時: 2010年9月28日(水)14時00分〜17時00分
場所: 小野市民会館1階会議室
内容: 【報告】
大村敬通氏(小野市立好古館)「小野市における文化財防災体制」
村上裕道氏(兵庫県教育委員会文化財室)「兵庫県内における文化財防災体制」
概要:

 本研究会では大村氏が小野市内における文化財の防災について、村上氏が兵庫県内における文化財防災体制について報告をし、その後、参加者全員で議論をおこなった。大村氏は「文化財への対応については、特に対策等は全く無理解である」(大村氏レジュメ)とし、山崎断層地震への体制づくりの重要性を指摘した。また、村上氏は阪神・淡路大震災復興10年総括検証において、「文化社会や住民の暮らしに欠かすことのできな基本的な公共財である」(村上氏レジュメ)とし、地域で歴史文化遺産の活用を考える人材の確保が重要であるとした。両氏ともこれまでの経験に基づいた実践的な報告であり、今後このよな経験と実践の情報を研究者のみならず、自治体職員、学校教職員、そして市民が共有していく必要性を感じた。

 個人的な感想としては、防災体制にしても災害後の復興にしても、市民・住民の理解がなければ難しいということだった。これは当然のことなのだが、しかし一方で重要なことである。「地域歴史資料」がそもそもどのような歴史資料を指すのか、そしてそれを守るとか災害に備えるとかいう場合、具体的にどのようにすればいいのか、市民の一般的理解を得ることは非常に難しい。結局、防災というのは文化財に限らず、意識を高めることにあると思うが、その活動を行政・大学などがどう展開していけばいいのか、今後検討を深める必要があるように感じた。

 次に考えたのは、ネットワークの構築である。これは自分が関わっていないだけなのかもしれないが、文化財担当の職員の方の議論のやり取りは非常に新鮮に聞こえた。自分が大学に所属していることもあるだろうが、このような文化財や文化財担当職員にとって何が問題とされているのかということを市民・住民が理解することが重要であり、そこから地域歴史遺産を守るという一般的理解が広がっていくのではないだろうか。(深見貴成)

主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第7回地域歴史資料学研究会
日時: 2010年8月11日(水)10時00分〜12時30分
場所: 国立歴史民俗博物館内応接室
内容: 【報告】
三村昌司(神戸大学大学院人文学研究科)
「地域歴史資料学の構築にむけて―久留島浩氏の仕事を参照にして」
【コメント】
久留島浩氏(国立歴史民俗博物館)
概要: この研究会は、第4回地域歴史資料学研究会(3頁参照)で出された問題点を、引き続き検討するための会として開催された。

 三村報告では、第4回研究会で議論になった「地域歴史資料学の拠点としての博物館」という考え方について、久留島浩氏の実践的な仕事をもとに検討を加えた。すなわち、久留島氏の歴史系博物館に対する問題意識について、@社会教育を行う博物館、A研究成果としての展示と、研究過程としての展示という2つの展示観、Bコミュニケーションツールとしての歴史展示、C地域の文化育成の担い手としての博物館の4点にまとめた。そのうえで、これらの問題意識は、@「主体的な参加者(来館者)」の育成と、A特にこどもたちに伝える歴史文化とは何かを考える、という大目的が根底にあるとまとめた。

 また課題として、@研究者と市民の関係性をどのように新しく作り直していくか。A地域の歴史文化がそれをめぐる地域間対立が惹起する危険性を考えなくてよいのか、という点が述べられた。

 久留島氏のコメントでは、@かつて存在していた学区や公民館のような人間関係を作り出す拠点がほぼなくなった現在、それを新たに作り直すための「場」として博物館を位置付けている。Aかつての歴博には@のような「場」としての機能がなかったため、その意味を持たせるための様々な努力を行ってきた。例えば、学校との連携、ボランティアガイドの導入、エデュケーターの採用、館内アンケートの分析などを挙げた。B博物館をベースに色々なことができるということを意識しつつ、様々な試みを展開していくためには、やはり核となるリーダーシップをもった人間が必要であり、そのような人間を育成するなり、協力を仰ぐなりしなければならない。同時に、リーダーをサポートする体制も必要であり、それをいかに作り上げていくという大きな課題がある。C異なる歴史認識が存在しているとき、それをどのようにつなぐか。「フォーラムとしての博物館」としての役割を意識すること、などについて述べられた。
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第6回地域歴史資料学研究会
「日韓資料の比較研究」
日時: 2010年7月12日(月)10時00分〜12時30分
場所: 神戸大学瀧川記念学術交流会館1階小会議室
内容: 【報告】
金R榮氏(韓国国史編纂委員会)「韓国における歴史記録の位階そして現状記録の問題」
【コメント】
金玄氏(神戸大学大学院人文学研究科学術推進研究員)
金潤煥氏(神戸大学大学院人文学研究科博士課程)
概要:  本科研では、新たな地域歴史資料学の構築のために、国際的な歴史資料の保全についての検討を進める必要を提起している。そこで、2009年3月に倒壊したドイツ・ケルン市歴史文書館における被災資料について、同年11月に比較研究の研究会(第2回地域歴史資料学研究会)を開催した。今回、同じアジアの韓国を例にして、国際的な比較研究をさらに進めたいと考え、そのために、まず韓国における地域資料の現状について、韓国国史編纂委員会の金R榮氏を招いて研究会を開催することとなった。


 金R榮氏の報告では、『世宗実録』の編纂を例にとって、膨大な記録のなかから資料が選別、廃棄され(これを「休紙」「洗草」とよぶ)、その結果できあがったものが『実録』であると述べられた。また、李氏朝鮮時代における公文書のサイクルについても紹介があり、そのなかでは効力がなくなったら廃棄されるというシステムができあがっていたことが、韓国における地域資料の残存を難しくしたと述べられた。

 また、近世朝鮮の「村」はそもそもシステムとして文書行政をほとんど取り扱わなかったこと、その裏返しとして「村」の文書が、「村」レベルで日本のように引き継がれなかったことも、地域資料が残りにくい要因となった。残されている場合、それは両班の家にたまたま残ったパターンが多い、とのことであった。

 そのような韓国の地域資料の現状から、金R榮氏は、日本で近世の地域資料が多く残されていること、そのこと自体が非常に重要であると述べ、「すべての地域資料が、世界遺産級の価値を持つものではないか」と述べられた。

 コメントでは、韓国から神戸大学に留学している金玄・金潤煥の両氏から、留学生からみた日本と韓国の地域資料の現状についての印象が述べられた。金玄氏は近世・近代問わず日本においては地域資料が豊富に残っている点を評価しながらも、自身が研究している植民地にかかわるような地域の資料については、資料情報すら十分把握できていない段階にあることを指摘した。金潤煥は日本の大学で、原史料を用いて研究することスタイルに驚きを持ったこと、またそこから教科書的な歴史、中央の動向に偏った歴史とは違う地域の歴史の重要性を認識したという自身の経験が語られた。

 今後も本科研では、この研究会をひとつのスタートとして、国際比較研究を進めていく予定である。特に韓国との比較研究は、日本の地域資料の残り方そのものを国際的視点から改めて評価すべきという観点を示唆してくれた点で重要であり、今後はこの方向性を検討していく必要性があると思われる。
主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ

第5回地域歴史資料学研究会
「震災関係行政文書に関する整理と保存に関する研究会」
日時: 2010年5月28日(金)14時〜17時
場所: 尼崎市総合文化センター7階 第1会議室
内容: 【報告】
(1)佐々木和子氏(神戸大学地域連携推進室)
「震災資料保存・活用研究の現在」
(2)島田克彦氏(尼崎市立地域研究史料館)
「尼崎市立地域研究史料館における震災関係行政文書の調査について」
概要:

 2010年1月より、本科研の研究協力施設である尼崎市立地域研究史料館が所蔵する震災関係行政文書を、本科研の調査・研究対象として研究を行うこととなりました。
具体的には、樋口健太郎さんを学術推進研究員として任用し(同年3月まで)、尼崎市側からは、同館嘱託の坂江愛さん・島田克彦さんを研究協力者として調査を進め、整理・保存方法についての検討を進めています。

 そこで、この研究の中間総括の場として「第5回地域歴史資料学研究会―震災関係行政文書に関する整理と保存に関する研究会」を開催いたしました。

 研究会では、最初に佐々木和子氏から、各自治体における震災関連行政資料の保存と活用に関する研究の現状について報告をいただきました。とくに、兵庫県・神戸市・西宮市・伊丹市・芦屋市などにおける震災関連行政資料の収集・管理についての現状について報告がなされました。一例として、西宮市では震災を「現代史のなかのひとつの大きな出来事」としてとらえ、震災関連行政資料も歴史的資料として位置づけられ、保存されている事例が述べられました。また、その公開例として、西宮市デジタルライブラリーの冊子・写真・動画公開の事例が挙げられました。

 続いて、島田克彦氏より尼崎市所蔵の震災関係行政文書に関する整理と保存の状況についての報告が行われました。地域研究史料館所蔵の震災関係行政文書の現状をまず紹介したあと、それらの資料収集の経緯と、震災発生時の組織について述べられました。最後に、資料の整理状況と調査研究について言及し、今年度で一応概要調査を終え、将来的には件名目録も含めた公開の体制をめざすことが述べられました。

 報告に続く討論では、多岐にわたる論点が出されました。(1)尼崎市における震災時の文書管理システムにおいて、震災関係行政文書のようなイレギュラーな文書が生じたとき、必ずしもすべてを把握できなかったこと。(2)震災関係行政文書を収集し整理するさいに、当時の関係者から聞き取りを行うことができないのか。(3)一般的に、役所職員のなかに、公文書を歴史的資料として位置づける意識が必ずしもないこと。(4)震災関係行政文書を整理する際に個人情報をどのように取り扱うか。(5)自治体ごとに異なる被災の規模や、それにともなう業務の規模によって収集状況や整理方法が大きく異なるということを意識すること。(6)防災計画のなかに記録管理の問題を入れる重要性について、(7)レコード・コンティニュアム論などの先端的なアーカイブ理論と、今回のような実地の震災公文行政文書整理の関係を問うべきこと。(8)今回のような研究会の成果を積極的に情報発信していくべきであること。などの点について意見が交わされました。

 本科研では、今後も日本の地域社会の実態に即した地域歴史資料学の構築をめざして、震災関係行政文書のみならず地域歴史資料の収集・保全・活用・公開について検討を続けていく予定です。

主催: 科学研究費補助金基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」〔研究代表者:奥村弘〕研究グループ、尼崎市立地域研究史料館