アスベスト被害聞き取り調査—川本正男氏 [2008-09-18]
花岡光義 (芦屋市立上宮川文化センター 館長)
全国隣保館連絡協議会(略して全隣協)、こういう全国規模の隣保館組織があるんですよ。
松田毅 (神戸大学大学院人文学研究科教授)
全国組織ですか?
花岡館長
はい、全国組織です。まあ、公民館とは違い、隣保館は公的にね、設置義務があるかいうと別にないんですよ。地域があれば、地域いうのも、補助金もらおうと思えば、地域の指定を受けないと補助金が受けられないんですよ。まあ沖縄や北海道以外ほとんど日本中あると思うんですけど、関西が多いんですけどね。関西から西。で、そういう隣保館が全国になんぼあるのかな。約950くらいあるんかな?
隣保館はいろいろ大型館からちっちゃいとこまでいっぱいありますけどね。そういう中で、いろいろ地域の中に住民が市役所の本庁に行く前に相談する現場ですから、そこで保健師がおったり、そういう保健衛生の受け皿あるとこもあれば、もう館長と職員一人、二人のとこも何ぼでもあります。まあ、そういうところで聞いた相談を、労働面、就労面をきちっとおさえて相談事業してくださいっていう、別にそれは国みたいに指令や通達を出すわけではないですけどね。去年、アスベスト関係の冊子作ったんです。
松田
ここはかなり大きな隣保館ですね。
花岡館長
そうですね、ここは、二階が児童厚生施設なんですよ。児童センターって言って児童館よりちょっと大きいんですけど。神戸なんかは中学校区単位で児童館があるでしょ。そういう中、神戸は学童保育も一緒にやってるんですよ。芦屋は小学校の中に留守家庭児童会を作っている。まあ、市によって違うんですけどね。神戸で児童館といえば留守家庭とイコールに近いイメージがあるんですけどね。ここは地域の相談、隣保館はこのエリア中心ですけどね。芦屋市内には公的な児童センターはここだけですので、児童センターは市内全域が対象です。
もう一つは浜風の家という民間が建てた児童館があります。震災以降に建設されました。児童館には市内エリア全域からきますので結構、利用率も高いですけどね。それ以外にここでは貸館業務をやってますんで。またそのパンフレットもお持ちしますけど。
そんな感じで、アスベストの問題が起こる前から労働災害、労災の関係は、過労死とかいろいろ職業病も含めて、ずっと取り組んでたんです。先言ったアスベストの原石を運んで病気になった事例についても、それほどびっくりして対応したわけではないんですよ。川本さんの場合はクボタのアスベストの問題が起こった直後でしたからね。
(労働基準)監督署の対応も早かったですね。兵庫は割と監督署の職員もね、全国から見るとアスベスト申請件数が多いし、慣れているので対応が早いんですよ。慣れない監督署だったら、県の局に聞いたり、東京の本省に聞くとかいう対応が多いけどね。この辺は件数で言っても患者数でも言っても全国で二番目か三番目でしょ。まだ潜在患者もいっぱいまだおりますけどね。
だから、川本さんなんかはよう言ってはるけど、造船やら鉄鋼やら金属やらゴム産業やらも、いっぱいそういうね、アスベストをあつかってた。出稼ぎの人ももっと田舎におるやろうということも含めて、掘り起しが大切やと言うことを前から言うてはるわけです。隣保館経由でも十件くらい労災の認定があります。
松田
この地区でですか?
花岡館長
はい、この芦屋の中でね、芦屋市民が十件くらい、亡くなった人も含めてね。遺族補償とか。だからわりと職種的にはものすごく広範囲ですね。また今度の土曜日に兵庫の家族会あるから、いろんな職種でなった人がいっぱい来ると思います。
川本さんは一応造船だけど、さっき言うたみたいに造船が多いです。そういった環境でほとんどやめてから発病するという特殊な病気のためにね、会社の本工の組合が、いわゆる本工主義でしょ。組合員ではないということで、現行組合員に合わせた労働協定しか作らないんですよ。
見舞金といって、一時金的にポーンと100万円やらそこらで自分たちの現職は2000万とかなんとかであまりにもおかしいんやないかいうことで、退職した人も含めて造船と鉄鋼で名刺で書いてある会を作って、「造船、鉄鋼、アスベスト被害者の会」か、そういうの作ってもう二年目くらいかな。
川本正男 (造船・鉄鋼アスベスト被害者の会 代表)
三年やね。
花岡館長
だから、それがね労働法規上は、事業主も交渉対象とする相手と、初め協議してたんですよ。遺族と企業とは労働を介しての接点がないでしょ。労働法規上で言うところの、交渉相手でないって蹴ってたんですけどね。そんなら全造船とかそういう組合に入ったら交渉権あるんちゃうんか言うて、東京の方の全造船の組合に遺族として加入した。
この間、全港湾は誰でも入れるんで、いっしょですわ。昔は全国一般といって社会党の時代はその、組織、産業別労働組織でね、どこにも入れない人は全国一般いう枠があってそこに入っていたんです。今で言うユニオンみたいなものですけどね。川本さんが全造船の東京のほうの組合に加入した。というのは関西のほうの造船の組合が全造船関係の組合がないもので。
川本
二年ちょっとやな 。
花岡館長
そういうことがあって、これはまだ二年くらいですね。クボタの事件があって、そのあとわーって世間的にアスベストのいろんな問題がクローズアップされてから患者がいろいろ、川崎だけではなくて神戸製鋼もあり、石川島播磨があったり三菱があったり、たくさん出てきたから。
一つの企業だけだったら、広がりがないからね。それで広く数を集めようという趣旨もあるし、芋づる式にわしの同僚や、後輩や、先輩やら言うて、マスコミと、そういう口コミで増えてきたんですね。そのときに造船だけやったらあかんから鉄鋼も入れて。まあ、そういう経緯ですわ。会員は何人おるかしらんけど、多いときで50〜60人おったんちゃうかな。
だから、普通の町の顔もあればね、いわゆる生活保護でしんどいとこもあるしね。労働の中でどうしても、今は非正規職員がいっぱい出てきたけどどうでしょう、昔はもっと単純な構造だったんですけど。それで病気や怪我で傷ついた人が労働現場ではじかれたら、退職したら大体が国民健康保険いう保険しかないんですよ、社会保険制度のなかでね。
国民健康保険いうのは今、ほとんどの市町村が赤字で、それを救うために後期高齢者医療制度ができたりして、そういう二重構造となっていますけれど。私、国民健康保険の職場に十年ほどおって、そのとき、窓口に来られる人が、保険料払われへんねんて来はるんやね。何でですねんと聞くと、だんなさんが病気で療養しているからと。何の仕事してたんと。まあ、本人にしてみたらうるさい職員と思ってたんか知らないけれど。ほんなら出稼ぎで芦屋に今おってとかね。胸の病気やねんと言われると、それならレントゲンフィルムを持参してもらい専門医に読影してもらっていました。塵肺が関係してたもんで。
それは今と同じなんです、構図がアスベストとね。だから聞き出す人みんな、そういうしんどい仕事していた人で。それを安全センターとかに協力してくれる人とかドクターとかがいてたから、そのころの全港湾という労働組合が港で働く人たちの健康問題やってたんですよ。で、いわゆる塵肺という病気は、塵肺法という法律があるんですけど、その法律に定めている職種というのが限定されていて、港湾の仕事がなかなか入らないんですよ。ま、そんなんは余談ですけど。
国民健康保険のほうで仕事してると、労災や職業病の方が救済されないまま放置されているということが分かって、全国の国民健康保険の担当者向けに、財政効果もあるし、本人も救済されるし、市の財政も助かるからということで、そういうの書いたことがありましたが、反響はなかったです。
それは今のアスベストとまったく同じなんですね。退職してから発病している六十代、七十代の人が圧倒的に多いでしょ。その人たちがどこの保険に入っているかといったら、ほとんど国民健康保険と老人医療で市町村の財政を圧迫しているんです。本来ならこれは労働災害だから、労災保険で払わないといけない。そのときに認定になったら、「ああ、良かった、良かった。」と言ってそれ以降は国民健康保険には、請求は来ないんですけどね。発病してから認定の間にどうしても時間的なタイムラグがあるんですよね。申請してから認定なるまでの間早くて約四、五ヶ月かな。
伊藤郁子 (ひょうご労働安全衛生センター)
平均で約三ヶ月です。
花岡館長
まあ、三ヶ月のもあるけどね。三、四ヶ月から、半年かかるのもあるんですよ。亡くなっている人とかのも、もっとやったらなかなかですけど。それが時効の関係で二年とか三年とか、レセプトを追跡して。うちのほうでも、国民健康保険のほうから患者にお金を返してもらって、それを自分の自己負担と加えて、労災へ請求してもらいます。ま、本人も助かるんですけどね。で、市の財政も助かる。そういう取り組みをしたらいいんですけど、あんまりそういう行政指導もできてないですね。市町村ももっとアスベストの患者を探して医療費を節減したらええのにと、ずっと言うてるんですけどね。
伊藤
そういう観点はね。
花岡館長
毎日新聞の大島記者が一回、僕言うてることを取り上げて書いてくれたこともあるんですけどね。もっと構造的な問題で、どんどん時効で消えていくし、新法はその、保険の自己負担の分と療養手当て十万円しか支給されません。
白黒はっきりしないやつなんかなんぼでもあるんですよ。肺ガンとか。どんどんやれば労災になるのはなんぼでもあると思います。
伊藤
グレーゾーンがものすごいですよね。
花岡館長
中皮腫はそれこそ認定率が高くなってますけど、肺ガンは、以前ならタバコの吸いすぎで終わっちゃってましたから。肺ガンとアスベストの因果関係がまだ中皮腫ほど実証されていないから、監督署のほうも大変ですけどね。だんだんと認定率が上がってはきているのですがね。
伊藤
中皮腫の患者の十倍は肺ガンの患者がいると言われてますからね。
花岡館長
東京、大阪、兵庫などの認定数が多いのはやはり、エリア的に救援運動が活発だからです。造船の多い瀬戸内の周辺とか、九州北部などもっともっとあるはずなんですがね。それは疫学の人らもそんなん言ってるひと多いでしょ。なかなか、アスベストだけのそういう疫学調査は過去にデータないと思うんですけどね。
というのは僕のこれまでの前置きで、これからお待たせしました。
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