神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクト

アスベスト問題に関連する研究成果や情報

アスベスト被害聞き取り調査—岡崎剛氏 [2007-09-14]

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海難審判の具体的な説明

松田

船であの、さっきの事件ですね、その責任の所在みたいなのは、どうなっているのですか。

岡崎

あれは船長が責任取りましたね。それで辞めましたね、最後は。厳しいですよね。

松田

厳しいですね。

岡崎

船長よりも一等航海士のほうが現場の責任者で一応見ていなければいけないのに、一等航海士はお咎めなかったですね。船長が身を引きましたね。

松田

それは自分から、と。

岡崎

その辺がね。一緒に乗った船長だったですけどね。辞められた船長で。厳しい方だったですけどね。そうですね。まあやっぱり運命なんでしょうね。なかなか厳しい…。仕事のできる船長だったんですけどね、だけど厳しい…。厳し過ぎたっていうのかなあ。そういう面がありましたですけどね。気の毒ですけれどね。

松田

飛行機でしたら、事故が起こった時に調査委員会を作るとか、海難事故の場合も同じような感じでやるわけですか?

岡崎

今現在は違います。旧来の裁判所形式ですね。法廷内は通常正面に裁判官、審判官っていうんですけどね、それが三人座って、向かって右側が弁護人(海事補佐人)の席ですね。左側が理事官っていう、でその審判官と向かい合って被告になる、受審人って言うんですけどね。

※現時点の海難審判法廷内の様子。ただし、行政改革により、本年度[平成20年度]には大幅に変更される予定。海難審判庁は解体され、運輸安全委員会に現在改組中

松田

ジュシンニン?

岡崎

受審人。ジュ、「受ける」。審判の「審」で。受審ですね。受審人。そういう名前になりまして、それで後ろに傍聴者がいるわけで、大体、神戸の審判廷なら、30人座れますね。そういう形式で。裁判所もそうでしょ。裁判を受けたことないですからね。わかりませんが、そういう形式でやってますね。

松田

裁判は民事に近い感じですか。

岡崎

刑事事件に指定されているものは検察庁の呼び出しを受けて罰金を事前に支払っているケースもあります。刑事は一応また別になるわけですね。その審判予定表にも刑事事件の時には「刑」という字も入ってますけどね。だけど参考にしてるんじゃないですかな、検察庁の方でね。われわれがやる、その海難審判の結果を見る感じで。だからわれわれの方は行政上の罰だけでね、お金の問題とか何かはないんです。

松田

ないんですか。

岡崎

ないんです。民事でもですね。行政上の罰だけです。

松田

ということは、使用が禁止されるとか、免許が停止されるとか、そういう感じですか?

岡崎

免許停止です、受審人に対してね。海難審判法と言えば、海難の原因を調べて、探求し、発生の防止に寄与する、という目的なんですね。それで船舶ね、それから人命、それから陸上施設、そういうのに異常があった場合に、審判開始の申し立てがあれば、審判を開くと、こういうことになっているわけですよね。

松田

そうすると、その船の構造もそのものも。

岡崎

あ、悪ければ。

松田

ということも当然?

岡崎

あります。なってきます。設備ですね。

松田

極端に言えば、さっきのレーダーの見方みたいなとか、その教育システムとかも。

岡崎

それも勘案されると思います。それも争点がね、何て言うのかな、陸上の一般的な裁判は、論点、争点っていうんですか、コレ、はっきり決まってるでしょ、裁判やる場合ね。船の場合は、争点は何かぼやけて、全体的に見てる感じですかね。それ一つだけではないです。ちょっと難しいとこがありますよね。全体に渡って、うーん、ちょっと情状酌量の余地が多いような感じも受けますけどね。厳しさが…。うーん、難しいですね。

松田

飛行機とかだったら、事故が起こるとか、その第三者を入れたような調査委員会がありますけど、そのあたり性質が違う、と考えたらいいのですか。

岡崎

そう、今のところ、そうですね、はい。行政罰だけですからね。一番重いのが、免状の取り消し、業務停止一ヶ月から三年。それからあと戒告処分ですよね。

松田

基本的にはその事故を起こした個人に対して?

岡崎

そうですね。罰則ですね。海技免状の取り消しもあります。

松田

船そのものについてこういう設計ミスだからどうだとか。

岡崎

はい、それはやっぱり、一応やります。でもその当事者じゃないから、受審人じゃないから、指定海難関係人っていうんです、それ。メーカーだとか、海技免状のない人。

松田

海技免状のない人も入るんですか?

岡崎

入るんです。勧告っていうんです。うん、そう、こういう事件があったから、こういうことを今後、注意してくれ、とかなんとか。この前、ヨット沈んだでしょ。琵琶湖でヨットの沈没事故。何人か亡くなってるんですよね。勧告をやりましたね。管理人、ヨットハーバーの管理人と、それから、それを設計した人かな。何かちょっと、わかりませんけど、そんなような感じです。で、今は、海の場合には、受審人と言ってましてですね。海技免状の持ってる方です。免状の取り消し・停止。それから戒告、とそういう懲戒処分の罰則ですね。

松田

まあそうすると、そのあたり、かなり細かいことまで分析されるわけですよね。

岡崎

そうです。してます。結構ね。はい。

松田

それはそれですごく何か、興味深いというか。

岡崎

ああ、それで、専門家だったら、機関関係だったら。

松田

呼ばれたりしてるわけですか?

岡崎

そうです。メーカーが呼ばれたりして証言します、皆。今度も大きなのは、あそこの大阪の水先案内人ってのはご存知ですか?パイロット、大阪ベイパイロット、水先案内人です。

そういう方がね。水先要請船の舷側をよじ登っていかんといけないわけです。縄ばしごでね。それ途中で落下して、三年ほど前かな、真冬の早朝。もう何回かたくさんの方が落ちて、墜落して、海中に入って、そのまま亡くなっちゃったんですよね。そういう事件があった時に、その方がたまたまね、ペースメーカーやってたんですわ。で、ペースメーカーってのはレーダーだとかなんかに影響を受けるかどうか、そういう問題もね、やっぱり専門家の、そのペースメーカーの製造メーカーだとか、医者だとか来て、証言してましたね。そういうのをちょっと傍聴したことあるんですけどね。

松田

それは極めて興味深いですね。

岡崎

あっと言う間ですからねえ、船は走ってますからね。水先船と被響導船の両方ともね。24時間休みなしですからねえ。大阪ベイの友ヶ島って島、ご存知かな。四国と大阪湾の間の、あそこの沖でパイロットが乗り降りするんですよ。強制パイロットだから、水先人が強制になるわけね。取らないと、違反になりますよってことで。

それであれ、何千トンかな、8千トンだったかな。今、私もはっきりと覚えてないですけど。それ以上の船になると、どうしても乗せないといけない。水先案内人を。乗せないと違反になりますからね。すると乗り降りするわけですね。私の所属していた郵船でも三人あそこで落ちてなくなってますよ。恐ろしい仕事ですね。天候にかかわりなくね、夜昼なしでしょ。

松田

やっぱり、ストレスだとか過労だとかも絡んでくる?

岡崎

絡んでくるんじゃないですかねえ。水先ボートの操船が悪かったかどうかとかね。いろんなことを…。審判で。

松田

難しい判断なんですね。

岡崎

そうなんですよね。結局、第一審では戒告ぐらいになってましたね。普通、亡くなったりなんかすると、免状の取り消し・停止が必ずつくんですけどね、今回の場合には戒告処分みたいだったですね。で、どちらかに不服があると、二審、三審ができるわけですよ。東京で今度は二審やるんですけど、それに申し出してますね。理事官か、受審人か、補佐人が、二審請求できるわけですね。一週間以内に。これやってましたからね。

松田

その場合、その戒告をされた側は、当事者は誰になるわけですか。船ですか?

岡崎

これはね、船長です。水先人を乗せるための水先船のボートの船長が受審人になります。

松田

船長が?

岡崎

船長が受審人になってるんですね。戒告処分だったから軽かったから、どなたかが、その方じゃなくてどなたかが二審の請求されてますね。二審の請求が出れば、正しい手続きが取られていれば、東京の高等海難審判庁で二審をやらなければいけないわけです。二審で駄目だったら、東京の高等裁判所で三審がね、で、それが不服だったら、おそらく最高裁まで行って争うんじゃないですかね。全く陸の裁判になっちゃうんですよね。途中から。ちょっとおかしいと言えば、おかしいんですかね。その辺がね。

松田

あの、一番最初の何て言うか。第一審?地方裁判所に当たるものが海難関係でいうと、近畿地方では神戸っていう感じ?

岡崎

神戸地方海難審判庁。

松田

中国地方だったら、一つ?そんな感じですか?

岡崎

全部で八ヶ所、ええとね、北海道の函館、仙台、横浜、それから神戸、広島、門司、それから長崎、沖縄。沖縄は支部になる。

松田

大きな港がある所。

岡崎

そうです、そういうとこで同じシステムでやってますね。先例の死亡事件の。あれはやったのかな、私も資料を調べてないんですが、例の四エチルのね、助燃剤じゃなくて、ハイオクの燃料ですね、その裁判・審判はやってるはずですよ。船長、責任取って辞められたんですからね。

松田

あの「なだしお」とかあったじゃないですか。あの場合、国際的な話になりましたけど、あの場合はそれはなかったのですか。

※潜水艦なだしお/漁船第二富士丸衝突事件

岡崎

いえ、やってます。裁決は一審がなだしお側がよかったのかな。で、二審で今度、逆転してるんですよね。それで三審がまだ継続中じゃないでしょうか。多分そうだと思います…。

松田

長くかかるのですか。

岡崎

かかるんですね、あれも。われわれの常識から言えばですね、たくさん人がおるんだし、見張り員がたくさん…乗組員が150人くらい乗ってるんでしょ、潜水艦なんかですね。こっちは船長一人ですからね、何かあの時にはもう一人おったらしいですけどね。見張りもしてるんだし、結果論ですが、潜水艦は横須賀に行くんだったんですよね。東京湾内でね。人情的には注意喚起信号または警告信号を吹鳴してやって云々……、そういうことで向こうがよけてやったほうが、というような感じはしますけどね。ええ、気の毒なこと…。一審と二審と逆転してますからね(海上交通安全法の適用の法律上の可否は詳細不明でなんとも明言できないが)。

松田

それは機会があれば。

岡崎

ああ、いいです。あとまたね。まだあと80歳くらいまではね、海難審判協会の海事補佐人として籍だけは置いて。あと二、三年は海事補佐人としてお手伝いしたいと考えておりますので。

藤木

一つお聞きしたいのですが、中国は陸上ではアスベスト対策がされてるけれども、やっぱり造船ではこういうふうにきっちり決まってるか、もうアスベストは使ってないのでしょうか?

岡崎

使ってないんじゃないですかね。案外とルーズみたいだから、中国ってね。何をやっているか、よくわかりませんけどね。

藤木

その違反してたら、何らかのペナルティが…。

岡崎

今度はね、IMO関連のポートステイトコントロールっていうのがあるんですよ。港の出入港の時に検査するね。これで厳しく罰せられるのと違いますか。入港不許可の場合にはね。この違反してる場合にはね。神戸でもやってると思うんですけどね。最近あんまりそういう規則にはタッチしてないもんだから。疎いんですけどね。結構、いろいろとやかましい規則がありますよね。

松田

本日はどうもありがとうございました。

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