神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクト

アスベスト問題に関連する研究成果や情報

アスベスト被害聞き取り調査—岡崎剛氏 [2007-09-14]

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日本郵船からのフォロー

松田

次に、岡崎さんご自身の体の状態(プラークの疑い)についてお伺いしたいと思います。まず、プラークの疑いが発覚するきっかけとなったのは、どういったことでしょうか。

岡崎

日本郵船からの通達によるものです。「アスベストによる健康被害が問題になっているから、退職者を含めて、職員の身体検査をする」、という内容のものでした。

松田

日付で言うと、去年の今ごろですね。その後の全体の結果もご存知ですか?

岡崎

いえ、把握しておりません。退職すると、会社とのつながりはどうしても薄くなるもので…。

松田

診断自体は、神戸で行われたのですか。

岡崎

指定されておりました、神戸労災病院で行いました。日本郵船以外の人間も大勢いましたよ。私が行った時で、50人くらいいたかな。

松田

これについてOB会のようなものがあるんですよね。

岡崎

はい、ありますね。毎年開催されており、毎回参加しております。

松田

では、OB会の場でこのような類のお話をされることはあるのですか。

岡崎

少なくとも、今まではなかったですね。この件に関しては、藤田佳弘機関長が会報か何かで、文章を書かれていたように記憶しているのですが…。

松田

こちら※に書かれていますね。労災認定までが非常に大変だったようです。そして、こちらの『海技大学校報』にも経過を書いておられますね。こういったお話を伺う限り、会社としても業界としても、アスベストの危険性や、過去にどう扱われていたのかということついて詳しく調べるといったことはしていないように思われるのですが、いかがでしょうか。

※『海員』、2005年12月号、pp.35-7および同誌、2007年9月号、pp.74-5.

岡崎

確かに、していないでしょうね。担当者の所属も、「人事部第二グループ」になっています。昔は、こういった問題であれば「海務二課」という部署で担当していました。今は名前が変わっているかもしれませんが、海の技術的な事に関して扱う部署です。担当者は全員海員経験者で、十人前後おりました。

「海務二課」は専用船やコンテナ船、タンカーなどの出来事をチェックしていましたから、こういうところが絡んでいれば、もっと深く研究する気があると判断できるのですが、この書類を見る限り、そうではないですよね。それに加え、運輸省の方も未だにアスベストを危険物に含めていないようですから、あまりこの問題については重きを置いていないのではないかというように思えます。

船舶の構造とアスベストの関連性

松田

タービン船の話に戻ります。積荷の問題ではなく、船の構造そのものにアスベストが多く使われているということですが、タービン船は今はほとんど残っていないのですか?

岡崎

いえ、そのようなことはありません。少なくなってはきていますが、今でも(タービンとディーゼルが)半々くらいか、4対1程度ではないですか。最大の問題は、燃費です。タービン船は軽油と、重油の最悪のものしか使っておりませんので、燃料単価は半分かそれ以下になります。

松田

タービン船の方が安いのですか?

岡崎

いえ、高いです。燃料単価は半分そこそこなのですが、なにぶん燃費が悪い。ロスが多く、燃料の質も悪いですから。そういうわけで、総合的にはディーゼルの方が安い。

松田

最近の新造船なんかには、アスベストは使われていないのですか?

岡崎

使われていないでしょう。昔は蒸気管などにふんだんに使われていましたが。アスベストが輸入禁止になったのは、確か最近のお話ですよね?

藤木篤(神戸大学大学院人文学研究科博士課程)

完全な禁止は2008年を予定しているようです。原則禁止は2004年からで、2006年には年間輸入量ゼロとなっています。

岡崎

うーん、ということは、代替品を使っているのでしょう。ないとやっていけないでしょうからね。

松田

ただこの間のシンポジウムでは、絶対禁止ではなく、一部代替困難な製品については使用が認められている、と技術者の方が仰っていましたね。これは、船に限定されたお話ではないようですが。

藤木

以前、関西大学の齊藤了文先生からお聞きした話では、船のパイプとパイプをつなぐガスケット部の代替品などがまだ実用化できていないようです。代替品では、高温に耐え切れないとのことで。

松田

少なくとも、かつてと同じ様に野放しの状態はなくなるとは思います。国内ではそのような状況ですが、国外ではどうなのでしょうか。

岡崎

船級というものがあるのですが、英ロイドと米AB(アメリカン・ビューロー)、そして日NK(日本海事協会)のいずれかであれば、(今後とも)まず安心であると思います。しかし、仏BVやイタリア、ドイツ、ロシアなどいろんな船級協会がありますから、そのあたりまではなんとも言えません。どうも基準の厳しさについては、ばらつきがあるように感じますが…。

松田

船の老朽化についてはどうなっているのでしょうか。

岡崎

落ちる時には、大体三段階あります。日本船であれば、約2、3年で一段階落ちます。一段階落ちて、韓国や台湾、シンガポールなどですね。その下はパナマ、リベリア船籍です。最低は、北朝鮮、キプロス、ベリーズ船籍となります。

松田

老朽化していって、耐用年数が減っていくと、安く取引されるわけですね。

岡崎

そうですね。おそらく無料同然の値段でやり取りされているのではないでしょうか。耐用年数の目安は、大体貨物船で建造から15年、タンカーで13年と言われています。2、3年で一段階落ちて、その次に5、6年でさらに一段階落ちて、最後にはスクラップになります。船の寿命は案外と短いんですよ。

藤木

そうなると、いわゆる「元を取る」ためには、ずっと動かし続けないといけないのではないですか。

岡崎

現在では、資金の回収は大体三年を目途にやっているらしいですね。ですから、(資金回収の)目安がついたら、手放すようにしているんじゃないでしょうか。

一口に船と言っても、形はたくさんあるわけですが、使い物にならない船は落ちていく先すらない。そういう船はスクラップになるしかない。今スクラップといえば、全部台湾でやっている。だから、アスベストの問題も今後大きくなってくるのではないかと思う。北朝鮮やロシアでもあまり気を遣って処理しているようには見えません。

海難審判について

松田

現在のお仕事、海事補佐人というのは、海難事故などを扱われるのですか?

岡崎

はい。陸上で事故などがあった場合、国選弁護人が選ばれますよね。あれと同じようなもの、というとおかしいかもしれませんが、資格は一緒です。一級海技士の免許を持つと、無試験で、申請だけで海事補佐人の資格を与えられるわけです。専門家でないと、はっきり言って船の問題はわからないですよね。いろんな問題がありますから。私自身は、神戸に来て12件海難審判を担当しました。

松田

それは、なんらかの事故ですか。

岡崎

はい。いわゆる海難事故ですね。各地の海上保安部から申し立ての一件書類が出ると、理事官が審査して、審判開始の申し立て書を該当地の審判庁に提出し、海難審判を行うわけです。(海難審判の)頻度は、一週間に2件、月にして10件あるかないか程度です。

しかし、陸上の裁判員制度ができると、海事補佐人の仕事もなくなるのではないでしょうか。

松田

それは、陸上の裁判所と同じような感覚で行われるようになるということでしょうか。

岡崎

はい。事故調査委員会って言うんですか。飛行機と電車の。事故があった場合、そんなふうになるのではないか、という噂が出ています。 私は特に小型船舶の方を担当していました。日本船舶職員養成協会で、海技試験員をし、一応教えていましたから、15年くらい。郵船辞めてからですね。だから小型船舶のことを、研究はしているというほどではないんですが、興味持ってやってます。まあいろいろあります。

松田

それは言えないこともあるでしょう。海の上のことですから、特に安全・安心の問題もいろいろあるのかと思うのですが。

岡崎

そうですね、特に船長としては。やっぱり機関長の考えとまた違うかもしれませんが、昔から言われてきた伝統的なことや大事なことがたくさんあるんですよ。それがもう伝わってないですね。残念ながらね。小型船に乗ってて、小型船と言っても7、8百トンから2千トン以下くらいの船ですけど、乗組員7,8人しかいないわけですよね。そうすると、いろいろ問題があるわけですね。誰でも当直に立つわけですよ。免許がなくても。そうするとですね、船はもう自動でしょ。スイッチ入れれば、船、真っ直ぐ走りますからね。

そうすると、レーダーの見張りが全然できてないんですよ。事故が多いですね、結構。現場のことを知らない国土交通省のお偉方、まあうちのとこもそうなんですけどね、レーダーの見方さえ知っていれば衝突を防げたってのがたくさんありますよね。レーダーの見方を知らない。相対運動方向ですからね。あの見た目のものじゃないんですよね、レーダーってのはね。レーダーが電波を出して返ってくる。これを船の指示器で見るわけでしょ。そうすると、それは実際の位置とは違うんですよ。実際のコースと、位置はレーダーの指示器でキャッチして表示された時点では一緒なんですけど、相対運動方向が出て来るので、衝突するかどうかの判定方法を知らないわけですよ。ただ見てるだけですよ、今の内航航路に乗ってる方はね。そこまで教育を受けてないし。一応、教育は何時間かあるんですよ、船橋当直の仕方をですね。しかし受けてない人の方が多いですからね。そうするとただ見てるだけだから。テレビの画面を見てれば、映像が映っていて分かりますよね。はっきりね。だけど、レーザー指示盤面上では、点と光が出てくるわけですから、それをどうしたら、相手船はどっちの方向向いて走ってるか、これ衝突するかどうか、簡単な判定方法が分からないわけですよね。

それで二、三年ほど前、あそこの潮岬の沖で衝突したタンカーか何かが、大きな人身事故起こしてますよ。それから銚子、千葉県の銚子の沖でも。これらは最近の大きな事故ですよね。これらの当直者も知らないから。ただレーダー見てるったって、レーダーを上から見てるだけでは駄目なんですよね。

松田

本当は誰かが教えなくてはいけない。

岡崎

教えなくてはいけない。そうなんですよ。われわれが若い頃、教わったように。レーダーのプロッティングと言うんですけれどもね。これをやらないと駄目ですよね。だからそういうことを言ってるんだけど、なかなか採用してもらえませんね、そういう意見はね。

松田

例えば、あのフェリーだとか、もっと大きな船の場合は?

岡崎

瀬戸内海を走ってる船はもっと大きいですよ。姫路の沖に家島がありますが、あそこも内航小型近海航路の船が多いですよね。あの辺りの5〜800トンの船は、皆レーダーを持っているんですよ。だけどその操作の方法だとかを良く知らないですよね。で、一人で当直してるでしょ。だから霧でもかかってきたら、船長さんが一緒に昇橋してやればいいんだけど、レーザー操作方法を熟知している船長の数が少ないですから、やり切れんですよね、一人では。そういうことの方法を教えたりね。いろいろあります。それから陸上勤務が長いから、もう船員として、名前は航海士なんだけれども、実際には、大事なことが抜けてますね。われわれから言わせますとね。だからそういうことが伝わっていけばいいんですが、まあ一番何かあった時に言おうかな、と思ってるんですが、当直交代した時にね、一般的に4時間船橋当直やっちゃ8時間休むわけですよ、今のやり方はね。

すると自分の船の位置を確かめてない方が多いですよね、はっきり言いましてね。当直交代したら、これから自分が当直やるって時にはなんでもいいです、方法はね。それをしっかりと確認して、自分の位置を確認して、当直を交代すればいいんですが、そういうことやらない。例えば、レーダーばっかり見ておる。それで当直交代する。

大きな事故で、私、助かったことが一回あるんですよ。シンガポール海峡の入り口にホースバーグっていう灯台があるんですよ。それをね、私が一等航海士の時でしたが、前道の二等航海士の方、陸上勤務が長くてね、あんまり慣れてなかったんですね、船のこと。そうするとレーダーでばっかり見ておったから、実際、灯台見えてるんですよ。その灯台を見て、その方位を測ってね、それでレーダーで距離を測る。これは正確な方法なんですけれどもね。レーダーばっかり見てるもんだから、そのレーダーで映ってる灯台がよその遅いスピードのタグボートだったらしいですね。後からあの赤い船とか見たら。だから自船の位置がとんでもない方向にずれてるわけですよ。船の位置が。私の当直が4時から8時なわけですから、もう何分かしたら、浅瀬に乗り上げてしまったかもしれない5万トン近い大きな船がね。そういうのが一回ありましたね。

松田

気づかれたんですか?それは。

岡崎

そうね、そういう習慣だったから。次席三等航海士(四等航海士)が一緒に乗ってて、W当直だったから、ちょっと位置を確認してもらったんです。四等航海士の方に。そうしたら、おかしいと。とんでもないところに船の位置がある、と。

松田

それはその、目で見た?

岡崎

そうです。ええ、肉眼で確認してやれ、と。それから方位測定は肉眼で確認せよとね。レーダーの見方はね、一番大事なのは、レーダーには誤差がある。誤りもあるわけですね。そういうことで助かりました、一回ね。だから欧州航路のコンテナ船がシンガポールの沖で乗り上げたことになる寸前と、ええ。それ一回とね。

それから台湾にキールン(基隆)という港があるんですが、そこを出て、あの時はアフリカに行く時なんですが、夕方に出て、8時に私、いつも昇橋するブリッヂ(航海船橋)に上がる癖をつけてました。習慣ですね。すると、どうも前が暗いんですよね。おかしいなあ、8時過ぎてですね、おかしいなと思って、その時はフィリピンの三等航海士だったんですけど、彼が何も見てないんですよ。ただボケッと前を見てるだけでね。レーダーも見てなかったしね。ジャイロ・コンパスの故障発生で私がうまい具合に上がってったから、そのまま陸地に突っ込んでいかなくて済んだわけですよ。ヒヤッとしたんですよ、あの時も。幸いそこは陸地まで深いんですよ、岸までね。それで一万トンの船だったんですが、助かりましたね。

大きなことは三つあるんですが、もう一つは、霧の中のことでね。アフリカ西岸のコンゴ人民共和国内にコンゴ河があるんですけど、そこはほんとに未開の地でね。船が全速力前進で4〜5時間航走してずっと河を上っていくんですよね。マタデイ港って言ったかな、港の名前。そこにね、地獄の釜と呼ばれる断崖絶壁の、港の近くに高さ50mくらいの断崖がね、そこのところで、船を回頭していくんですが、その時に運悪く、雨が降って、何て言ったらいいかな。猛烈なシャワー、スコールですね。ものすごい雨が来て、レーダーが利かなくなっちゃったわけですよ。レーダー電波は雨を通しませんからね。そして、船の位置が分からなくなったんですよ。水先案内人が乗ってたんですが、私もいつもそのブリッヂに上がっていったら、右側に回転窓ってのがありましてね、円形の窓(直径約30cm)が視界不良のとき回転してるわけですよ。霧の中でも一応ね、ある程度視界が効くのですが、全部は見えませんよ。他のないところよりも、まあある程度、視界がいいんですよ。前に立って双眼鏡で見ていたら、左に見えなきゃいけない航路ブイが右に見えてるわけですよ。こりゃおかしい、ってわけで、すぐ水先案内人に告知して右変針した。レーダーが利かなかったからですね、幸いそれがよくて、それも助かりました。陸地に乗り揚げてしまう寸前に変針したこと、ちょっとしたことなんですけど、そういうことで助かったことが三回ありますね。ヒヤッとしたことがありましたね。いずれも運よく助かりました。

松田

結構、船はそういうことがあるんですね。

岡崎

あるんですよ。昔から言われていることですが、当直の時にはちゃんと進路、スピード、周りの状態、コース、こういうこと全部言って、交代する。こういうことすぐ言って、確認する。スマートに目先を利かせて、それを几帳面にやらないといけないんですけど、今はレーダーの見方が全くなってないのが、残念ですよね。はっきり言って。

神戸大の海事科学部でもそうですが、今はもう自動でね、ARPA(Automatic Radar Plotting Aid: 自動衝突予防援助装置)っていう装置があるんですよ。自動でね、衝突の援助装置っていうのがあるんですよ。レーザー指示板面上にはこれで出てくるんですよ。私の現役の頃でも100隻までぐらいだと思いますが、相手船の位置、進路、スピードが全部わかるわけですよ。こういうことは各大学、高専でよく教えてるんですが、そういう装置を持ってない場合は費用が倍違いますからね。一台につき50万円だったら、100万円必要になりますからね。そのARPAを付ければ、霧中衝突事故は格段に減少していくと考えられます。

特に小さな船会社ではそういう装置の費用も人も減らして、設備を減らして乗組員数をできるだけ減らそうと、そういうことを考えてますから、持ってないんですよね。ARPA装置を持っていれば、ある程度は判別できると思うのですが、そんなことで危険を防ぐためとにかく、昔から言われてるように、スマートで目先を利かせて几帳面にやれ、ということですね。

松田

興味深いお話ですね。

岡崎

いえ、まあね、いろいろと。

松田

世界中、回られておられるのですよね。

岡崎

おかげ様でね、日本郵船に入ったおかげで、まあ、「ハチハチ」って言ってましたけど、小さな880トンの船から、一番下はE型、A型、B型、C型まで、D、EとC型は乗ってないけど、ほとんど皆、乗ってますね。これがアスベストがひどい。皆、蒸気船ですからね、全部。

※特別に船の主桟が焼玉エンジン船、一部ディーゼル船である場合を除き、主桟用燃料は全部石炭だった

松田

前回、資料でいただいた標準型の船?

岡崎

戦時標準型の船です。なるべく費用のかからない船。

松田

人間扱いされてない。それも乗られたんですか。

岡崎

そうですね。それも乗ってます。まあ蒸気船が多かったですね。

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