神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクト

アスベスト被害聞き取り調査—中村實寛(さねひろ)氏 [2009-04-27]

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個人として

奥野

個人としてというタイトルがついてはいますが、今まで述べていただいたことのまとめであるとか、私たちが個人個人これからどのように動いていけばいいのか動いて行って欲しいのかということや、また、被害者の会、家族の会を通してだけでなく中村さんご自身が個人としてどう思われているのかということについてお伺いできればな、と考えています。それでは、質問の内容が似通っているので、廣田さんと李さんに続いて質問して頂ければ、と思います。

廣田

アスベスト問題はストック公害って言われるように、まさにこれからの問題でアスベストの使用をやめたからといって終わるわけではなく、これから建物をつぶしていった時にさらに被害が増えると聞いて、どうやって私たちがこの問題について考えていけばいいのかっていうことについてわからなくなってしまうのですがそのことに関してアドバイスとしてどういう風に考えているのか聞きたいです。

色々なデータや情報を聞いた時に自分たちも疾患の可能性が、例えば30年後に尽きてないと知った時に正直怖かった訳で、その次にどうしたらいいのかというのを本気で考えることになって、やっぱり人間ってそうなのかな、と僕自身の意見としてはその経験自身が大事だと思って、つまり自分とは関係ないものとせずに、自分たちが税金を払って政治を任している国や市場をコントロールしている大企業とか、今までの歴史の中でどういうふうに動いてきた結果がこういうことになったのかとかご自身のことについて何かあればお聞きしたいです。

中村

まず廣田さんのご質問で、やはりこの世の中のアスベスト問題に関して関心を持ってらっしゃるあなたがたに世の中に伝えていただく。たとえばこういう場を設けていただいたりとか、親戚とか友達とか一人ずつでもいいですから、アスベストの危険性、アスベストの問題に対して話を広げていってもらうというのがお願いみたいなものですよね。

それと時間的に可能であれば、裁判の傍聴とか私たちの集会とかに参加して頂いて実態をもうちょっと掘り下げて感じていただくとか、このように活字として患者被害の声を文字として世に出してほしいな、というのはありますね。活字というかたとえば今日みたいに僕が話をしたことは一応録音してテープ起こしして頂いて本にはもちろんなりますけども、実際これが活字となったらこれは生涯なくなりませんよね。たとえば直接耳で聞いたぶんはちょっと忘れることもあるけど活字となったら色んな不特定多数の方が目にできる、そういうのは大きくこのアスベスト問題を世に知らしめる一つの大きな材料になるのでないかと感じています。

李さんの可能性はゼロではないかもしれないという質問、ここにいる皆さんはもう既に曝露されているかもしれませんよね。ですから、もちろん、このクボタショック以降みなさんビクビクされてらっしゃるんですけど、実際それは正直びっくりもんだと思います。何本吸ったから発症するとかそういう制限もないわけですから、とりあえず予防策としては怪しいなと思う所は近づかない、避けて通る、なるべく吸引しないようにたとえば通学の途中とかも少なくても工事現場の近くではマスクをするなどの自己防衛、最低の自己防衛はして頂いた方がいいんじゃないかなとおもいますね。たとえ今現在吸引されていても発症しないことはあるし、同じ量だけ吸引していても発症する人がいたり発症しない人がいたりするんですから、怖がることはないと思います。

先ほどおっしゃった自宅の将来の解体のことでもそうですよね。もちろん金銭的な問題は政府からきっちりだすとしてもやはり、そういう自宅でも解体工事をする場合には周辺住民にもお願いして、近づかないようにして、などの配慮をした方がいいかなと思います。

奥野

それでは今、関心をもった人に次に伝えていく、記録として残していくという話になりまして公害問題を取り扱った創作として『苦海浄土〜水俣病〜』という小説があるんですね。それは水俣病を批判してどのような近隣の方に被害があったかということを小説に書かれているものがあるんです。公害に関わる創作だとかそういうものに関してどう思われるのか、一般の人向けにそういったものはどうなのか、そのあたりのことについて、勝田さんお願いします。

勝田

そうですね、『苦海浄土』だけでなくてたとえば原爆文学とか、そういったものの草創期にはそのせいで嫁に行けなくなるからやめてくれとかそういう批判もあったのは事実なんですが、『苦海浄土』に対しても水俣病に対してのマイナスイメージが広がってしまうのを恐れる人がたくさんいたりしたので、文学的な面から見ると、自叙伝ではない限り当事者伝ではないので小説というフィクションが入ってしまうということでメディアには知らせて行かなければいけないんですけど、そういった小説とかドラマとか映画とかに関しての抵抗というのはあるのでしょうか。

中村

僕は正直『苦海浄土』というのは知らなかったんですよ。それで、水俣病と関連も知らなかったし、ただ(レジュメの)字だけで感じたことは公害病に犯された自分が進むべき、通らなければならない道かな、というような感じを思ったのですがね。今話を聞いて水俣病とか四日市ぜんそくとか原爆もそうですけど色々な世襲批判がありますよね。

でも、このアスベスト問題っていうのは遺伝もしないし、感染もしないし、僕はちょっと問題をはき違えているかもしれませんけどやはり、アスベスト問題に関してはどうなんでしょう。この『苦海浄土』というのが当てはまるのか分からないのですけれども、やはり公害として水俣病もアスベストも同じ公害として捉えたら、被害者またその家族は避けて通れない道かなということぐらいしか思い浮かばないですけど。

勝田

小説化とかそういったペーパーになるとか、ご自身がそういう風に小説というバイアスがかかって世に出るということに抵抗はありますか。

中村

それは僕自身は別に抵抗はないです。ですから、一番最初僕も被害者になって、医療従事者の会合に、いつもは東京でやっているらしいんですけど、たまたま大阪で開催された時にスポットで参加させてもらったんですよ。そこで僕はなぜ自分がっていう、患者家族の会のホームページに書いてあるんですけど、会員の紹介のところに、その話をした時に毎日新聞が記事に出してくれる事になり、名前を出していいですかと聞かれた時に、出してください、逆に是非、出してください、と。

なぜって言ったら、中村實寛っていうのはあぁこういう病気やったんか、あぁあの現場で一緒やったな、と思い出す人がおるかも分からんから、ということを訴えたんですよ。それから全ての報道で実名で出してもらってるようになっているんですよ。ということは被害者が訴えるのには匿名では信憑性が薄れてくるんじゃないかなという気がするんですよ。

ですから、たとえば映画化されるとか小説化されるとかそういうところでも、全てをさらけだしても構いません。別に私が悪くてこの病気になったんじゃぁありませんから。

勝田

会を代表とした活動を通じて国や企業に言いたいことはたくさんあると思いますが、私たちに対して今一番言いたいことって何ですか。

中村

そうですね、やはり何事に対しても疑念をもって臨む。疑いの目で見る。信用できるのは己だけだ、というくらいの気持ちで行くべきかなと思いますね。それと、様々な知識というんですか、そういうものをアンテナを張ってキャッチすることが大事かなと思いますね。

奥野

アスベスト問題や公害問題に関して情報をどのような形で受け取るかということに関して色々と課題や問題が出ましたが、今後アスベスト問題やそういう公害では色々と問題が出てくる可能性があると思いますので、そのあたりのことを宇野さんから質問してもらいます。

宇野

今回このアスベスト問題に関して、このような公害が起こる可能性は今後もあると思うんですけれどそういった公害が起こった場合に、もし自分が被害者になることになったりとか、もしくはこういった事件を知ってどういう対応をしていけばいいと中村さんは思われますか。

中村

そうですね、まずアスベスト問題と同じような公害。まず潜伏期間を考えたらこのような公害問題は今後出るんだろうかという疑問はあります。たとえば最近使われているグラスウールとかどこまで人体に害があるのかまだ全然分かってないですよね。そこを考えたらどうなんでしょう、このような大きな公害というのは起きないんじゃあないかな、と思うんですけども。

またそういう公害が起きたとしても即座には全てを対応しきれないじゃないかなと思うんです、行政も含めて。行政がもうちょっときっちり対応をしてくれたら(私たちも)対応していけると思うんですけど。とりあえず薬害肝炎の問題にしてもエイズ問題にしても全ての公害病って言えるようなものは被害者が声を挙げて、行政と喧嘩をしてやっと腰を挙げる現実ですよね。

そやから率先して政府がリーダーシップを取ってくれるというのは今までいっこもないですよね。ですからまず難しいでしょうね。全て、さっきの(建築物の)解体の話の時にも言いましたけど怪しいところには近づかんようにするとか、自己防衛をしていって。ですからそういう公害が起きんことを祈るしかないですね、と思います。

奥野

ありがとうございます。当事者意識であるとか自分がどういう情報を持つかということに関してよく分かりました。

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