アスベスト被害聞き取り調査—中村實寛(さねひろ)氏 [2009-04-27]
運動と社会
八幡
次のところは「運動と社会」というところなんですけれども、中村さんは「患者と家族の会」の活動をされていて、その活動内容をよく知っているものもいれば、知らないものもいますので、その活動内容について訊いていきたいと思います。最初に藤木さんから質問をしていただきたいんですけども、前後に分かれていますが、一度に質問していただければと思います。
藤木
はい。八幡さんから促しがあったんですけれども、実際には三宅さんと重なる点が多いとおもいますので、私が質問した後にそのまま三宅さんにも質問していただいて、まとめてお答えいただければと思います。私の質問といたしましては、単純に、会自体の活動としてはどのようなことを行われているかをお聞かせいただきたい。これがまず一点。その次に、他の地域、他の患者、他の支援団体などとの連携についてはどのようになさっているのか、ということに関してお話しを伺いたい。これが私の質問です。
三宅
僕の質問としては、被害者の会の方と、今現在も、企業とか国との連携とって、話し合われていくっていうのはあるかどうかなんですけども。
中村
まず、他の地域との交流・連携というのは、現在のところ河内長野石綿被害者の会がありますね、ここと、企業名を東洋に変えている旧東洋石綿。それと岐阜羽島、これはニチアスですね。それと泉南・阪南地区、これは最近ですね。それとあと、韓国と連携してやっています。今主な「患者と家族の会」の活動は、被害者、これは環境災害、労働災害に関わらず救済していく、その救済の支援をしていくというのが今一番の活動ですね。大きな目的としてはこんなとこです。
あと三宅さんのご質問の企業・国との連携、これは現在はありません。もちろん、必要だと前々から私たちは考えていまして、ちょうど党派を超えた国会議員を集めて、それと「患者・家族の会」、支援者団体とが一体して、なんらかのそういうネットワークを作る準備をしています。今のとこ、野党の方には打診を持ちかけてやっている途中です。ですから、これは、絶対作らんとあかんと思ってます。これに企業が加わるかというたら、まず企業は逃げるでしょう。政府も逃げてるんですから。ですから、その企業が逃げんように、国が逃げんようにするために、超党派のそういう検討会みたいなんを作って、我々患者、被害者もそこにものを申すと、そういう検討会を作らんといかんなあ、というのが前々からあって、その準備は着々と進めております。
廣田
実際、アスベストを使っていた、国や企業っていうのは使っている団体っていうのは使っている段階って分かってたと思うんですけども、それを現場にちゃんと情報として落したりしていたら、マスクをちゃんと現場の方がつけられたりして、被害が今ほどひどくないという可能性があったと思うんですけども、その点についてはどうおもわれますか。
中村
そうですね、やっぱりこれは十分行政がしっかりしてくれていたら、被害は減少されたと思います。また、今後の被害も、かなり抑えられてきたと思いますね。やはり、これもさっき言ったみたいに、行政と石綿協会、企業との絡みがかなりあると思うんですね、「管理使用」っていう言葉ひとつで騙されてきている。これは、行政が騙されていると僕は思っています。
ですから、やはり、イギリスなど欧米諸国がある程度危険性を発信した時に、すぐに、労働者に危険性を知らすべきだったと思います。これは、多分訴訟問題になったら、安全管理の方で政府は追及されていくと思うんですけども。やはり、もうちょっとしっかりと危険性の告知っていうのを労働者にするべきだったと思います。
八幡
アスベストについていろいろ危険性があるというアピールを市民の方々にしていかなければならないと思うんですけれども、その具体的な取り組みとしては、どういうことをされているのかということ。それから、もう一つの質問としては、大学教育と被害者の方との連携をしてきているんですが、これからどのような形で行っていくかという希望などはありますか。ということを伺いたいと思います。
中村
まず、市民への啓発活動という意味では、新法、こないだは3月27日に新法三周年記念集会という「3・27集会」を東京の日比谷公会堂でやってきました。これは、一周年、二周年と続いて今年もやってきました。そして、6月には尼崎で「クボタショックから4年」という集会も計画しております。
それと、私たちの「患者・家族の会」は11ヶ所の支部があるんです。ですから、その各支部で、患者・被害者の方と支援団体と集まって、そこで医療相談とか労災の相談とかいうのもかねて、集会をやっています。
また、場所に制限があるんですけども、関東支部と尼崎支部は(尼崎・関西支部合同)で、患者さんと付き添いの家族の方が集まり患者会を開催しています。あとは、さっきも言ったみたいに、韓国の患者さんとの交流も去年から始まってます。
啓発活動ということは、そういう集会があることを事前にマスコミで新聞などで報道してもらうように、対策、マスコミなどとの連携を取るようにしています。そういったとこですかね。
八幡
ありがとうございました。次に労災や訴訟問題についてなんですけれども、具体的な訴訟問題には関与しないということを以前にきいていたと思うんですけども、そういった現状について訊いてみたいと思います。
奥野
先ほどマスコミとの連携とおっしゃいましたけれども、アスベストの訴訟であるとか行われていると思うんですけれども、そういうふうなところに関わってこられて、先ほどの行政の対応の遅さ、訴訟だとかいうことに遅いっていうのと、他の人たちの関心、一般の人たちの関心というもので事態が変化していったりすると思うんですけれども、そこのところについて教えていただければ。
中村
一応今のところ、「患者・家族の会」はすべての訴訟には関与していません。ただ、つい最近泉南・阪南地区の国賠訴訟、これに対しては応援体制に入ってます。というのは、会としては、個人対企業の訴訟には関与できません。会の体力的にも、知識的にも。ですから、訴訟問題には関与しない事にしています。
ただ、国賠は側面からのサポートに、下からのサポートになりますんで、これはまた、勝利うんぬんでアスベスト問題が大きく動く裁判になります。国賠に関してはこれからは全面的にバックアップしていきたいと思ってます。ですから、体力的に個人対企業はできないし、また、もしそれをした場合には訴訟を目的に入会される方もいないとは言い切れないんで、そうなってきたら、会が運営できないようになってきますから。これはこれからもずっと直接関与はしない予定です。
八幡
最後の質問になります。会としての活動目的に関する大きな質問となると思いますので、お願いします。
山崎
今までの質問でも、会をどうしていきたい、こうしていきたいというのはわかったんですけれども、一番大きな目標ですね、それさえ解決してしまったら、アスベスト問題は解決したと言えるようなものは何でしょうか。先ほどでてきたのでは、……に関わらず被害者を救済するというのがありますけれども、すべての被害者を救済するというのが会の目的なんでしょうか。
中村
まず、この問題の最終的な解決は、被害者みんなが補償を受けても解決にはなりません。阪神大震災からもう14年目ですかね、これでもう被害者の方も出てきている。そしてまた、これから老朽化した高層ビルなどの解体工事も今後20年から40年くらい後まで続くと思うんですよ。それとあと潜伏期間とか考えたら、百年単位で、百年後ぐらいまではアスベスト問題は続くと思うんですよ。ですから、それまでに我々にできることは消化しておかんといかんな、ということはありますね。ですから、私もそうですが、会としてもやはりすべての被害者の救済を目的としています。これは一番最低限の基本ですから、まず内外を問わず被害者を救済する。
韓国釜山では日本のニチアスが企業を移転して操業して釜山で被害者を出している。韓国で操業できなくなったらその機械をインドネシアに持っていって操業している、アスベスト製品作ってる。こういう事実も韓国との交流で出てきてますし、韓国の被害者がニチアスを今裁判で訴えています。ですから、そういうので、内外を問わず同じように被害者同士が連携して、すべての被害者が、その、国うんぬんじゃなくて、その国はその国の制度に沿った補償でいいから、とりあえずすべての被害者が補償される、のが僕らの望みですね。
それと埋もれた被害者というのは、まだ田舎の方に行ったら、「中皮腫って何や」とか「アスベストってどんなもん」とか言う人も高齢の方はいらっしゃいます。実際被害者になっても分からない人もおられるようです。ですから、そういう人らを掘り起こしですね。それとやはり、アスベスト問題を未来に持ち越さないということが大切です。ですから、今できることを消化して、ちょっとずつでも消化していったら、何年か後には少しずつでも改善されるのじゃないかなと、思います。
八幡
ありがとうございました。では、次のパートの方お願いします。
法と国
勝田
この先どのような法整備を希望しますか。
中村
まず未来にアスベスト問題を持ち込まない、持ち込ませないことを前提にしてやはり、私たち患者・被害者と、たとえば有識者、超党派を超えて、やはり意見を出し合って最良の法整備を急がんといかんと思うんです。たとえば、私たちの上部団体の全国連が主張しているアスベスト対策基本法ですか、根本的な基本法をまず作って、まずそれに対して優先順位をつけて、危険なものから消去法で消していくということが一番の目的でもあるし、それをさせなければいけないなと。それがそういう法律を作らんことには前に進まん。
ですから、そういうのを根本にして、あとのいろんな細かいことも徐々にその中に盛り込んでいって、すべての被害といいますか、そういう解体もまた続くし、そういう人らの、現在でも、解体工事、いろんな規制がかかってるんですけども、一応自治体まかせなんですよね。その自治体まかせでも、1000平米のアスベスト以上の届け出しか義務付けられてないんで、やはり小規模の、たとえば50平米しかありませんよとかいうような吹付けでもすべて行政に届け出て、正確・的確な除去をやるような法をまとめていかんことにはいつまでたっても環境被害というのはなくならないと思いますね。
勝田
建物のオーナーだけが大きな費用を出すのではなく国からも出させるべきでしょうか。
中村
もちろんそういう補助はさせるべきですね。それはいくらでも関連企業から徴収したらできることですから、アスベスト新法みたいにすべての日本の企業じゃなくて、十分そういうのは関連企業から基金を出させても十分まかなっていけると思うんですよ。
そういう基本法をまず作って、政治家だけじゃなくて、被害者・患者もその中に入って色んな指導っていうんですか、そういうのをやっていく。行政とか自治体に対してもそういう権限を持たせる検討会、委員会みたいの作って法律を作ったら完全なものが出来るんじゃないかと思うんですよ。
勝田
家の取り壊しなどで私たちも加害者になりえます。でもアスベスト飛散対策を行うと、お金がかかる。国の援助がなければやっていけないんじゃないでしょうか。
中村
そうですね。そうしたアスベスト除去に対する補助っていうのを国から出させる、そういう法整備が必要だと思います。
本林
企業側にとって、アスベストは耐火性があり、使い勝手がよかったこと。そうしたアスベスト建材の解体においても、アスベストが飛散するのを防止しようとすると、コストがかかること。また、労災がなかなか認められないということ。そうした現状に際して、アスベスト問題の根本には金の問題が横たわっていると思ったのですが、そうした企業の利 益重視の体制についてどう思いますか。
中村
利益を追求していったのはもちろん企業ですよね。それに加担したのが政治家であると。ですから、企業だけではなく、さっきもお話しましたように政治家も、政治も絡んでるんじゃないかなと。やはり、それの一言に尽きますよね。石綿関係の、たとえば吹付け業者なんかでしたら、うちの副会長がよく言うんですけど、「毒をばら撒いて毒消しを売って儲ける、二重に儲けてる、これが石綿業界だ」と。まさにそうだと思うんですよね。
アスベストという毒を日本国中にばら撒いておきながら、今度は危険であるから除去しなさいってなったら、その除去で金儲けする。これはなぜかいうたら、吹付けした、たとえばどこどこの建物、どこどこの建物に何平米の吹付けがあるかというデータを持ってるんは吹付け業者ですよね。そこしかデータがないんですよ。政府も把握してない。
ですからそこらがおかしいんですよね。やはり建築基準法はあってもその中で何平米、このビルで何平米の吹付け、アスベストを使ってますよとかデータを持ってるとこはそういう吹付け業者だけなんです。ですからまるまるぼろ儲けなんですよね、石綿関連企業は。そしたらもう、関連企業と政府との癒着、それに尽きると思います、僕は。あと、そうですね、僕らのような被害者から見たらリスクが大きかったんで、これはそういう企業優先じゃなくて、危険度の、健康に対するそういう配慮をしてほしかったなというのはありますね。
もちろん今になって、色んな物を代替に使っていけるようになってます、なりましたけども、これは逆に元を正せばもうちょっと遡ってでも作っていけたんじゃないかなと、かわりのもんがあったと思うんですよね、それを実践してこなかったのはやはり、企業と政治家・行政じゃないかなと思います。
奥野
アスベスト問題に関して、地域的な認識の違いがあるということですが、関東圏での問題認識はどのようなものなのでしょうか。
中村
クボタショックのころはやはり関西と関東圏では違いをもろに感じました。しかし最近になりましてやはり色んなとこで、たとえば泉南国賠とか、関東のほうでは建築・建設関係が裁判やってますよね。ですからそういう裁判・訴訟・訴訟問題が報道されることによってかなり関心を持つようになったんじゃないかなと思います。このあいだの3・27集会の集会後のデモ行進でもたくさんの人達が沿道から拍手してくれる方もいらっしゃったし、がんばれっていう声かけてくれる人もおったし、そういうのを見たら、やはりちょっとは関心が高まってきてるのかなと思います。
ただし、逆にあの、過疎地って言いますか、もちろん労働者時代は都会で働いていらっしゃったんでしょうけど、田舎に里帰りされた方とか、そういう方はまだ案外と認識の薄い方もいらっしゃると思うんです。そこらもやはりもうすこし全国ネットで報道されるようにちょっと僕らが問題を起こしていかんといかんのかなと思うんですけどね。
奥野
情報をどうやって伝えていくか、ということに関してはどうお考えですか。
中村
そうですね、これからはもうそれしかないと思いますね。やはり、全国ネットのテレビとか、あるいは全国版で出してる新聞とかに載せる。あるいは我々の関係者がこういう悲惨さを訴えた『明日をください』っていうような本をあらゆるとこに持っていってばら撒くとかいうぐらいしかないと思ってる。
危険性に関しては、色んな先生方が本を出版されてるんですけども、一般の市民の方っていうのはそこに手が行きませんよね、なんも関心なかったら。ですからもうマスコミが一番有力かなと思います。
橋本
WHO/ILOの閾値が「無い」とする見解と、「ある」とする米国労働安全基準監督署の見解など、世界で意見が分かれていますが、アスベスト利用には閾値があると思われますか。
中村
やっぱりこのアスベスト、特に青石綿に関しては、閾値はないと思います。ただILO、WHOでしたか、あのクリソタイル(白石綿)に関してはありますよというようなことを謳っているけど、僕はすべてないと思います。白石綿でもやはりもちろん有害でありますし、ただ体内に取り込まれても、消化されるかどうかわかりませんけども、消えるんかどうか分かりませんけど、証拠として残りにくいらしいんですよね。どっちにしろ、僕はアスベストは危険物質だと思っていますんで、ないと思います。
あと、その安値で入ってきて色んな製品に加工・製造される、された点に、過去の事は過去の事として、これからのことに関してはやはり代替品ですべてまかなっていかんといかんなと。あと今、日本にある分をとりあえず、日本の中で消滅させていくことが一番大事かなと思ってます。使用は全面禁止になりましたけど、たとえば在庫を抱えてる商社がどっかの途上国に輸出しても誰もわからないわけですよね。梱包してしまって、コンテナに入れてしまえば誰もわからないし、そういうのも絶対に水際で防がんとあかん。政府の責任でもあるし、また我々の責任もあると思ってます。難しい問題ですが。
また、クリソタイル(白石綿)の曝露限界については、当面2本/cm3ですか。将来は1本/cm3にするらしいけど、白石綿でも僕はないと思います。医学的根拠もないし、これが2本とか1本とかいう。
山崎
国の「管理使用」という考えをどう思いますか。何人か被害者が出ても仕方がないという考え方ですが。また管理使用にはリスクがありながら、そのリスクに対して保障が無いのはなぜだと思いますか。
中村
この管理使用という言葉は行政も履き違いをしとったんじゃないのかなと僕は感じているんですよ。しかしながら、その管理使用についてのその管理の仕方の説明って言うんか、このようにして管理したら危険性はないんだよっていうプロセスに関する説明が何もないんですよね。行政にしても石綿関連企業にしても、ただ言葉だけで、まあ管理使用したら安全であるよと。
それが僕ら末端の労働者が知らないだけかどうかわからないんですけども、やはり僕はもう、国民の生命・安全を守る政府の怠慢でただ机の上から、たとえば文章で、労働局・労基署などに、ファックスなりですませた、ただそれぐらいしかやってないんじゃないかなと思うんですよ。その危険性をどこまで政府が伝えたかっていうのは、政府・行政としては、いついつこういう法改正をしてどうのこうのゆうてるけど、実際現場で働いている労働者にはそれは伝わってきてない。それは会社の責任もあるかもわかりませんけど、たとえば建築関係の会社まで通達がほんまに来とったかどうかっていうのは、僕は疑問を持ってるんです。
ですからやはり、管理して使えば大丈夫だっていう石綿協会の話を鵜呑みにしたっていうのは、だまされたっていうのは、そこに僕はそれを根拠に話してるんですけどね。やはりまあ、そういうどうして使ったら安全ですよとかいうのがないし、また建築現場ではマスクの使用っていうのも、学校パニックあった後でも強く言う人はいなかったし、ですから安全管理っていう面ではぜんぜん末端までは通達も降りてきてないし、知らなかったのが現状ですよね。
山崎
管理使用っていっても管理できてないってことですよね。
中村
どこまで政府が管理しとったんかっていうのが疑問ですよね。僕ら現場で働く労働者には全然危険性の話もなかったから。あと、この質問の中にありますリスクの対価、これはたぶん国としては認めないと思います。ということはまず認めないというか、それを保障するとかそういうのは、たぶんこれから増えてくるであろう国賠、政府に対する裁判がおきたときに、その時点でこれを認めてしまったら、政府の立場がが弱くなってくるので。
たぶんそういう訴訟のことまで考えて、とにかくクボタショックおきるまでは、発症したら2年で死ぬんだっていう考え方が大勢を占めていたようですから、黙っとけば患者が出ても3年もしたらいなくなる。クボタショックでもたぶん、黙っとったら5年もしたら熱は冷めるだろう思ってたと思うんですわ。しかし、そこんとこに当の被害者がマスコミを通じて発表した。それで、びっくりしてあわてて新法作ったんですよね、逃げの口実のために。ですから、絶対この石綿に対する健康被害のリスク保障っていうのは、国は認めないと思います。
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