・L’AREPO[Association des Regions europeennes des produits d’origine、原産地生産物のヨーロッパ諸地域協会]に見る、農業面を中心としたヨーロッパでの地域活動
本中間報告では、今年度の調査の一環として行ったl'AREPO[Association des Regions europeennes des produits d'origine、原産地生産物のヨーロッパ諸地域協会]の事務局長へのインタビューをもとに、農業面を中心としたヨーロッパにおける地域活動の一側面を整理したい。
l’AREPOは、ヨーロッパ連合の6つの国(フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ポルトガル、ポーランド)の16の地域(Regions)によって、2004年5月にボルドーで創設された。モデルとされたのは、l’Assemblee europeenne des regions fruitieres, legumieres et horticoles(l’Areflh)[果物、野菜、園芸地域のヨーロッパ会議]である。現在は、30の地域が参加しており、そのうち13がフランスの地域である(フランスの参加地域圏は、Aquitaine, Auvergne, Basse-Normandie, Bretagne, Centre, Corse, Languedoc-Roussillon, Limousin, Midi-Pyrenees, Pays de Loire, Poitou-Charentes, Provence-Alpes-Cote d’Azur, Rhone-Alpes)。
創設時の2004年から2007年までは、アキテーヌ地域圏が代表presidenceを務め、それ以降現在も、会計tresorierと事務局長secretaire generalを務めているとのことである。なお、現在の代表は、カタロニアが務めている。
l’AREPOは、フランスの1901年の「結社法」に従って創設されている。
歴史的にとらえるならば、第二次世界大戦後からのEUにつながる活動として、二つの軸を考えることができる。一つは石炭・鉄鋼共同体に見られる、ライン川流域の工業・先進地域を念頭に置いたもので、もう一つは農業の政策であり、共通農業政策PAC(politique agricole commune)はすでに1957年のローマ条約によって調印され、1962年には実施に移されていた。l’AREPOに参加している地域は、ライン川流域をヨーロッパの中心地ととらえるならば周縁的な地域に位置しており、さらにフランスにおける参加地域を考えても、バス・ノルマンディーを除くと南の方に位置しており、フランスにおいても周縁的な地域に位置すると考えることができる。インタビューにおいてもperipherieという言葉が何度か用いられていたが、そうした「周縁性」ということはl’AREPOにおいてかなり強く意識されているように感じられた。
l’AREPOへの参加を決定づけるのは、質の高い、地域に特徴的な農業を行っているかどうかということである。例えばパリ周辺等をはじめとするフランスの北部では、小麦の生産が行われているが、このような画一的、一般的な農業はl’AREPOの理念とは必ずしも一致しない。
アキテーヌ地域圏およびl’AREPOの、EUとの関係を考えるならば、アキテーヌ地域圏の事務所がブリュッセルにあり、そこには4名の人がいて、EU委員との交渉のようなl’AREPOの重要な活動であるEUとの関わりにおいては、l’AREPOは彼らアキテーヌ地域圏のブリュッセル駐在員の大きな協力を得ているとのことである。
l’AREPOのl’AREPO予算は、各参加地域圏からの分担金が毎年5千ユーロ、その25地域からの分担金と利子とを合わせて毎年13万ユーロとのことである。
l’AREPOの活動で最も重要な側面は、ロビー活動である。特にEUレベルでのロビー活動を最も中心的に行っている。重要なことは、地域に固有な農産物、質の高い農産物を守っていくことである。EUの農業委員と面談するような際には、l’AREPOのメンバーである他の地域の人々と打ち合わせをした上で、面談を行っており、各地域がばらばらな状態ではなく、まとまりをもってEUに働きかけることで影響力を高めている。
EUにおける交渉といった事の他にも、優れた農産物の生産を他の国で行うためのparrainage(援助)を行ったりもしている。例えば、アジャンの干しスモモpruneau d’Agenという有名な農産物があるが、これと同じ品種のものをチリで生産するための援助を行ったりしている。
l’AREPOは、Fonds FEDER(Fonds europeen de developpement regional、ヨーロッパ地域発展基金)からの資金も得ている。
アソシアシオンとしての活動という点から見れば、ARF(Association des Regions de France)[フランス地域協会]、ARE(Association des Region de l’Europe)[ヨーロッパ地域協会]といったものも重要である。前者の代表は現在、アキテーヌ地域圏が務めている。
国家と地域との関係という点から見ると、現在のフランスはある意味で特殊な状況にある。すなわち、前回の2008年の地方選挙以来、アルザスとコルシカ以外、すなわちフランス本土で言えば20の地域圏のうちアルザスを除く19の地域圏で左派が多数派を占めており、国レベルでの右派が多数派を占める状況とは異なる構成になっているのである。その意味で、国家と地域圏との関係は、現在はより困難な状況にあると言うことができる。
l’AREPOに参加している国で見ても、ドイツ、イタリア、スペインなどは、もともと国家よりも地方の方が重要な役割を果たしてきているという地方分権的な歴史がある。それに対して、フランス、およびポルトガルは中央集権的な国であった。1982年の「地方分権法」で変化が導入されようとしてきてはいるが、まだまだ国家が重要な役割を担うという構図を変えるまでには至っていないと考えられる。概算的に大きくとらえるならば、農業の分野に関しても、地方において、一名の国家公務員に対して一名の地方公務員がいるという感じで、こうした面から見ても国家の影響力はいまだにかなり大きいと言えるのではないだろうか。
農業に対する、地方レベルの諸行政の役割を考えると、地域圏は農業に対して直接的な援助を行っている。県レベルでは、環境や、広報といった観点からの(間接的な)援助を行っている。都市近郊peri-urbainの無秩序な開発によって農地が失われるといったことに対応するということもある。地域圏からの指示によって、県が活動を行うという側面もある。コミューン(市町村)は、農業の分野に政策的に関わるというのには、単位が小さすぎる。CUB (Communaute urbaine de Bordeaux、ボルドー都市圏共同体)も、トラム(路面電車)などの公共交通機関の整備、ごみ処理、公共住宅の整備などの分野で活動を行っていて、農業の分野には関わってはいない。
アキテーヌ地域圏の気候の特徴としては、海に近く、また降水量も多いので、湿気が高い地域であると言うことができる。ただし、保水力はあまり高くなく、雨が降ってもすぐに海に流れていってしまうので、水を保つために池を作るなどの工夫がなされてきている。
農業の特徴としては、まず、ボルドーのワインは非常に有名であるが、「農業」としてとらえる場合には、ワインは分けて考える必要がある。そうでないと、例えばアキテーヌ地域圏の農業生産額が示されたとしても、「それはワインがあるからだ」と看做されてしまって、この地域の農業の真の状況が把握されないことになってしまう。この意味でワインを除くならば、とうもろこしの生産が多いことがこの地域の第一の特徴である。このとうもろこしを飼料として、家畜、家禽の飼育、フォアグラの生産なども行われている。従ってここで生産されたとうもろこしは、地域外に移出されるというよりも、当地で消費されるところが大きい。これも地域に根ざした農業の一側面としてとらえることができる。
その他、野菜や果物などの生産も行われているが、例えばかつては人参の生産なども有名であったが、今日ではその重要性は失われてきている。アジャンの干しスモモなど、今日でも有名なものは他にもあるが、生産額はそれほど多くはない。
「農業」ということについて考える場合には、「農産物」produits agricolesの生産と「農産物加工品、食品」agroalimentaireの生産とは分けて考える必要がある。食品加工は都市部でも行うことができるが、農産物の主要な生産は地方で行われることになり、アキテーヌ地域圏においても食品加工は重要な産業となっているが、農産物の生産の重要性に注目することができるのである。
また、生産者と消費者との関係を考えることも重要である。この観点から、日本での産直運動が1960年代から行われてきていることにl’AREPOの事務局長は驚き、また注目を向けている。最近ではフランスでもこうした動きが見られるようになってきている。
さらに、消費者に消費のあり方をもう一度とらえ直してもらうことも重要である。例えば最近の若い人は、鶏を丸ごと一羽買ってきて調理して食べるというようなことをしなくなってきている。店で鶏を丸ごとで売っていても、買うのは40〜50歳代以上の人が多く、若い人は、慣れるとごく簡単なことなのに一羽の鶏のばらし方を知らない。
l’AREPOの活動の内容からすると、農産物の品質保証のマークは重要な意味を持っている。それぞれの特徴を見ると、AOC(appellation d’origine controlee、原産地統制名称)[ヨーロッパレベルではAOP (appellation d’origine protegee、原産地保護名称)]は、地域に特徴的な農産物という観点からとらえられるものであり、直接的には、品質が優れているといったことを示すものではない。これに対して、ラベル・ルージュは、標準的な農産物に対して品質が優れていることを示している。逆に、ラベル・ルージュでは、地域名に結びついたマーク付与は行われない。IGP(indication geographique protegee、地理的被保護指標)はヨーロッパレベルのもので、消費者によって認知されている農産物を示している。
このように、l’AREPOは、AOP、IGPといった形で認知される、地域に根ざした農産物の生産を通じて、農業を中心とする観点から「地域」の存在を高めることを目指している。EUレベルでの政策との関わりも持ちながら、こうした活動が進められており、そうした運動を広く支えるものとして、EUレベルでのFEDER(Le Fonds europeen de developpement regional、ヨーロッパ地域発展基金)、FEADER(Le Fonds europeen agricole pour le developpement rural、農村発展のためのヨーロッパ農業基金)の存在にも注目することができよう。農業、農産物が地域に根ざしたものであるからこそ、共通する問題関心を踏まえて、国家という枠組みを超えた、地域同士の結びつきを深める方向が模索されているととらえることもできるのである。
白鳥 義彦(神戸大学)
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