アスベスト被害聞き取り調査—近藤喜明氏 他 [2008-06-12]
藤木
震災時解体にたずさわった方はご存じだと思うので、この場にいらっしゃる皆さんにお訊きしたいのですが、解体した後に、例えば瓦礫だったり、鉄骨につけられていたアスベストだったりっていうのは、何も処理をせずに、どこかに運んだといます。それは今どうなっているかご存じの方おられましたら、教えて頂きたいのですが。
近藤
解体して、その廃材は、捨て場があります。現在でもあります。最初は、よかったのです。というのは道がないから、捨てに行けないのです。だから、捨てに行ける人は、行けたらすごく早く行けて、ほいほいっと帰ってきて。これで出来たのですが、だんだん道路がよくなってくると、車がすごく並びだして、僕なんかも一緒なのですけれど、しまいには、重機は使いませんでした。重機を使ってばらしても、ばらしすぎてもて、置き場所がないので、手でばらして、トラックに積み込んで、捨てに行ってこいと。捨てに行くと晩まで帰ってこない。だから、明くる日も、そういう状況です。だから、余談で申し訳ないけど、僕らが話していたのは、「一番多く、捨てられるところはどこだろう」。
弁当屋や、お茶屋は、お弁当やお茶を持ってくるのですわ。運転手はね、一旦帰ったら廃材が捨てられないから、夜でも道路で仮眠をしているのですわ。買い物に行かれない。だから、弁当屋、お茶屋が車で持ってきてくれます。「明日、また十本持ってきといてな」と言うようなぐらいに、廃材を捨てることと自身にすごく困ったという現実がありました。
片岡
場所、どこに持って行っていましたか?
近藤
一番はね、やっぱり、白川の次の、布施畑の方やね。で、その後、水族館のところに駐車場をなくした所にも持って行った。
神田
私らも多分見ていたと思うのですけど、トラックに積んで、アスベストがむき出しで、そのまま走っとったから、そこら中がもう、飛散のやりたい放題というのが当分、続いとったなあ。ああいう感じでは。シートが無かったから、余裕も何もなかったから。むき出しのままでトラックが走っていたという光景は、思い出します。
岩佐
実際、そうでしたけどね。そりゃ役所としては、もしわかとってもね、それを止めると復興出来ませんわね。工事を止めることになる。工事を止めたら、神戸全体が復興出来ませんわね。だから、難しい問題ありますね。
神田
結局は廃棄物を布施畑に運んで、あそこではどういう処理をしていたかわかりますか?
岩佐
木はね、木は燃やしていました。なんか緊急事態宣言いうのが出たら、いろんな規制は外れるでしょう。
神田
県の独自の判断で。
岩佐
ちょっとそれ聞いたことがあるのですけどね。埋め立て、木を燃やしてね。その他のものは、布施畑では埋め立てをしていましたね。
神田
アスベストがまだ埋まっている状態にある。
岩佐
そうかもわからない。そうだけど、「それ、正規のルールで処理せい」言われたって、そんなこと出来ませんわね。
神田
神戸にそんな設備もないわね。
岩佐
まあ見て見ぬ振りか、難しいわね。難しい問題ですわね。だからとにかく、早く処理してしまおうと。
片岡
見て見ぬ振りというのもあったのかもしれません。例えば医学の面でも、肺ガンと言われたら、今でこそタバコか石綿か、公共機関の医者は見る目を持ちだしたけれども、クボタの前までは肺ガンと言われたら「アンタ煙草何本吸うねん」と聞かれてね、患者が「いや一日に二十本や三十本やと」「ああ、あんた肺ガンやな、あんた若い時から吸いすぎや」と。これで処理されてきたのですよ。
私たち建設業も肺ガンでたくさん亡くなられていますけど、きっと煙草の吸いすぎで処理されている事がいっぱいあると思うのです。それがやっとね、公共機関の専門医が「石綿の危険がある」という目で見だした。これは私自身が経験したことですけが、病院名は言いませんけれども、内科の呼吸器科の医師のところへウチの組合員さんが、「痰が絡むだとか咳が止まらないとかいうことやから、診てもらって下さいよ」と、こういう風にして受診に行くと、「そういう症状が現に出ているから、もしかしたら石綿の被害の影響があるかもしれませんねと」、こういう風に医者が仰るもんやから、「じゃぁ、労災申請するからね、診断書を書いて下さい」と言う。
何号様式とかいう専門用語があるのですが、「書いて下さい」と言ったら、「私、書けません」ときた。「ほんなら、医師が書けなかったら病院には事務長がいるわけやから、その書類だって分かるはずやから書いて下さい」と言うたら、「どこか別の医者、病院に行って下さい」と。内科の呼吸器専門の医者ですよ。そのレベルでしたよ。その時点では。
クボタ以降、やっと厚生労働省が専門医を集めて、肺ガンなみに石綿の健康被害の研究をし出した。しかし、1975年にはヨーロッパで規制があり、厚生労働省が知っていた上での話をしているのですよ、くどいようですけど。そういうことも含めて、ちゃんと掌握して頂いて吟味して頂いて、っていう風に思うのです。(笑い)
松田
日本は地震国で、東南海地震も非常に高い確率で起こると言われています。阪神大震災の規模の地震が起こる可能性も十分にあります。そのための教訓がもしあるとすれば、どういうものか、実際に体験された方からお話をうかがうのがいいかと思いますが、いかがでしょうか。あのときはもちろん余裕がなかったのでしょうが、日本やアジアを見たときに、地震は間違いなく起こる。その時、同じことを繰り返すのはよくない。何か、教訓を言って頂くと、中国からやって来た留学生や日本人学生にも、いい機会だと思います。
近藤
最初に言った考え方から言うと、「ちゃんとせい」という気持ちになった。兵庫県知事が、震災でアスベストになるのは考えられないと言ったのが、新聞に載っていたのですよ。それでもう頭に来た。これだけ世間がアスベストって言っているのに。二十年で出るものなら、もう後七年ほどしたら出る可能性あると言うのですが、現実に亡くなっているわけです。
先ほどの医者もそうです。「診断書が書けません」ちゅうのは、恥ずかしいことです。中国の人がおられて余計に言い難くなったけどね。二度と起こらないようにするのが一番大事ですけれども、やはり一日も早く、こういう病気が出たら、どういう対応、どういう治療したらええということがなかったら、これは堂々めぐりです。理想はいくらでもありますが。
震災の時には、隣の家に米びつがあっても、その家に入っていかれないものね。あっても、米が食えんですもんね。そういう状況なので、僕自身、現地におって、その日の晩に、「おお今日も無事に帰って来れたなぁ」いう感覚以外にないような状況だったんです。ただ、僕自身も反省するのですが、テレビを見ていて、よその地震のニュースが出てきますね、「うわぁ、またえらいことなっとんな」。
自分のとこがなっても、13年近くなってよそのとこ見たらね、「うわぁ、大変なことになっているな。また大変や」と。実感がないんやね。だから、こういうことして、若い人が言ってくれて、育てていけるということに関しては、すごくいいことやなぁと。もう僕らが考えていることは遅れていると思います。総合的に考えたらね。でも、若い人はそれを肥料にしてもらっていけるのが、私が一番お願いしたいこという言い方で、申し訳ないけど。
松田
他の方はいかがですか。
松枝
まず、アスベストをなくすことじゃないですか。
岩佐
最近はもうだいぶなくなりましたもんね、どんどんどんどん。費用はものすごく高くつきますけども。どんどんどんどん撤去作業しましたのでね。ですから、これから先こういうような震災があっても、アスベストに関しては、神戸のようなことは絶対ないですね。
松枝
ただね、代替物だって危険性があると言っているからね。そのあたり慎重にどうするかっていうことと、もう一つは、その東南アジア、韓国とか問題になっているけども、ものすごく今、途上国にアスベストが入っているわけでしょ。そのあたりは、やっぱり知っている人らが、日本に被害があるのだから、知らせるのでしょうね。
あと、震災に直接はね、申し入れの時にもずっと言ったけれども、建築基準法でうちがどこにアスベスト使っているかは、一応届け出があるわけですから。だから、それより「マップを作れ」って言ってるんだけど、それはまた膨大な金だとか、調査が要りますよね。だから、実際そのあたりが、せめて大体アスベストが使用している建造物はわかっているのだから、まぁそれも推定でしかないでしょうけれども。だから、被害が起こった時には対処はしやすくなると、言っているのですけどね。
片岡
今から建築をするとか、今から建物を立てるとかいう問題よりも、1985年以前に、これはマップに繋がる話ですけれども、以前に建てられて、建設省そのものが推奨していて、「アスベストを使用しろ」と言っていた建物を解体する時期でもあるのですね、30年、40年。今このテーマは、阪神淡路大震災によるアスベスト被害に関していうことで議論なさっているけれども、しかし非日常ですよね、震災が起きるっていうことは。日常の社会生活の中で、そういう危険がこれからも引きずってあるっていうことも、この勉強会で是非感じていただけたらなと。失礼な言い方やけども。お願いしたいなと思いますね。
松田
それでは、西山さんが写真を用意して下さっているので、説明していただきます。
(西山さん写真を見せながら説明)
西山
今日、岩佐さん、近藤さんからお話がありましたように、こんな状態だったのです。当時を思い出してもらったらいいのですけれども。この人はマスクをしています。けれども、健康マスクですよね。風邪を引いた時につけるような。ものすごい埃が舞っているし。こんな状態の中で、正規の解体作業といったら、養生をして、アスベストが飛散しないような対策をとれ、いう方が無理な状態なわけですね。傾いたり、壊れたりしてしまっているから。だから、こういうふうになってしまった時点では、もう遅いのだと思うのです。
普段からアスベストを無くしてしまう、今のうちに取ってしまう。日本中のどこで地震が起こっても不思議はないわけですから。壊れたら、アスベストが飛んでしまうわけですから、飛ばないうちにいかに早くこれを除去してしまうかと。これしかないと思うのです。
壊れた後でいくら飛散対策をと言っても、無理なわけですから。それが一番課題なんじゃないかなと思うわけです。このあたりを見てもらったら、みんな石綿です。このままの状態で、さっき言われたように、トラックに積んであちこち持って行ったわけですから、解体の時も飛びますし、トラックで運んでいるときも空気中にいっぱい飛んだと思います。
これは、民家を中心に解体作業されているようですけれども、この写真撮った方が言っていましたけれども、灘区の方で国道2号線らしいんやけども、この近くで測ったら、1リッター170本の石綿が出てきたということなのですよ。民家の解体作業の現場にね、大気汚染防止法でいったら、1リッターあたり10本が限界と言われています。で、その10本っていうのも、石綿を作っている工場の壁のところから外に出ないようにということで、壁の敷地のところで10本っていうのが決まっているのですけども(*1)。だから、解体作業が行われているそのすぐそばで測ったら、170本出てきたということですから、いかに震災時にたくさん飛んでいたのか。こういう、見てもらったら分かるように普通の家ですよね、どちらかといったら。
普通の家っていったら、石綿はそんなに使われていないはずだし、どちらかといったら。建材とかにたくさん石綿が入っている可能性があるのですけども。そういうところにもこれだけ飛んでいたということになります。これも同じように梁のところとかにいっぱいついていますね。だから、こんな状況やから、正規に解体をしろというのは無理ですよね。吹きつけがもろに出ています。
*1 この値についてはばらつきがある。『Nikkei Ecology』200年8月号の、井部正之「忘れ去られた震災時の曝露 認定を教訓に平時の対策を見直せ」(pp.78-81)では、解体現場近くでは最大160〜250繊維/l、神戸市の調査でも19.9繊維/lが検出されていることが明らかにされている(以上、アスベストセンター永倉氏の指摘)。NHKの番組ではこれが50繊維とされている。
藤木
これは建物のどの部分にあたるものなのでしょうか?
岩佐
これはスラブですね、床のとこ。電気プレート。
(近藤さん写真を指す)
近藤
これ一番わかりやすいでしょう。梁のところについているでしょ。これが一番よく見える。灰色のところに吹き付けたような状況で。白いところやったらあんなに盛ったような形にね。ぼろぼろ垂れ下がってますでしょ。
西山
壊れてしまった状態では絶対飛ぶわけですから、そんな中で安全対策とか、飛ばない対策取れっていうこと自体、無理な話だと思うのですね。それまでにいかに飛ばないように除去してしまうというか、それしかないと思うのです。それまでに何ができるかっていうことを、みんなで知恵を出し合わないといけないと思うのです。
松田
学生か院生の方で、今日の全体を通して質問とか何かあれば。
藤木
さきほどアスベストの量自体が少なくなってきているというふうにおっしゃっていましたけれど、具体例を挙げて頂けますか?
岩佐
まず、学校関係、役所関係。役所が、率先して除去にかかっていますね。公的な建物のアスベストの除去は、もうほとんど終わっているんじゃないですか。ただ、一般の民家でもね、天井のボードにアスベストが含有しているボードもありますからね。それから、ケイカル板、大平板、このようなのは一般の民家でも全部使っています。スレートも使っています。みな入っています。公的な建物については、ケイカル板もスレートもみんな入ってない建材に変えていますけども、普通の家はアスベスト含有がわからないから。分析に5万も6万も金を払う。まぁ、なかなか広く出回っていますので、なかなかやっかいですね。
藤木
公的な建物で使用されている分についてはだいぶ減ってきているのですね。しかし、70年代以前に建てられたような、まだ建ってはいるがそろそろ立て替えないと危ない、という建物は、日本全国に結構散らばっているわけで。そういうのに関してはどのように対処していくべきなのでしょうか。
岩佐
今はね、届け出が義務づけられるようになったのですよ。80平方メートル以上は。その場合に、届け出た場合に、役所が「これはアスベスト建材が含まれていますか?含まれていませんか?」いう書類があるわけです。それにアスベスト建材が含まれていません、含まれています。含まれているのならば、どの場所にどういうものが使われているのか。いうことを全部明記するようになっていますんでね。だから、きちっとはルートが出来ている感じですね、今は。
藤岡
それを調査するのに5、6万円くらいかかるっていう話だったのですけれども、それを除去するのにはどれくらいかかるのですか?
岩佐
これねえ難しいです。莫大な、ものすごい金額がかかりますよ。日々あたり何十万いう金額かかる場合もありますし。で、とくにこの吹きつけいうのはね、耐火のために吹き付けとるわけですから、手の届かないところとか、ややこしいとこに吹き付けてあるのですわ。そやから、除去にものすごい手間もかかるし、ものすごい費用もかかるのですわ。そやから、民間の方はなかなか思い切られない、金額的に思い切られないとこがあるのです。ただ、アスベスト建材が使われているということがわかっていても、除去するのにちょっと見合わそうかという場合が多いのですけども。
藤岡
だいたい目安として、民家一軒のアスベストを除去にいくらくらい?
岩佐
民家はね、アスベストと言っても、飛散性と非飛散性いうのがあります。民家で使われてるいのはほとんどが非飛散性いう建材なので。そうきっちりした防護策もなしに、取り外しが原則ですから。ぼんぼんと壊すのはだめなのです。取り外しが原則なのですから。取り外した場合には飛散する心配が低いと。
藤岡
大体ビル一棟では目安としてどれぐらいなのですかね。
岩佐
何百万、何千万。
片岡
こないだ、解体したのは何千万やったな。
岩佐
ええ。それもピンからキリまでありましてね。
松田
先月ですね、尼崎の方で、旦那さんを中皮腫で亡くされたされた方のお話聞した際、アスベストが使用されていた隣の家を業者がまったく何の処置もなく、「ばんばん」壊してしまったということを聞きました。制度的にちゃんとできたとしても、実際に作業する者に中身がちゃんと伝わってなければ、やっぱり危険性はまだ残るわけです。そのあたりある種の教育が重要だと思います。
岩佐
それもね、車と一緒で、「免許持ったら制限速度を守りなさい」言うのですが。わかっているのですけども、スピードを出してしまいますね。それと同じで、いくら良い制度が出来てもね。届けなしでやれば出来るのですわ、これが。正規に届けたら、いろんな書類を出さないといかん。完了届けも出さないといかん、マニュフェストも全部提出しないといかん、いうのが今の制度なのです。ですから、手間がかかるから、届けんとやろうかいう者もおるわけですわ。
片岡
震災で解体なさっていた方が13年くらいで中皮腫なってしまったということなのですけども、本来20年、40年いう期間ですから、あなたたちもお若いけども、ぼくらもそうですけども、あの解体当時の時、平気で現場の横通って日常生活していたじゃないですか。だから、もうあと逆にいったら、20年ぐらい経つと、少なくとも吸っていますからね、皆さん、僕もみんなも。それが発症しないという保証は何もない。
そしたら、発症する危険を常に持って、僕らは、神戸の阪神淡路大震災経験したものは、これから先、生活していることなのです。皆さんが関心をお持ちだったら、危険を気にされるやろうけども、一般市民は危険を気にしないで生活している。それで、いざそういう症状が出た時に、原因が何かわからないような状態の時に、救済も求められないと言う状況に。そっちも怖いということも。
なんでそんなこと言うかというと、みなさんにお配りしたこの機関誌の真ん中に、こういうようなのが挟まっていると思うのですけども。私たちの建設業の仲間の団体、兵庫県から5つ組合があるのですけども、これで、建設国民健康保健、国民健康保険の建設労働者版です。建設国保っていう保健を作っています。毎月、病院からレセプトという名の請求書があがってくるんです。病院では3割払って、あと7割保険組合が払っているのです。
100人ぐらい、中皮腫や肺ガンや、それからその疑いや、それから、胸膜プラークがとかですね、肺気腫も含めて石綿肺、そういう疑いも含めてですね、あがってくるのですよ、請求書の病名の欄にね。その人たちがいるということ前提で、私がそれに関して相談に乗るから、どうぞ私たちのホームに、労災の申請か石綿新法か知らんけど、健康被害救済の手続きの協力をしますと言っているのだけど、なかなかご相談にない。あった時には大変な状況であると。医学的にどうこうしてあげることは出来ないけども、救済問題で。というと、西山さんや神田さんたちのご尽力でやっていただいている。
松田
今、指摘されましたように、救済、補償という大きな問題があります。それについても今後の課題としたいと思います。今日は、震災との関わりでのアスベスト被害の問題を勉強にすることができました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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