―基層・動態・持続可能な発展―

Basic structure,Dynamics, and Sustainable Development

 

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2007年調査報告(韓国・東海市)

◇概説

 今年度の韓国調査グループは、国家プロジェクト(情報化マウル政策)が地方都市の東海市にどのような変化をもたらしているのかに注目して、主に行政側の担当者と農村社会の住民を対象とする聞き取り調査を行った。
 韓国の「情報化マウル政策(Information Net Village)」とは、2001年から行政自治部を中心に都市と農村間の情報格差を解消する目的で実施された国家的プロジェクトである。行政自治部は、韓国全土の世帯規模が30〜100世帯のマウルを対象にして情報化マウルを選定する。情報化マウルに選定されると、当該地域に約3億ウォン(約3千万円)の支援金が投入され、超高速インターネットを利用できるインフラを整備することができる。情報化マウルはホームページを構築して地域特産品のインターネット販売を試みると同時に、生涯学習、文化・余暇活動などの多様な地域活動を展開することができる。2007年現在、韓国全国に約300の情報化マウルがある。
 東海市の情報化マウルとして、新興(シンフン)マウル(東海市三和洞14統)が取り上げられる。2006年現在、新興マウルの人口数は272人、高齢化率(60歳代以上)は39.7%になっている。新興マウルには農家(99世帯)が多く、主な農産物は豆やじゃがいも、タラノキの若菜などである。新興マウルの特徴は上水源保護区域に指定されているため、綺麗で豊かな自然環境が保たれている点である。こうした自然環境が認められ、新興マウルは2006年3月に情報化マウルに指定された。
情報化マウルの指定によって、新興マウルには住民向けのパソコン教育の場となる情報センターが新たに整備された。また、新興マウルは、マウル運営会を中心に1)新興マウルのホームページを通じた地域農産物の販売、2)農村体験観光という2つの地域活動を展開するようになった(http://sinheung.invil.org)。まず、1)新興マウルは、じゃがいもとタラノキの若菜の販売を開始したが、実際の注文が少なくて、インターネットを通じた地域農産物の販売はむずかしい現状である。一方の2)農村体験は、「じゃがいもを掘るコース」、「健康のためのハイキングコース」などのいくつかのコースを用意した結果、とくに「豆を用いた豆腐づくりの体験」が観光客から好評を得たのである。こうした新たな試みについて、マウル運営会長のKさん(40歳代の男性)は、「今後の新興マウルは豆腐づくりと味噌玉麹づくりの体験ができる宿泊体験農村(グリーン・ツーリズム)を目指していきたい」と語っている。現在、新興マウルに「黄土体験房」という宿泊施設も建築されている。

 以上のような新興マウルの事例は、情報化マウル政策が過疎化と高齢化の進む農村地域に農村生活の体験観光という新たな地域活性化の方向をもたらしたことを示唆している。新興マウルの地域の課題は、今後、地域活性化の方向性をどのような具体化していくのかにあるといえる。

新興マウルの宿泊施設(黄土体験房)
(新興マウルのホームページを通じて、農村生活の体験予約を受け付けている)

魯 富子(天理大学)