韻律の分析手順
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Prosody
英詩韻律の分析手順
| 音の分析の手順 | 各種の韻 | 特殊な場合 | 音節の切れ目 |
菱川 英一の英詩授業用の解説ページです。ここでは韻律の解析の手順を大まかに示します。
大まかにいって、つぎの4つの手順をふむ。
- 各行の音節数をかぞえる
どんな場合にもかぞえねばならぬということはない。見てすぐわかる定型詩などだと、不要の場合もある。なお、英語では /l, m, n/ の3つの子音が成節子音になりうる(『英語の発音と英詩の韻律』46-48頁参照)。
- scansion
scansion (韻律分析)の中心をなすのはリズムの分析である。英語はいわゆる強勢(拍)リズム(stress-timed rhythm)を有する言語(強勢拍律の言語)であるから、具体的には、どこを(韻律上)強く読みどこを弱く読むかということを確定する作業である。韻律上の強勢をどこに置くかを判断する作業といってもよい。
これを行えば、各行にいくつ強勢があるかが分かる。だが、行あたりの強勢の数を決めるには、ある程度の経験が必要となることが多い。この経験とは、数多く scansion をこなした経験のことである。できれば、各種の定形詩における強勢の数の配置パタンがあらかじめ頭に入っていることが望ましい。もちろん、定形詩であるかないかを判断するのも scansion の重要な目的のひとつである。
定形詩についてひととおりの知識を得るには韻律の解説書などが参考になる。最も薄い本だと、John Hollander: Rhyme's Reason (Yale UP, 1989) という100頁足らずの本があり、これは読み物としても好適である。他にも良書は多いが、もし、言語学的な側面からがっちり学びたい場合は Geoffrey N. Leech: A Linguistic Guide to English Poetry (Longman, 1969) は文句なしに薦められる。これには日本語訳もあるが入手困難かもしれない(ジェフリー・リーチ『英詩鑑賞―言語学からの洞察』、リーベル出版、1994)。この書を読む前に『英語の発音と英詩の韻律』(英潮社、1991)を読んでおくと、理解が深まる。日本語のすぐれた韻律書としては石井白村著『英詩韻律法概説』(篠崎書林、1964)という本があるが絶版。現代詩の韻律を考えるために何か一冊というなら、Philip Hobsbaum: Metre, Rhythm and Verse Form (The New Critical Idiom. London:Routledge, 1996) を薦める。この書では物足りない、またはこの書の立場に賛同しかねる場合は、Jon Silkin, The Life of Metrical and Free Verse in Twentieth-Century Poetry (Macmillan, 1997) という大著がある。
- リズムの変化をしらべる
リズムをしらべていると、ときおり、規則的なパタンからはずれ、目ざましい印象を受けることがある。このような striking effect があるときには、意味を考えあわせ、どのような必然性がありうるかを考える。弱強格(iambus)におけるいわゆる倒置(inversion)を考えるには、Kiparsky が解明したニ条件(単音節語条件、イントネーションの切れ目の条件)がしばしば有効である(『英語の発音と英詩の韻律』183-185頁参照)。
特殊な場合のセクションの counterpoint rhythm も参照。
- 各種の韻をしらべる
韻には、rime (脚韻)、alliteration (頭韻)、assonance (母音韻)、consonance (子音韻)などの各種の韻がある。これらについてはつぎの
各種の韻のセクションを参照。肝腎なことはこれらはいずれも強勢のある音節にかかわる韻であるということである。
最低限でも、脚韻と頭韻とは知っておかねばならない。特に、脚韻が分からなければ定形詩を見分けることはできない。さらに、母音韻や子音韻の分析も、脚韻を使用しないような現代詩の分析に特に有効である。なかでも、母音韻はアイルランドの詩を読むうえでは重要といえる。どの場合にも、強勢母音を見つけることが出発点になる。
- 脚韻 (rime, rhyme)
異子音+同強勢母音(以下の全音)
例: way - day, waves - graves
- 頭韻 (alliteration)
同子音(+異強勢母音)または異母音で始まる
例: red - rose, image - execute
- 母音韻 (assonance)
同強勢母音と異子音
例: take - fate, utter - dumb
- 子音韻 (consonance)
異強勢母音+同子音(群、ただし最後の子音が一致していればよい)
例: heals - ills, mist - left
- pararhyme
同子音A+異強勢母音+同子音B (=頭韻と子音韻の同時発生)
例: filled と found
- 類韻
頭韻と母音韻の同時発生
例: mine と might
- 3音節語
強弱弱の3音節語が iambus, trochee において余剰音節となるときは、(1) 2つの弱音節を1音節に縮読することにより2音節語となるか、(2) 強弱強と、3音節目に強勢が発生する。
- counterpoint rhythm
Hopkins や Heaney の詩などにおいて、上昇調のリズムに下降調のリズムが起こったり、その逆が起こったりして、2つの対照的リズムが並び聞こえてくること。
例: The world is charged with the grandeur of God. ('with the grandeur' の部分が反転している)
- spondee
伝統的韻律法では spondee (強強格)を設定することがある。pyrrhic 同様、それだけで独立する格ではないが、たとえばxx// (弱弱強強、pyrrhic + spondee)を認める立場にも一定の利点が存する(石井、33-37)。この現象が起きたという場合、x/ | x/ の第2、3音節の強勢の倒置が起きたため、xx | // となったとする。このとき、重要なことは、「快速の anapaest xx/ が動きを速め、次に小休止が入り、次の / を強調する」ことである(36)。すなわち、spondee は中間に(小)休止を有するのだが、この弱弱強強における小休止の場合、うしろの強はまえの強より強まって、「単独で1つの詩脚を作るかのようになる。この現象はかなり多い」(36)。つまり、事実上、xx/ | / のような詩脚と感ぜられるのである。例: My Feet bleed, see my Face, / See My Hands bleed that bring thee grace. (Christina Rossetti: 'Despised and Rejected', 45-6) の See My Hands bleed は xx// であり、Hands より bleed は強まって、bleed だけで単独詩脚のようになる。確かに、このような弱弱強強を認めると、ある種の詩行の分析は的確になるように思う。相対的にはうしろの強のほうが強いのだから、形式的に x/ | x/ とやっておくという立場もあるかもしれないが、それでは前半のスピードが落ち、前行との速度の対比も出ず、迫力を欠くことになろう。
- pyrrhic
iambus において pyrrhic を認めたほうがよい場合がある。PL 1.139-40 --for the mind and spirit remains / Invincible, and vigour soon returns. の Invincible は x/ | xx と読むのがよい。強勢が期待される '-ble' に「強勢がきわめて軽く、そこに使い残された力は、あふれて次の強音節にかかり」(36) vigour が強調される。この場合には、間に休止があり、さらに [v] の頭韻による韻強勢で、さらにその意味が強調される。確かに、こういう場合は、無理に x/ として強勢の数を整えるよりも、弱弱を認めたほうがよかろう。the とか its などの語がその位置に来た場合も同様である。
頭韻 (alliteration) や子音韻 (consonance) を見つけ出す際、どこで音節が切れているかを知ることが前提になる。音節は聞こえ度 (sonority) を基準に定義されることを知れば、peo.ple や break.fast のような切れ方は簡単に判る。音節の切れ目は音声学上は複雑な問題だが、韻律解析上、最低限知っておくべき実際上の要点を略述する。
音節の切れ目(音節区分、syllabification)を見分ける方法
文責: 菱川 英一
Last updated: 27 November 2006