第五巻 
The Order of the Phoenix 第11章、組分け帽子の歌のあと、ロンが物を口に入れたまましゃべる場面(英国版では189頁)のせりふ。これはいったいどういう意味か。普通の英語に直すとどうなるのか。
 同頁上部、ロンの別のせりふ 
'Ow kunnit nofe skusin danger ifzat?' のほうは普通の英語でそのあとに説明がある(
'How can it know if the school's in danger if it's a Hat?')。だが、同頁下部のこちらのほうは説明がない。さあ、どうやって解くか。英語のネイティヴ・スピーカーでも頭をひねる難問かもしれない。
 考える手順のヒント: 
'Node iddum eentup sechew.' はおそらく耳に聞こえた通りの表記である。したがって、これは「音」を表すのであって、文字表記とは異なる。そこで、一見、単語が分かち書きしてあるように見えるが、そうとも限らないことになる。つまり、これはあくまで音のつらなりを表しているだけということになるので、
どこからどこまでが単語にあたるのかは頭のなかで構成し直す必要があるかもしれない。最後に、解けたかどうかは、結果が文脈に合っているかどうかで判断すればよい。つまり、ニックへ謝っているつもりのせりふになっているかどうかである。
 
【手順1】音を考える前に、意味から引出せる限りのものを引出しておく。この箇所のように音が一見して何のことか分かりにくい場合には、
意味のうえではどんな言葉がくるはずかの予測を可能な限り立てておくほうがよい。具体的には、直前のハーマイオニのせりふが鍵である。ロンにからかわれたと思ったニックは不愉快に感じている。そこで、なんとかニックをなだめようと、ハーマイオニは 
'Nick, he wasn't really laughing at you!' と言う。それを受けてロンは 
'Node iddum eentup sechew.' と言うのである。すると、どう考えても、「そうなんだよ(=ハーマイオニの言う通りだ、ぼくは君を笑い者にしたわけじゃないんだ)、悪気はなかったんだ(=きみを不快な気持ちにさせるつもりなんかなかったんだ)」というような意味のことを言っているはずである。さて、それは英語で表現すると、どうなるか。
 「そうなんだよ」は否定文を受けているから、
'Yes' でなく 
'No' になる。すると、
'Node iddum eentup sechew.' の頭の 
'Node' の前半部分は 
'No' に相当する可能性が高い。ということは、後半以下は別の語だということだ。
 「悪気はなかったんだ」はいろんな言い方が考えられる。一つ考えられるのは、たぶん「きみに対して」という部分が入っているだろうということだ。謝っている相手に対して悪気はなかったことを言う必要があるからである。つまり、少なくとも 
'you' が必要だ。すると、せりふの最後の部分 
'sechew' の後半部分は 
'you' に相当する可能性が高い。つまり、前半部分以前は別の語に属するらしい。その別の単語とは、たぶん「不快な気持ちにさせる」という意味の動詞だろう。以上から推論できるのは、この部分は 
'No, ... you.' という枠から成るだろうということだ。
 
【手順2】音を考えるにはまず、この表記が大体どういう音を表しているかの見当をつけなければならない。
'Node iddum eentup sechew.' のうち、最後の 
'sechew' をのぞいては何とか見当がつく。ところが、
'se' の 
'e' はどういう発音になるか、やや分かりにくい。つまり、この部分が 
/se/ なのか 
/si:/ なのかがはっきりしないのだ。こういうときは、類推にたよるほかない。つまり、
'sechew' と似たような綴りの単語を探すのだ。これが、ありそうでなかなかない。少し違うが、
'nephew' なんていうのはどうだろうか。もし、これと似たような音の構造をしているとしたらおそらく発音は 
/sét u:/
u:/ となるはずである。今回の謎で実は一番難しい部分がここだという気がする。
 
【手順3】音が一応確定されたので、あとは、それに当てはまる語句を考えていく。上の<考える手順のヒント>で述べたように、どこからどこまでが単語にあたるのかが分かればおのずと解けるはずではある。そのためには、ここからここまでは音としてつらなっているはずだという部分を端っこから見つけてゆくのが着実だ。
 
'sechew' の後半部分は 
'you' であろうと、【手順1】で予想をつけたので、前半部分もある程度推測がつく。【手順2】で考えた発音からすると、おそらく 
/set/ のような音に相当する語(の部分)がくるはずである。前とくっついているかもしれないので、かりにそれを 
'-set' のように表してみる。
 前とくっつかない場合には 
'set you' のようになる。けれど、この表現で終わって「きみを不快な気持ちにさせる」(【手順1】参照)というような意味になることは少し考えにくい、前になにがくるかにもよるが。
 そこで、
'sechew' のちょっと前をみてみる。
'eentup' というような字がならんでいる。この後ろから何文字かをとって 
'-set' にくっつけることができるかどうかを考えてみる。最初に思いつくのは後ろ二文字 
'up' だ。これをくっつけると 
'upset' になる。
いい感じだ。'upset you' なら「きみを不快な気持ちにさせる」をあらわす表現として大丈夫だろう。
 以上から推論できるのは、全体は 
'No, ... upset you.' となるだろうということだ。ここでいったん立ち止まって考えてみる。
 「きみを不快な気持ちにさせるつもりなんかなかったんだ」をあらわすのにどう表現するか。たとえば、
'No, I did not [didn't] upset you.' という単純な形を考えてみると、これはあり得ない。なぜなら、実際にニックはもう不愉快に感じてしまっているから。それに対して謝る言葉としては「不快な気持ちにさせる
つもりはなかった」ということを言わなければならない。だから、
'upset' の前になにかつくはずである。つまり、最終的にはたぶん 
'No, I didn't ... upset you.' のような形に落ち着くはずなのだ。
 結局、ここまでの推論で欠けている部分にはおそらく「〜するつもりである」という意味の言葉が入ることになる。それを考えればこの謎は解ける。ここまで読んでくださったかたなら、きっと解ける。健闘を祈ります。