科研(1994-96)

研究課題

聖書学と文学理論の相互浸透の研究

研究目的

神学と文学との間に現在見られる相互影響の端的な相として、聖書学者による文学理論の援用と、文学研究者による聖書テクストの理論的分析、の両面がある。3年間を予定するこの研究においては、聖書学と文学理論のそうした相互浸透の現状について、基礎的研究を行う。わが国では、文学理論を文学の側から研究する際に、宗教的影響ないし神学的意味づけを取り除いて、或いは無視して、受容・理解しようという傾向が強く、総体的把握が不足している。そこでその欠を補うことをめざす。

問題とされる聖書テクスト(聖書学者・文学研究者が取り上げるもの)について、精密な議論のために必要な場合は、その原典レベル(ヘブライ語・ギリシア語)まで掘り下げて研究するのがこの研究の一つの特色である。もう一つの特色は、聖書テクストのうち、特に詩文学とみなされるものの範囲を、本来必要な範囲まで取るということである。具体的には、「旧約続編(第二正典)」をきちんと視野に収めるということである。第二正典中に含まれる知恵文学に、詩文学の研究にとってきわめて示唆に富むテクストが含まれているからである。

 日本の研究状況の中では、この研究は、基礎研究の従来の欠を補い強化する役割を果たすものと考えられる。世界の研究状況の中では、二つの特色(原典レベル・第二正典)を生かして、精密であり、かつ、バランスのとれた研究方向を示す役割を負うことができるのではないかと考えられる。


Copyright (c) 1996 Eiichi Hishikawa
hishika@kobe-u.ac.jp