研究上の関心は、1)17世紀ヨーロッパ哲学。より具体的には、ライプニッツの数学の哲学、とりわけ、「位置解析」「幾何学的記号法」と呼ばれるライプニッツ独自の幾何学研究が持つ哲学的重要性について研究しています。
これまでは、普遍記号法の構想を生涯抱いていたライプニッツがなぜ幾何図形を用いない幾何学の構築を試みたのか、無限小解析研究と幾何学研究とはどのように関連しているのか、空間論の展開に幾何学研究がどのように関連しているのか、といった問題に取り組んできました。こうした問いの解明を通じて、点、記号、想像力といった概念の変遷を整理し、ライプニッツの数学の哲学の全体像を再構成することを目指しています。
さらに、数理哲学的研究に平行して、ライプニッツのモナド概念の展開に関する研究も行っています。ライプニッツの「モナドロジー」はこれまでさまざまな観点から研究されている主題ですが、モナド概念は1695年以降の空間概念や延長概念の展開と何らかの関連を持つのではないかという見通しを私は持っています。ライプニッツといえばモナド、モナドといえばライプニッツですが、モナド概念をめぐっては実に多くの謎があります。そもそもなぜライプニッツはモナド概念なんてものを思いついたのか、なぜモナドを中心とした哲学を構築しようと考えたのか、いやライプニッツは本当にモナドを中心とした哲学を構想していたのか、仮にそうだとして、モナドの存在はきちんと正当化されているのか、など、解かれていない謎はたくさんあります(というより、これらの謎が謎として認識すらされていない状況が続いていたと言ってもよいでしょう)。こうした謎を一次資料の読解によって解き、数理哲学との接合を試みることも最近の目標です。
また、2)現代の数学・論理の哲学の研究として、幾何図形を用いた推論(図形推論)についても研究しています。図形を用いた推論は正確なものではない、場合によっては推論を誤謬に導くものとして、歴史的には重要視されてはいなかったのですが、近年その機能を見直す動きが起きています(このへんの事情は III 論文の10「図形推論と数学の哲学――最近の研究から」をお読みいただければひと通りのことはわかります)。図形を用いた背理法による証明や、非ユークリッド幾何学における無限遠点の幾何図形による表現などを分析することで、幾何図形が数学の証明においていかなる機能を果たしてきたのかを、歴史的観点から、かつ、現代的観点から解明する研究を進めています。図形推論は認知科学や数学教育などの分野でも盛んに研究されているテーマでもあり、今後はこれらの分野の研究者と哲学者が共同で研究することが求められています。
ライプニッツ研究と数学・論理の哲学研究の背後には「数学の記号はどのような機能を持つのか」という共通の問題関心があります。
数学の記号に関するこうした問題関心に加えて、最近は、3)アニメーションにおいてキャラクターの声をあてる声優の音声の機能に関する考察も進めています。私たちはアニメーションを鑑賞する際、キャラクターの音声と声優の音声を同一視し、現実世界に存在する声優が発した音声を虚構世界のキャラクターが発したものとみなした上で鑑賞し、楽しみます。声優はこうした意味では裏方的存在であるのですが、他方で、声優自身もまた単なる裏方にはとどまらない存在感を持っています。こうしたアニメーションや声優が置かれた現状を踏まえた上で、声優の音声はどのようにしてキャラクターの音声としてみなすことができるのか、私たちはどのようにしてアニメーション声優の音声を聴いているのか、といった観点から声優の音声が持つ描写機能の分析を進めています。
こうした「声優の哲学」は、ライプニッツの数理哲学研究や現代の数学や論理の哲学研究と同様に、「(図形や音声といった)表現媒体はいかにして対象を描写するのか」という、より広い哲学的関心に基づくものです。この意味において、哲学史研究(ライプニッツ研究)、現代哲学研究(数学・論理の哲学研究)、応用哲学研究(声優の哲学研究)は一つの軸で結びついています。
また、学際的共同研究として、信頼概念に関する学際研究や哲学教育に関する研究も進めています。
1) 17th century & early modern philosophy, especially Leibniz's philosophy of mathematics, his geometrical study (Analysis Situs, Characteristica Geometrica)
2) Philosophy of mathematics and logic, philosophy of geometry, diagrammatic reasoning
3) philosophy of voice actor/actress as philosophy of audio depiction of animation characters
1977年2月26日生まれ
2008年3月 神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了
2008年4月 神戸大学大学院人文学研究科学術研究員
2008年10月 神戸大学大学院人文学研究科学術推進研究員
2010年11月−2012年10月 神戸大学大学院人文学研究科助教
2012年11月− 神戸大学大学院人文学研究科研究員
神戸大学 文学部 ESD論(2009年度前期)、哲学演習(2017年度後期)
甲南女子大学 人間科学部 哲学概説I(2010年度前期〜現在に至る)
神戸大学 全学共通科目 科学技術と倫理(2010年度、2012年度後期、2013年度前期〜2016年度前期)、論理学(2017年度)
神戸大学大学院 人文学研究科 倫理創成研究(2010年度、2011年度後期)、古典力基盤研究(2011年度前期)、古典力発展演習(2011年度前期)、日本語発展演習(2011年度前期)
甲南大学 文学部 ラテン語(2011年度通年)
甲南女子大学 人間科学部 哲学概説II(2011年度後期〜現在に至る)
西神看護専門学校 倫理学(2012年度前期〜現在に至る)
関西大学大学院 文学研究科 科学論研究A(2013年度、2014年度春学期)、科学論研究B(2013年度、2014年度秋学期)
神戸市立工業高等専門学校 哲学(2013年度通年〜現在に至る)
関西大学文学部 西洋近代哲学a(2014年度春学期)、西洋近代哲学b(2014年度秋学期)、哲学演習a(2017年春学期)
関西大学 共通科目 ことばと思考(2015年度春学期・秋学期〜現在に至る)
2010年12月-2013年11月 関西哲学会 事務局幹事
2011年11月-現在 日本ライプニッツ協会 幹事
2016年6月-現在 応用哲学会 理事
2018年9月-現在 『フィルカル』編集委員