研究

『海港都市研究』

投稿規定(PDF形式)  創刊の辞
各号目次  創刊号  第2号

創刊の辞

『海港都市研究』は神戸大学文学部海港都市研究センターの研究紀要として刊行するものです。
 海港都市研究センターは、東アジアの「海港都市」を研究のフィールドとして、国民意識の分断的な壁を乗り越えて、緩やかな公共空間を構築していくための条件を究明することを目的に設立しました。言葉を換えて表現するならば、海港都市を、国家を超えた地域的な交渉の広がりの中で、文化の様々な側面が受け継がれ、異質なものが動的に混交し、革新的な思想と人材が形成される「共鳴空間の場」としてとらえて、人の生きる様々な姿を研究することに目的があります。「海港都市」を「共鳴空間の場」とすることができるのは、近代資本主義が先導するグローバリゼーションの遙か以前から人・モノ・文化の交流の場として機能してきた歴史性、海洋に開かれた国家の領域にとどまらない開放性、そして異文化の混交・衝突・組み替えの経験の蓄積を「海港都市」が社会的性格として持っているからだと考えます。海港都市研究センターは、こうした社会的性格が形成される過程とそのメカニズムを文学、歴史、社会の広い領域から総合的に研究することを目指しています。
 東アジアでは、日本・中国・韓国の互いの文化が国境を越えて人々の生活の中に深く浸透してきています。映画や音楽をはじめ、メディア、食べ物、服装など、生活全般にわたって文化の混交が深まっており、生活の豊かさを生みだしています。さらに、東アジアを経済的に統合する「東アジア共同体」構想も提起されており、経済的な依存を一層強めようとしています。しかし、国境を越えた労働力は、その多くは3Kとよばれる仕事に就いており、社会階層の新しい分化が国家の領域を越えて形成されていることも指摘できるところです。また、東アジアでは、日本と中国、中国と韓国、韓国と日本との間の歴史的経験が差別的心象風景として残存していることも事実であり、近年の各地域でのナショナリズムの高揚が分断的な一国民意識を強調しており、人々の排他的な感情を助長していることを指摘することができます。このように、国境を越えた人の移動、文化の交流は、相互の理解を深めるという一面ばかりではなく、互いの排他的な感情を助長したり、誤解や対立をも強くするという面を持っています。東アジアにおける人と文化の出会いと交流、対立と理解の仕方、そして新しい文化創造の可能性を改めて検討することは今日緊急な課題となっているように考えます。
 神戸大学文学部海港都市研究センターの主な活動は、次の3点です。第1は、「神戸・海港都市」をフィールドに文化の交流、対立、理解、創造を総合的に研究し、「海港都市」としての神戸に関する資料を発掘し、紹介すること。第2は、日本国内外の「海港都市」研究機関と連携して、国際的共同研究のための学術情報・資料情報交換ネットワークを構成すること。第3は、若手研究者の育成のために、海外の拠点大学と連携して大学院生による研究交流会を開催することです。
 2005年度は11月21日・22日、韓国木浦大学校で国際学術討論会『海 都市 境界――接触空間としての海港都市――』を開催しました。海外の拠点大学である中山大学、台湾国立大学、韓国海洋大学校、木浦大学校からの参加があり、各大学から4名による基調講演のほか、大学院生による研究交流会を開催しました。この研究交流会は、神戸大学を含む4大学11名による合同ゼミの形式をとり、各報告に対してコメンテーターが率直に意見を述べました。討論は若い人たちには大きな刺激となり、論文指導の新しい形式を生み出すことができたと考えます。本紀要に掲載した論文は、この討論をもとに再度書き直したものです。また、基調講演は、韓国、中国、台湾、日本における海港都市研究、および地域史研究の概要を紹介する内容でしたが、本紀要では特別寄稿として掲載しました。
 また、海港都市研究センターの活動の特徴としてあげておかなければならいことは、国際シンポジウムにおいて共通言語を指定しないことです。先の学術討論会では母国語で報告し、3ヶ国からの出席者にはそれぞれの言葉で翻訳をしました。母国語ともう一つ他地域の言葉が理解できるなら、共通言語を一つに限定しなくても、翻訳を連続することで多言語的状況の中に互いに理解できる空間を構成することができます。中心と周辺の構造、一極集中的なグローバル構造から解放されるためにも、こうした行為は実験的な価値を持っていると考えます。本紀要も、この趣旨から、海外からの論文は日本語の要約をつけて母国語で発表しています。
 『海港都市研究』は、若い人たちのエネルギーに支えられて新しい領域を開拓することを目指しています。しかし、提起している課題は、まだ十分練り上げられているとはいえません。本紀要から発する真摯なエネルギーを寛容と包容力で受け止め、ご指導下さるよう、心からお願いするところです。  なお、神戸大学文学部海港都市研究センターは、日本財団の財政支援のもとに開設し、今年度の活動は、神戸大学教育研究活性化支援経費、日本学術振興会「魅力ある大学院教育」イニシアチブによる研究経費を受けています。

神戸大学文学部海港都市研究センター
センター長  佐々木 衞

『海港都市研究』創刊号(2006年3月)目次
『海港都市研究』第2号(2007年3月)目次

投稿規定(PDF形式)
※PDFファイルをご覧になるためには、Acrobat Readerが必要です。お持ちでない方は、Adobe社のホームページからソフトをダウンロード(無償)してください。

研究のトップに戻る