神戸大学大学院人文学研究科倫理創成プロジェクト

アスベスト問題に関連する研究成果や情報

アスベスト被害聞き取り調査―道端達也氏 [2008-08-15]

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産業医学的観点から見たアスベスト問題の実態

藤木篤(神戸大学大学院人文学研究科博士後期課程)

本日はお忙しい中、時間を割いて頂きありがとうございます。では早速、最初に、聞き取り調査の主旨説明から参ります。

現在、神戸大学人文学研究科でアスベスト問題に関する人文学的研究を行っておりまして、今回の聞き取り調査はその一環として行います。これまでにも、アスベスト被害者ご本人およびそのご家族、残念ながら既に亡くなられている場合はそのご遺族の方、実際に診察や治療に携わっておられる医師の先生方、疫学者、弁護士など、さまざまな方にお話を伺って参りました。道端先生には、医師の視点から、アスベスト問題に関するより具体的なお話をお聞かせ頂けたら、と考えております。

では、早速はじめさせて頂いてよろしいでしょうか。

道端達也(玉島協同病院院長)

はい。

藤木

道端先生は産業医でいらっしゃるということですが、産業医とは実際にどういったことをされるのでしょうか。

道端

いきなり難しいな。まるで口頭試問を受けているみたいだ(笑)

ええと、産業医の概念というのは、臨床医とは少し異なります。普通のお医者さんというのは、地域で活動しますよね。産業医というのは、職域、つまり普通の労働者の方を相手に健康管理やリスクアセスメント、検診といったことをするお医者さんです。産業医の中には二つありまして、専属産業医と嘱託産業医という風にわかれます。専属産業医というのは、大企業に雇われてずっとそこで働く方ですね。多くの開業医の方は、嘱託産業医で、企業と契約して月に一回なり二回なり、会議に出たり職場巡視をしたりといったことをされているようですね。

産業医とは、簡単に言えば「職域の労働者の健康管理に携わる医師」ということになります。

藤木

実際にアスベスト被害に関して患者さんが来られるようになった、というのはいつ頃からでしょうか。

道端

その質問にお答えする前に、大前提となるお話をしておきましょう。産業医というのは、自分が名乗ればそれでできるんですが、一応資格があります。私の場合は、日本医師会の認定産業医制度と、国家資格の労働衛生コンサルタントという二つの資格を取っています。ただ取ってはいますが、私は現在どこの企業とも契約しておりませんので、実質産業医の活動はしておりません。まあ、倉敷医療生協の産業医はしておりますけども(笑)。つまり、よその企業とは産業医としての関わりはありません。

石綿の患者さんとの関わりは、臨床医として、つまり外来で来られた患者さんを診察する、といった関わり方で関わっております。それがたまたま職業病だった、ということですね。そういった意味で、産業医学的な関わりで患者さんに関わっておりますが、産業医としての関わりはありません。

では、質問に戻りましょうか。

藤木

はい。いつ頃から、どういった診察や関わり方をされてきたかをお話し頂けますか。

道端

今は、みずしま診療所というところで二週間に一回、産業医学外来というものを行っています。早い話が、職業病の患者さんを診る外来ですね。そこで、噂を聞いて相談にやってこられたり、労働組合から持ち込まれたり、他のドクターから職業性疾患の疑いありとして紹介されてきたり、そういった関係で患者さんが外来に来られています。クボタ・ショック(2005年6月29日)以降は結構多かった、というか多くなりましたね。自分で探して来られた方もおられれば、労働組合の紹介を受けて来られた方もいたり。

それ以前はどうかというと、落ち穂拾いのような感じで、ぽつりぽつりとたまたま発見した、という感じです。私が初めて診た石綿関係の患者は、初めは肺ガンで受診されてその後外科手術をした方でした。通常、外科手術の後は病理検査をするのですが、そこで病理検査担当の先生から「ここに石綿があるよ」という報告を受けました。それまでは石綿肺があるという認識はなかったですし、レントゲン写真上でもその石綿肺の変化はなかった。ただ病理では明らかに石綿肺なんですね。

それからその人の労災申請が始まったのですが、アスベスト関連疾患(の申請)ではそれが初めてですね。これは、クボタ・ショックより前の話ですね。

クボタ・ショック以前に来られた患者さんは、先ほどの件を含めて三人おられたのですが、その内のもう一人の方は、外来でたまたま見つけたというように記憶しております。最初は胃ガンか何かで来院していたのですが、胸のレントゲン写真が異常だということからよくよく話を聞いて再検査をしたところ、石綿肺であることが発覚しました。この方は確か大型バスの整備工だったと思います。ブレーキライニングにアスベストが含まれておりましたから、それに曝露したのだと思われます。一応、これで労災申請をしました。クボタ・ショック以前だったので、認定までにかなり時間はかかりましたが。

藤木

クボタ・ショック以降では、認定がおりるまでの期間は短くなったのですか。

道端

はっきりとした統計があるというわけではないので、断言はできませんが、印象としては短くなっていますね。先ほどの肺ガンの方だって、1年以上かかりましたから。なにせ長かったです。何回も聞き取りされてね。

藤木

患者さんご本人も先生も、労働基準監督署から聞き取りを受けるのですか。

道端

そういうことになりますね。何回か意見書を求められましたし、患者さんも何回も聞かれていると思います。監督署が聞くことというのは、作業内容もそうですが、最終事業所を確認したかったんでしょうね。そういったことを何回も確認していたようです。私の方には当然医学的なことを聞いてきました。

藤木

先生が診察された中で、ずっと水島コンビナートで働いていた患者さんはおられますか。

道端

コンビナートの患者さんはほとんどうちに来ないから。先ほどの大型バスの整備工をやっていたという患者さんも、コンビナートではないので。

藤木

水島コンビナートでアスベストを扱っていなかったなんていうことは…

道端

ありえません。必ず扱っています。

何人か、小さい下請け会社で働いていた方は外来で来られましたが、コンビナートで働いていた方はほとんどこられませんでしたね。今目立つのは、玉野の人ですね。造船所がありますから。

藤木

アスベストは造船所や製鉄業なんかですと耐熱、防炎目的で大量に使用されていたみたいですが、働いておられた方は当然吸っていますよね。

道端

吸っているでしょうね。

藤木

水島コンビナート以外にも、このあたりで働いておられる方はまんべんなく来られるのですか。

道端

そんなに数が来ないので(笑)。この病院にもそれに関する患者さんは来られてませんので。確かに患者さんはおられますけどね。この玉島の地域に、昔は朝日石綿の工場がありましたから。かつてそこで働いた方は何人もおられるみたいです。少なくとも一人の患者さんはそこでずっと働いていたそうで、はっきりと胸膜肥厚斑という診断が出ています。その方が言うには、「自分の同僚はもう何人も死んどるわー」と。名簿とかしっかり手に入れて、この辺の話ももう少し詰めて行かないといけないと思っているんですけど、なかなかそこまで手が回らないですね。

藤木

朝日石綿は、これまで聞き取り調査を行う中で何度か話題にあがったことがあります。朝日石綿とニチアスに関しては、クボタと比べると、被害者と自社との因果関係を認めたがらない、という風に聞いております。今は改名してエーアンドエーマテリアルという名前になっているようですが。

今はもう工場はないんですよね?

道端

今はありません。

藤木

実際に職場で日常的に曝露しておられた方と、ただ単にアスベストが使用されていた建築物の中もしくはその近くで働いておられたという方、つまり職業曝露の方と環境曝露の方では注意すべき点が変わってくると思います。朝日石綿のような大きな石綿工場の側では、環境曝露によるアスベスト被害の可能性も考えられますが、このあたりでは環境曝露で発症された方というのは見つかっているのでしょうか。

道端

確かに、そういう人がいる可能性はあると思います。その場合、まず、朝日石綿の工場の近くに住んでいたことがあるかどうかということを調べなければならないでしょうね。


因果関係をどう確定するか

藤木

アスベストの場合、因果関係といいますか、原因と結果が一対一で確定できないため、この二つ(原因と結果)をどのように結びつけていくか、という問題がおこってきます。医師の側では、どのようにこれらの因果関係を確定させていくのですか。

道端

石綿が悪さをする、というのは医学的には確定していることです。ですから、石綿に関しては、因果関係は実はわかりやすいんですよ。他の病気に比べるとね。実際、社会的な合意もそういうふうになっておりますし。とりあえず、中皮腫だったら石綿が原因であると言っていいと思います。

難しいのは肺ガンです。先ほど、石綿肺に肺ガンが合併していた患者さんの話をしましたね。これは、石綿が原因であると考えるわけです。それから、単純に肺ガンだけではなく、胸膜肥厚斑があった場合。これも同じで、石綿に原因があると言える。問題は、肺ガン単体で、石綿があまり見られない場合。これをどう考えるかですが、そこが一番難しい。議論が分かれるところです。

藤木

肺ガンであるとわかって、実際に肺を検査してみて、アスベスト小体があまり出てこなかった場合は…

道端

それは違うでしょう、ということになる。

これは本にも書いてあることなんですけれども、アスベストもクリアランスされる、つまり排泄されるんです。白石綿(クリソタイル)は排泄されやすい種類の石綿なので、肺に残りにくいんですね。そうなると、曝露が原因で肺ガンになったかどうかということは、現在の医学ではよくわからない。結局は約束事の問題になってきます。このように、肺ガンにはまだはっきりしない部分がありますね。

藤木

アスベスト関連疾患としてよく挙げられる中皮腫と石綿肺は、因果関係を確定させやすいが、肺ガンに関してはそうではないと。

道端

その通りです。だから、アスベストに関しては、中皮腫より肺ガンの方が何倍も発生率が高いはずなのに、(労災の)認定数は中皮腫の方が多いですね。そこが難しいところです。

藤木

それは、やはり因果関係の確定の仕方が難しいということが数に関係しているのでしょうか。

道端

そうですね。それに加えて、お医者さんがよく知らないという問題がある。中皮腫は稀な病気だからいいんですが、肺ガンはざらにある病気ですから。お医者さんが認識していない可能性がある。

藤木

特に普段たばこを吸われる方であれば、「たばこの方が原因ではないですか」となる。

道端

その可能性は大いにありますね。

藤木

たばこを吸い、かつアスベストを日常的に扱う職場で働いておられて、肺ガンを発症している、という場合、どのように因果関係を確定していくのでしょうか。

道端

労働者の場合は、アスベストに原因をおいても大丈夫だと思います。これはさっきも言った「約束事」です。たばこを吸おうが吸うまいが、アスベストを一定量吸ってさえいれば肺ガンの根拠としては問題ない。その場合、たばこはあまり関係ない。

だいたい、たばこによる肺ガンという考え方だって、常識として語られていますが、その人の肺ガンが本当にたばこによるものか、と言われると証明のしようがない。

ただその場合でも、個別としてではなく、集団としてみた場合明らかにそうである、という意味で、疫学的な因果関係ということで(アスベストと肺ガンの間に)関係があるといってよいと思います。

藤木

統計的に、または疫学的に、「確からしい」というところまでで満足するしかない、ということですね。

道端

それでいいのではないか、とは思いますが。ただ、このあたりは意見が分かれるところでして。疫学はあくまでその人個人のことに言及しているわけではないので。そこを突っ込んでいくとどうしようもない。それこそ、これも「何を原因として考えるか」という社会的合意の問題になるのかもしれません。

藤木

環境曝露の場合はどうでしょうか。

道端

環境曝露は難しいところですね。現在、いわゆるアスベスト新法で認められているのは中皮腫と肺ガンだけですよね。今後当然認められるべきであると思いますが、石綿肺は認められていない。

昔は、環境曝露によっては石綿肺は起こらないと言われておりました。ところが、起こるという調査結果が出てきている。昨年か一昨年、産業衛生学会だったか呼吸器学会だったか、今ちょっと正確には覚えていないんですが、確か大阪民医連のお医者さんが学会発表されているはずです。泉南地域で調査したところ、非労働者の住民に石綿肺の症状が見られた、と。これはまさしく環境曝露ですよね。

藤木

それは初耳です。環境曝露では石綿肺になることはないと思っておりましたので。

道端

そんなことはない、ということですね。

まだ本にはなっていないかもしれませんが、学会発表は確かにされているので、大阪民医連に問い合わせればわかると思います(*1, *2)。

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