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最近の著作から

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2016年

Nick Fisher and Hans van Wees eds. Noboru Sato et al. 『Aristocracy in Antiquity: Redefining Greek and Roman Elites. 』

『Aristocracy in Antiquity: Redefining Greek and Roman Elites. 』

古代ギリシア・ローマ世界のエリートは、いかほどに血筋を誇り、血によってどれほどまで他者を権力から排除できたのだろうか。あるいは家門という障壁は脆く、低く、むしろ社会的流動性が高かったのだろうか。本書はこうした問いを、古代ギリシア・ローマ世界の様々な時代、地域について、多様な観点から再考したものである。佐藤は、民主政下のアテナイについて、外交交渉には諸外国の国王、有力者との個人的な繋がりが重要であり、その関係が家系内で継承されて「貴族的」な側面を持ち得たこと、他方、そうした関係は時局に応じた変容を被り、新興勢力の参入に大きな障壁とはならなかったことを指摘した。(佐藤昇)

2015年10月、Classical Press of Wales (Swansea, Wales)

田中康二著『本居宣長の国文学』

『本居宣長の国文学』

本居宣長こそ国文学の始祖にほかならない、という仮説のもとに、『古事記伝』『古今集遠鏡』『新古今集美濃の家づと』『源氏物語玉の小櫛』『玉あられ』の五著作、「本文批判」「俗語訳」「文学史」「物のあはれを知る説」「係り結びの法則」の五技法をめぐってデジタル的に検証した。本書は『本居宣長の思考法』(2005年)、『本居宣長の大東亜戦争』(2009年)につづく宣長論三部作の完結編である。中世歌学と近代国文学をつなぐ存在である宣長を真正面から論じた。(田中康二)

2015年12月、ぺりかん社

増記隆介『院政期仏画と唐宋絵画』

『院政期仏画と唐宋絵画』

本書は、著者のこれまでの研究をまとめ、平安時代後期から鎌倉時代初期の院政期を通じて、いかにわが国の「仏教絵画」が形成されたのかを唐代以降の東アジアにおける絵画史の展開をも視野に収めながら考察した多数の論考を含む。当該期において、いわゆる「和様」が形成されて行く様相を従来とは全く違う側面から描き出した。(増記隆介)

2015年12月、中央公論美術出版

Michael Funk (Hg.) 『'Transdisziplinär' 'Interkulturell'. Technikphilosophie nach der akademischen Kleinstaaterei. 』

『'Transdisziplinär' 'Interkulturell'. Technikphilosophie nach der akademischen Kleinstaaterei. 』

ドイツを代表する応用倫理学者イルガングの思索を検討し、技術哲学、文化と技術、科学と宗教、技術に対する責任の問題などを論じている。Don Ihde, Hans Lenk, Carl Mitcham, C-F Gehtmannなどの著名な研究者の寄稿を含む。松田の論考“A Projective Hermeneutical Ethic from Environmental Risks in Japanese Context” は、イルガングの提唱する解釈学的倫理学の基礎について、そのナラティブ的側面と「プロジェクト」(「実存的投企」「構想」「企画」)の性格を解明するとともに、具体例としてアスベストに関するリスクコミュニケーションの解釈学的アプローチおよび原発と代替エネルギーに関する技術の信頼性問題について論じている。(松田毅)

2015年6月、Königshausen & Neumann (Würzburg)

九州史学会・公益財団法人史学会(編)『過去を伝える、今を遺す』

『過去を伝える、今を遺す』

史学会125周年記念のシンポジウムをもとにして編まれた論文集。副題に示された「歴史資料、文化遺産、情報資源は誰のものか」をテーマに、考古学者、アーキビスト、博物館学芸員、歴史教育者、歴史学者が論考を寄せています。市沢は「歴史資料をめぐる『よそ者』と『当事者』」と題して、地域連携センターでの経験をもとに、分類論、参加型開発論や近年注目されつつある公共を冠する人文学をヒントに、歴史資料と公共圏について論じました。どの論考も事例、切り口とも刺激的です。ぜひ手にとって頂きたいです。(市沢哲)

2015年11月、山川出版社

宮下規久朗『しぐさで読む美術史』

『しぐさで読む美術史』

美術は言葉によらずに意味や内容を伝えるための方法を発達させてきた。前著『モチーフで読む美術史』『モチーフで読む美術史2』は、美術によく見られるモチーフがどのような意味をもっているかということを解説したものであったが、同じちくま文庫から刊行した本書では、人物のしぐさや身振り、ポーズや動作、あるいは喜怒哀楽に着目した。西洋人は身振りやジェスチュアが大きいが、これは異なる言語の入り乱れる地域ならではの習慣であった。そのため、西洋美術を見るときはことさらに身振りに注目する必要があるのだ。古今東西の美術作品を幅広く取り上げ、人物の動作や身振りによって作品を読み解く。(宮下規久朗)

2015年12月、筑摩書房

宮下規久朗『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』

『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』

あらゆる美術は光の存在を前提としているが、革新性は闇によってもたらされた。17世紀のカラヴァッジョの登場は、絵画に臨場感という衝撃的なドラマを生む。イタリア最大の画家カラヴァッジョについては、今年15年ぶりに日本で展覧会が開かれて大きな話題となったが、私はこの画家について5冊の著書を刊行してきた。本書はカラヴァッジョだけでなく、その前後、つまり古代から中世、ルネサンスから近代、バロックの絵画と彫刻、さらに現代美術や日本美術における明暗表現や夜景表現について概観し、美術における光と闇の相克の歴史について考察した。(宮下規久朗)

2016年5月、岩波書店

宮下規久朗『ヴェネツィア 美の都の一千年』

『ヴェネツィア 美の都の一千年』

水の都ヴェネツィアは、たぐい稀な「美の都」でもある。千年以上にわたり独立を保ち「アドリア海の女王」と呼ばれたこの都市国家は、ティツィアーノらの天才画家を生み、ヴェネツィア絵画は西洋美術で最高のブランドとされた。また、ヨーロッパ中から一流の芸術家が集まり、新たな様式の発信地でもあった。町のあちこちに息づき、いまも新しさを加えている建築や美術を切り口に、ヴェネツィアの歴史と魅力を存分に紹介する。ヴェネツィア美術というとルネサンスばかりを想起しがちだが、本書は中世やバロックに注目し、日本ではじめてのヴェネツィア美術の通史にもなっている。(宮下規久朗)

2016年6月、岩波書店

六朝楽府の会編著『隋書 音楽志訳注』

『隋書 音楽志訳注』

中国文学・思想・歴史・音楽の研究者による共同研究の成果で、古来難解をもって知られる『隋書』音楽志に詳細な注をほどこした本邦初の翻訳書。中国南北朝から隋にいたる音楽の変遷をたどりながら、国家の儀礼や祭祀、理想の音楽をめぐる論争、西域音楽の伝来、雑伎や仮面劇の芸能など多岐にわたる内容で、古代音楽の実態が記述されていて、日本の雅楽の源にもなった中国古代音楽、さらには東アジアの学術史を考える上での基礎史料です。(釜谷武志)

2016年2月、和泉書院

Taro Kageyama and Hideki Kishimoto (eds.) Handbooks of Japanese Language and Linguistics 3: Handbook of Japanese Lexicon and Word Formation.

『Handbooks of Japanese Language and Linguistics 3: Handbook of Japanese Lexicon and Word Formation.』

当ハンドブックは、日本語研究のおよび日本語言語学の成果を世界に広く問い、日本語研究の進展に寄与することを目的として計画された包括的な英文ハンドブック(全12巻で構成される日本語研究ハンドブック)の1つの巻を構成する。本巻は、日本語の類型論的特徴や語彙の特性に特に注目しながら、現代日本語のレキシコン・語形成に関するこれまでの知見・研究成果の全体を展望した上で、将来の研究の指針を提供するという、これまでになかったハンドブックとなっている。(岸本秀樹)

2016年1月、De Gruyter Mouton (Berlin)

梶尾文武『否定の文体 三島由紀夫と昭和批評』

『否定の文体 三島由紀夫と昭和批評』

言語が存在によって所有される表現手段であることを止め、むしろ存在を所有する根源的な力の座に馳せ上ろうとした時代が、かつてあった。20世紀すなわち「文学」の時代である。敗戦後日本の文学は、多くの作家と批評家が「想像力」という概念を基本綱領に据え、言語それ自体を現実から自律させることを志向した。この場を構成したのは、存在を所有しようとする言語と、言語を所有しようとする存在との、対立抗争にほかならない。本書では、敗戦後日本における批評的言説の変容過程を踏まえつつ、この時代の「文学」の中心に君臨した作家・三島由紀夫を論じ、現実的存在を否定しつつ想像的空間への自足をも否定せずにはおかなかったこの作家の「文体」について検証する。(梶尾文武)

2015年12月、鼎書房

石井知章・緒形康編『中国リベラリズムの政治空間』

『中国リベラリズムの政治空間』

「紅い帝国」の異名を持つ現代中国の習近平体制。この体制が発動した「7つのタブー」によって消滅の危機に追いやられたリベラリズム復興を目指す中国自由主義派の論考と、それに対する日本の識者の考察からなるアンソロジー。反腐敗キャンペーンで辣腕を振るう王岐山の元ブレイン李偉東との対談を付す。(緒形康)

2015年12月、勉誠出版

ARESER, Christophe Charle et Charles Soulié (dir.) La dérégulation universitaire : La construction étatisée des « marchés » des études supérieures dans le monde.

『 La dérégulation universitaire : La construction étatisée des « marchés » des études supérieures dans le monde.』

パリの高等師範学校で開催された科研による国際シンポジウムを含む、「大学の規制緩和:世界における高等教育「市場」の国家管理下の構築」を主題とする編著書。国際比較の視点から、フランス、日本、合衆国、スイス、ケベック、スウェーデン、西アフリカ、マグレブ、チリ等、多くの国や地域の事例が取り上げられ、近年の新自由主義的な大学改革を批判的に検討している。白鳥は、日本における高等教育改革と大学のヒエラルキー化の拡大について寄稿した。(白鳥義彦)

2015年9月、Éditions Syllepse (Paris) et M Éditeur (Québec)

Cahier d’histoire immédiate, No.48.

『Cahier d’histoire immédiate, No.48.』

「特集「Trois ans avec Fukushimaフクシマとともに三年」を含む、トゥールーズ大学の出版局が刊行する現代史の学術雑誌。本特集は、「フクシマ後après」ではなく「フクシマとともにavec」経った三年という視点を基調として、2014年3月11日に同大学で開催された、日本の原子力の問題をテーマとするシンポジウムの諸報告とともに、白鳥が同年2月に同大学招聘教員として行った講義・講演「フクシマ後の日本における原子力の問題」に関する論考から成っている。(白鳥義彦)

2015年10月、Presses universitaires du Midi (Toulouse)

ミハイル・ブルガーコフ著 増本浩子、ヴァレリー・グレチュコ訳『犬の心臓・運命の卵』

『犬の心臓・運命の卵』

ロシアでは不動の人気を誇るソ連時代の作家ブルガーコフの中編小説2編の新訳。ブルガーコフの作品はスターリン時代には発禁処分となり、20年代半ばに成立したこれらの小説もペレストロイカが始まるまで陽の目を浴びることはなかった。人間の脳の一部を移植された犬が人間に変身する『犬の心臓』と、天才的動物学者の発見した「赤い光線」によって攻撃的な怪物が大量発生する『運命の卵』。一見奇想天外に思えるこれらの物語には、当時のソ連政権に対する手厳しい批判精神が込められている。(増本浩子)

2015年12月、新潮文庫

仁木宏編著『日本古代・中世都市論』

『日本古代・中世都市論』

都市史を研究対象とする研究者10名による論文集。古代から中世・近世の都城や城下町、また乗り物や市場といった都市の諸要素を多様な手法により分析する。古市「五・六世紀の倭王宮に関する基礎的考察」では、5・6世紀の倭王宮について、倭王の代替わりごとに宮を造営する歴代遷宮という通説を否定し、倭王宮がむしろ地域の開発と密接に関わりつつ固定的に営まれていたこと、軍事拠点としての性格を合わせもっていたことなどを指摘した。(古市晃)

2016年5月、吉川弘文館

舘野和己・出田和久編『日本古代の交通・交流・情報2 旅と交易』

『日本古代の交通・交流・情報2 旅と交易』

日本古代の交通を多角的に捉える3巻のシリーズの一冊で、多様な要因で展開した交通を文学作品や記録などの中から探る。古市「記紀・風土記にみる交通」では、古事記、日本書紀及び諸国の風土記にみえる神話・伝承を取り上げ、古代国家が成立してくる5・6世紀に、倭王や貴族たちが日本列島の地域社会をどのように支配の枠組みに取り込もうとしたかを検討している。(古市晃)

2016年6月、吉川弘文館

落合恵美子編著『徳川日本の家族と地域性――歴史人口学との対話』

『徳川日本の家族と地域性――歴史人口学との対話』

名もなき人々のライフコースを再現できる“歴史人口学”という方法を用いて民衆の暮らしに迫る本書は、徳川社会に存在していた個性豊かな家族の地域性をリアルに、実証的に描き出しています。陸奥国や出羽国における農村の世帯分析があれば、屋久島や肥後国など海の民の結婚パタンの分析あり、近代初期の家族の特徴を府県単位で地図化したマクロ分析もあれば、日本の直系家族システムの類型化論ありと、日本家族の今に至るプロセスを300年のスパンで解き明かすユニークな論文集です。(平井晶子)

2015年7月、ミネルヴァ書房

西原哲雄・田中真一『現代の形態論と音声学・音韻論の視点と論点』

『現代の形態論と音声学・音韻論の視点と論点』

定型詩、歌謡、男女の命名、短縮語形成などの、身近な言語現象の分析を通して、形態論と音声学・音韻論の諸概念とインターフェイスを紹介した論文集です。現象の背景となる専門分野の解説が示された後に、著者のオリジナルデータにもとづく分析が提示され、それらの理論的意味が解説されて行きます。言語学、英語学、日本語学(国語学)を専門とする研究者、院生、学部生等、幅広い読者を想定したユニークな研究書です。(田中真一)

2015年11月、開拓社

田中高編著『ニカラグアを知るための55章』

『ニカラグアを知るための55章』

歴史的・文化的に極めて豊かで複雑な背景を持つ中米・ニカラグア。その魅力を多様な観点から描き出した野心的な一冊。「もう一つのニカラグア:大西洋岸とのかかわり」「狂った小さな軍隊:サンディーノと民族主権防衛軍」「保守主義の時代と自由主義革命:『保守党の30年間』とその帰結」「サンディニスタ革命期の文化政策:『あたらしい人間』のための文化」「先住民という『他者』:混血のニカラグア神話」の計5章を執筆した。(佐々木祐)

2016年6月、明石書店

濱田麻矢・薛化元・梅家玲・唐顥芸編『漂泊の叙事 一九四〇年代東アジアにおける分裂と接触』

『漂泊の叙事 一九四〇年代東アジアにおける分裂と接触』

抗日戦の終焉、台湾光復、国共内戦、中華人民共和国の成立————中華圏が大きく変動し分裂した1940年代、表現者たちはどのような自己認識のもとに世界観を構築したのでしょうか。本書は複数の場を往還する表現者による異郷体験=漂泊がもたらした、小説・詩・劇・旅行記・映画・流行歌などの様々な叙事をテーマとした論文集です。日本、台湾、中国、米国、香港、シンガポールの研究者20人が多彩な叙事のあり方を立体的に読み解き、柔軟な文化史を創成しようと試みています(濱田麻矢)

2015年12月、勉誠出版

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