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最近の著作から 2014年度

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2014年

日比野愛子・渡部幹・石井敬子著『つながれない社会』

『つながれない社会』

現代の日本社会を含むさまざまな集団の変化を考える上で重要な1つのキーワードは、「つながり」の変化です。本書は、社会心理学における3つの領域―「独立した個人による対人的環境の中での意思決定」を分析対象とした社会的交換、「文化に埋め込まれた個人の意思決定や認識、感情」を分析対象とした文化心理学、「人々の相互作用の中で立ち現われてくる主観的現実」を分析対象とした社会構成主義のアプローチに焦点をあて、これらのアプローチがひきこもりや無縁社会といった「つながり」の変化によって生じた日本社会における諸問題に対しどのように分析するかを取り上げます。そしてそれぞれのアプローチに基づき、良いつながり方とはどのようなものなのかについて提案します。(石井敬子)

2014年5月、ナカニシヤ出版

板垣貴志著『牛と農村の近代史 家畜預託慣行の研究』

『牛と農村の近代史 家畜預託慣行の研究』

明治以降の近代化のなかで発展から取り残された中国山地。そこでは前近代的ベールに包まれた家畜預託慣行が急激に拡大していた。本書は、牛を介して取り結ばれる人々の社会関係を明らかにし、それが近代農村で果たした歴史的意義を解明する。そして歴史の片隅へ押し流されながらも、地域社会の調和と共存のために努めた名もなき農民群像を描く。いうなれば、進歩のかげで退歩しつつあるものを見定めた宮本民俗学に共鳴する社会経済史である。(板垣貴志)

2014年1月、思文閣

奥村 弘 編『歴史文化を大災害から守る 地域歴史資料学の構築』

『歴史文化を大災害から守る 地域歴史資料学の構築』

日本列島において続発する大地震や豪雨等、大規模自然災害によって、地域の文化・記憶を支える地域歴史資料群は失われる危険性にさらされています。全国にネットワークをつくり、大災害から歴史資料を守り、災害の記憶を未来に伝えていく基盤をいかに築いていけばいいのか。地域の歴史文化を守り育てていくために、研究者や博物館、図書館、文書館関係者と地域住民がいかに活動をすすめていくのか。阪神・淡路大震災以降、神戸ではじまり、東日本大震災後の被災地での活動に至る、これまでの歴史資料ネットワークや神戸大学人文学研究科地域連携センターでの実践をふまえ、これにかかわる全国の専門家集団が、次世代に向けて、そのあり方を提案するものです(奥村弘)。

2014年1月、東京大学出版会

嘉指信雄・振津かつみ・佐藤真紀・小出裕章・豊田直巳著 『劣化ウラン弾 軍事利用される放射性廃棄物』

『劣化ウラン弾 軍事利用される放射性廃棄物』

劣化ウラン兵器問題は、いわゆる「非人道的兵器」の問題であるだけでなく、環境問題でもあり、人権問題でもある、現在の国際社会の中において、その深刻さと緊急性が隠されてしまっている大きな問題の一つである。福島原発事故以降、日本は、この上なく困難な状況に直面している。しかし、だからこそ私たちは、「核の平和利用」から生み出される放射性廃棄物の軍事利用である劣化ウラン弾を、核サイクルが生み出す問題の一環として捉え直す必要がある。そして、放射性廃棄物を大量に環境中に撒き散らし続ける愚行と、その結果、軍人・市民の区別なく、多くの人々に、とりわけ子どもたちに取り返しのつかない悲惨をもたらす蛮行を、常識に真っ向から反する愚行・蛮行として訴えて行かなければならない。対人地雷禁止条約のような国際的な枠組みによって廃絶するため、その非人道性を改めて問う。(嘉指信雄)

2013年8月、岩波書店

井上泰至・田中康二共編 『江戸文学を選び直す-現代語訳付き名文案内』

『江戸文学を選び直す-現代語訳付き名文案内』

日本古典文学の全集は一定の周期で編纂され、刊行されている。だが、われわれははたして「古典」という名に値する文学作品を選び得ているだろうか。古典とは、むろん大昔に書かれた物全般をいうのではない。同時代に受け入れられただけのものをいうのでもない。時代を越えて読み継がれ、それぞれの時代の価値観の中で読み替えられ、常に新たな外套をまとって我々の前に姿を現すものを「古典」というのである。古典には、時代や読者が変わっても、変わらず共感を与え続ける普遍性がある。江戸文学は庶民の文学であるというレッテルは、いまだに高校の教科書レベルでは固定化している。また、小説・俳諧・演劇という三分類から、代表作者と作品を選び、これを特権化してきた。しかし、それは近代の眼から見てすくい上げやすいものを焦点化してきたのではなかったか?以上のような問題意識から、編者を含む十人の近世文学研究者が未来に残す江戸文学の古典を選び、解説をした。(田中康二)

2014年6月、笠間書院

田中康二著『本居宣長―文学と思想の巨人』

『本居宣長―文学と思想の巨人』

本居宣長は名高いばかりで、その中身を知っている人はそれほど多くはない。また、宣長の著作を読んだことのある人でも、その全貌を熟知している人は稀であろう。だが、『古事記伝』の本意や「物のあはれを知る」説の内実、あるいは係り結びの法則の体系化といった、日本語・日本文学・日本文化に関わる宣長の学説を知りたい人は多いだろう。本屋に並ぶ宣長本はその要求に応えてくれない。ないものは自分で書くしかない。というわけで、できたのが本書である。本書は、江戸時代の国学者・本居宣長(一七三〇年~一八〇一年)の生涯をたどりながら、その学問研究を文学と思想の両面からとらえて、宣長の全体像を描くものである。宣長の二十歳代から七十歳代は十八世紀の後半にあたり、江戸の文化と思想が最も成熟した時期である。宣長や国学の入門書、解説書として読まれることを望むものである。(田中康二)

2014年7月、中公新書

久山雄甫著 Erfahrungen des ki. Leibessphäre, Atmosphäre, Pansphäre

Erfahrungen des ki. Leibessphäre, Atmosphäre, Pansphäre

ドイツのダルムシュタット工科大学に提出した博士論文をもとにした著作。タイトルを仮に訳すと『気の経験―身体圏・雰囲気圏・汎気圏』となる。日本語の「気」はドイツ語へと直訳できないが、本研究では、夏目漱石の作品の独訳に見られる「気」の訳例を分析し、「気」の表現をめぐる日独両言語間の差異が文学テキストの読みにどのように反映されるのかを論じた。また、それと並行して、ゲーテやホフマン、ムージルらのドイツ語テキストから、和訳した場合には「気」によって表現されうる描写を取り上げ、その背景にある身体や雰囲気の知覚を現象学的方法論により考察した。身体内(=「身体圏」)と身体外(=「雰囲気圏」)のいずれにも流れ漂い、さらにはその両者が合流する空間感覚(=「汎気圏」)の表現にも使われる「気」という言葉。これに注目することで、日独の文学の間にある意外な類似性が浮かび上がってくる。(久山雄甫)

2014年5月、Karl Alber Verlag

山下裕二・髙岸輝監修 増記隆介他著『美術出版ライブラリー 歴史編 日本美術史』

『美術出版ライブラリー 歴史編 日本美術史』

本書は、1991年の初版発行以来、現在まで、日本美術史を学ぶ学生や美術愛好家に好評を博し、版を重ねてきた『カラー版日本美術史』の後継書である。判型や構成のみならず執筆者をも新進気鋭の研究者に一新し、最新の日 本美術史研究の成果を反映する。本書は、時代ごとに「概説」「各論」「コラム」の構成とすることで、時代様式の流れ、時代ごとのトピックス、研究の新視点へと読み進めることができる。そして、本文の理解を促進する大量のカラー図版と合わせて、自然と日本美術史研究の最前線に立つことができる。美術史研究を志す学生のみならず、美術や文化財、視覚史料を通した歴史の理解に興味を持つすべての人々に本書を手に取って豊穣な日本美術史の頁を開くことをお薦めしたい。平安時代後期部分を増記が執筆した。(増記隆介)

2014年4月、美術出版社

フリードリヒ・デュレンマット著 増本浩子・山本佳樹他訳『デュレンマット戯曲集 第2巻』

『デュレンマット戯曲集 第2巻』

スイスの国民的作家デュレンマットの戯曲をまとまった形で日本の読者に紹介する初の試みとして、デュレンマット研究会のメンバーが2012年から3年がかりで戯曲集全3巻を翻訳・出版する予定であるが、本書はその第2巻で、デュレンマットの名を世界的に有名にした二大傑作『老貴婦人の訪問』と『物理学者たち』を含む戯曲5編が収められている。核時代における科学者の倫理という問題を扱った喜劇『物理学者たち』は、今からおよそ50年前のキューバ危機の時代に書かれた作品であるが、福島原発事故によって再びアクチュアリティを獲得し、もう一度読み直されるべき作品となった。その他の作品もテーマが今なお通用する普遍性をもち、ギャグのセンスも抜群である。詳細な解説付き。(増本浩子)

2013年10月、鳥影社

松田毅監修 榎朗兆作画 神戸大学人文学研究科倫理創成プロジェクト 『マンガで読む 震災とアスベスト』

『マンガで読む 震災とアスベスト』

阪神淡路大震災では倒壊した建物の瓦礫処理により、アスベスト曝露が原因で中皮腫を発症し、労災認定を受けた事例が出てきています。東日本大震災後も、同じ問題が生じることが危惧され、我が国では今後も同様のリスクが生じる可能性は小さくありません。本ブックレットは、特に震災時のアスベスト曝露による健康リスクの理解の必要性を訴え、曝露防護の具体的方法を市民に適切な内容と分かりやすいかたちで伝えることを目的としています。「東北大学等との連携による震災復興支援・災害科学研究推進活動サポート経費」による宮城県などでの調査と『石の綿―マンガで読むアスベスト問題』(2012)の制作経験を活かしています。被災地の図書館などを始め、問い合わせていただいた方にお送りしています。(松田毅)

2014年3月、
神戸大学人文学研究科倫理創成プロジェクト・京都精華大学マンガ研究科機能マンガプロジェクト

ベルンハルト・イルガンク著 松田毅監訳『解釈学的倫理学―科学技術社会を生きるために』

『解釈学的倫理学―科学技術社会を生きるために』

ドイツを代表する応用倫理学者の著作の邦訳。具体的倫理学としての解釈学的倫理学をハイデガーとウィトゲンシュタインという二〇世紀の二大哲学者と関連づけ基礎づける。原理的考察に加え、「クール」や「イノベーション」など、現代社会と近代技術を特徴づける現象を生彩に富む形で解釈する。経済のグローバル化、「世界リスク社会」の抗しがたい趨勢のなか、わたしたちが、テクノロジーの権力と技術のリスクとどのように倫理的に折り合いをつけるかを論じていく。市民に求められる能力を向上させると同時に技術の専門家も倫理的能力を伸ばしていく上で、象牙の塔を出た倫理学者にも重要な役割があることが説かれる。哲学分野の若手研究者とともに訳出した。(松田毅)

2014年5月、昭和堂

宮下規久朗共著『フェルメール 16人の視点で語る最新案内』

『フェルメール 16人の視点で語る最新案内』

日本でも近年とみに人気の高まっている17世紀オランダの画家フェルメールの芸術とその魅力について、美術、文学、映画など様々な分野の16人が分析したもの。私は、生物学者の福岡伸一氏と「科学と芸術が交差して生まれた比類なき世界」について対談している。福岡氏とは基本的なフェルメール観について一致し、共同して《ワイングラスを持つ娘》について独自の作品解釈も行った。(宮下規久朗)

2014年6月、美術出版社

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