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最近の著作から 2012年度

文学部広報誌『文学部だより』の「最近の著作から」欄から文学部教員の著作を紹介します。

これまでの著作紹介

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2012年

宮下規久朗著『知っておきたい世界の名画』

『知っておきたい世界の名画』

西洋では、美術は単なる装飾ではなく、東洋における文字のような重要な役割を果たしてきた。美術は目を楽しませるだけでなく、豊かなメッセージをもっており、美術が文化の重要な一角を担ってきたのである。美術史教育がなされていない日本では、美術というものは各人の勝手な感性や好き嫌いで見れば十分だと思われているが、それは誤りである。どんな美術作品にも、その背後にある文化や思想が反映されているため、それに関する知識は鑑賞に不可欠である。本書は、西洋の無数の名画のうちから50点を厳選し、それを簡潔に解説して、それぞれの絵画の基本的な見方や要点を紹介したものである。あえて、★をつけてその重要性を示した。★は「見ることができれば幸福な最重要名画」、★★は「わざわざ見に行く価値のある西洋美術の最高傑作」、★★★は「死ぬまでに一度は見るべき人類究極の至宝」。(宮下規久朗)

2012年1月、角川学芸出版

宮下規久朗・谷川渥・藤原えりみ著『ヌードの美術史』

『ヌードの美術史』

西洋では古代ギリシャにおいて人体が美の基準とされ、ヌードは美の理想を表すものとなった。それが時代を経るにつれ様々な意味を賦与され、教訓的意味やエロティシズムと結びついて発展してきた。現代においてもヌードはもっとも重要な主題であり続けている。本書は、ヌード2600年の歴史を通覧し、ヌード芸術への格好の入門書となっている。「鑑賞編」では古代から現代までのヌードの歴史を代表的な作品によって振り返り、「歴史編」でいくつかのテーマを立ててヌードの特質と問題点をとりあげ、「思考と分析編」でヌードと身体芸術をめぐる論考を掲載している。日本近代の裸体表現についての拙論はかつての拙著『刺青とヌードの美術史』(NHKブックス、2008年)の延長線上にある。あわせて読んでいただければ幸いである。(宮下規久朗)

2012年3月、美術出版社

宮下規久朗・塩野七生著『ヴェネツィア物語』

『ヴェネツィア物語』

ヴェネツィアは、2千年近く前に、無数の杭をアドリア海のラグーナに打ち込んで人工的な都市として作られ、一大海洋国家として繁栄を謳歌した。さらにこの街は、イタリア美術に独自の貢献をし、ローマ、フィレンツェと並ぶ中心地であった。今なお比類のない景観と豊饒なる美の遺産にあふれている。本書は、私がヴェネツィア美術の歴史を書き下ろしたものを中心とし、その前座として、『海の都の物語』で一千年にわたる共和国の興亡を描き尽くした小説家・塩野七生がヴェネツィアへの想いを語り、国家と芸術家の幸福な関係を解き明かしている。写真は『芸術新潮』のカメラマン筒口直弘氏が撮り下ろしたもので、きわめて美しいものばかり。日本で初のヴェネツィア美術の通史にして、水上の迷宮に歴史・美術・建築からアプローチする一冊。今後のヴェネツィア旅行の友にしていただければ幸いである。(宮下規久朗)

2012年5月、新潮社

植木照代監修、山本秀行・村山瑞穂編『アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために』

植木照代監修、山本秀行・村山瑞穂編『アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために』

本書は、学術入門書シリーズとして定評のある世界思想社の「学ぶ人のために」シリーズの一点として刊行されました。「アジア系アメリカ文学」(日系・中国系など、アジアにルーツを持つアメリカ人が書いた文学)は、エイミ・タンの小説『ジョイ・ラック・クラブ』(1989)など全米ベストセラーになったものも数多く、また、世界中で研究されています。日本における本分野の研究は、現在、私が事務局長を務めているアジア系アメリカ文学研究会(略称AALA)が1989年の創設以来、牽引してきました。本書は、2001年の研究書『アジア系アメリカ文学―記憶と創造』(AALA編、大阪教育図書)に続く、AALAの主要メンバーによる研究書です。全19章から成り、巻末に「文献案内」「年表」も付した本書は、一般読者から学生などの初学者、そして専門家・研究者までの広い読者層のニーズに応えうるものと確信しています。(山本秀行)

2011年9月、世界思想社

神戸大学環境管理センター、環境教育専門部会編『環境学入門』

神戸大学環境管理センター、環境教育専門部会編『環境学入門』

「神戸大学環境管理センターが2009年度から開講している「環境学入門」の担当 者が環境学の領域の広さと深さを知ってもらうために書き下ろした著作。内容は、 自然科学から人文・社会科学に及ぶ。松田は、10章「環境と倫理」を担当してい る。環境問題と環境倫理との関連、公害・地球環境問題・環境リスク論の相違な どを概括した後、環境倫理の諸原則と「環境正義」の概念について説明している。 最後に、筆者がフィールドワークを行った諫早湾の干潟干拓とアスベストによる 健康被害の事例を紹介している。本書は全体として環境問題に対する大学の研究 の現状と可能性を知る格好の手引きとなっている。」(松田 毅)

2011年10月、アドスリー

北村英哉・大坪庸介『進化と感情から解き明かす社会心理学

北村英哉・大坪庸介『進化と感情から解き明かす社会心理学

この本は、進化と感情・非意識をキーワードとして書かれた社会心理学の教科書です。感情・非意識は社会心理学で近年盛んに扱われているトピックですが、進化論は必ずしも社会心理学で一般的な考え方ではありません。ところが、私たちの社会行動の多くが非意識的な過程(特に感情が関連する心理過程)に影響されることを示す証拠を概観したとき、このような心の働きは進化の産物だと考えるとすっきり理解できることがわかりました。私たちの祖先は、狩猟採集を主たる生業として、150人くらいの小さな集団で暮らしていました。私たちの心の働きは、そのような小集団で皆とうまくやっていくための仕組みの集まりなのです。そのような観点から、従来の社会心理学の知見(特に対人関係に関する知見)を整理してみたのが本書です。(大坪庸介)

2012年4月、有斐閣

井上泰至・田中康二編『江戸の文学史と思想史』

井上泰至・田中康二編『江戸の文学史と思想史』

江戸時代の文学、特に雅文芸を考えるとき、学問との関係は抜きがたい。儒学・国学・老荘・史学等々、あるいは学問の形をとらない次元の思想的営みとの関連に目を向けることで、近世の文学史・文学研究はより豊かで厚みのあるものとなるだろう。また、それは文学研究のみならず、思想史研究にも新たな地平をもたらす可能性を持つ。本書は、そうした関心から研究の多岐にわたる実践と、今後の展望について問うものである。儒学は池澤一郎氏、国学は田中康二、老荘思想は川平敏文氏、史学・軍学は井上泰至氏がそれぞれ担当した。また、国学篇の「研究の新たな地平へ」を担当した天野聡一氏は神戸大学および大学院人文学研究科の出身者で、現在九州産業大学で専任講師をしている。(田中康二)

2011年12月、ぺりかん社

田中康二著『国学史再考』

田中康二著『国学史再考』

国学は現代日本におけるあらゆる人文系学問のルーツである。だが、国学史はいまだ茫漠としてつかみどころのないものである。近代以降には四大人観(荷田春満・賀茂真淵・本居宣長・平田篤胤)が定説となるが、そこには木に竹を接いだような違和感があり、再考の余地がある。そこで、本書では本居宣長というレンズを通して、国学史を見渡してみたい。一七〇一年から二〇〇一年までの三百年をたどるにあたって、いくつかの出来事を取り上げる。宣長の生前には宣長の目を通して、没後には宣長の受容を通して見ていく。そもそも国学は、「歌学び」(歌学)と「道の学び」(古道学)という相異なる二つの顔を持つ双面神(ヤヌス)なのである。それゆえ、時代によって違った顔を見せた。治世においては歌学が盛んに取り上げられ、乱世においては古道学がもてはやされた。国学発祥から三百年。その歴史をたどることによって、国学の本質を明らかにする試みである。(田中康二)

2012年1月、新典社

西村清和編著『日常性の環境美学』

西村清和編著『日常性の環境美学』

日常生活において私たちは、「自然」や人工の「環境」とどのような仕方で関わっているのだろうか。本書は世界を「生活環境(ビオトープ)」と捉えて、そこでの人間のさまざまな振る舞い方を美学や芸術学の立場から考察した共同研究の成果である。I. 景観の美学、II. 公共空間の美学、III. 観光旅行の美学、IV. 日常生活の美学、V. アートと環境の美学、にグループ分けされた全20章が、文化概念としての「自然」と向き合う私たちの感性的態度を多様な切り口から問い直している。長野順子の担当は第二章「アレクサンダー・フォン・フンボルトの自然絵画―自然の断片化と全体へのまなざし」。未来の「地球学」を予告した19世紀の領域横断的な博物学者を取り上げて、自然現象を観測・観察する科学者の眼とそれを美的に観照する眼差しとが稀有な形で融合する〈異形〉の景観図について分析した。(長野順子)

2012年3月、勁草書房

有福孝岳・牧野英二編『カントを学ぶ人のために』

有福孝岳・牧野英二編『カントを学ぶ人のために』

『学ぶ人のために』シリーズに新たに加わったカント哲学の入門書。編者であった坂部恵氏の急逝により滞っていた企画が拡張されて復活したものである。I.カントの生涯と著作、II. カントの哲学思想、III. カントと現代、年表という4部門から構成され、各コラム欄も充実している。核心部分の第II部はとくに批判哲学に焦点を当てたため、初期の地震論や天体論、自然地理学講義等には触れていないものの、歴史哲学や宗教論も含むカント思想の豊かな水源を各論点から探っている。長野順子担当の第4章第3節「共通感覚―感性と社会をつなぐもの―」では、第3批判書『判断力批判』で美的判断力の最終原理となる「共通感覚」という理念の18世紀的な思想的背景を見定めたうえで、その現代的意義を展望した。本書は、「批判的思考」の原点をもう一度考えるためのひとつの道標となろう。(長野順子)

2012年5月、世界思想社

村井良介著『戦国大名権力構造の研究』

村井良介著『戦国大名権力構造の研究』

本書は主として、戦国大名と自立的な有力領主である「戦国領主」との関係から、戦国期の権力構造の特質について論じたものである。従来の多くの研究は、戦国期を近世への移行期と位置づけ、一元的な家臣団や領国を形成した近世権力を基準として、その到達度から戦国大名を評価してきた。このため、独自の「家中」や「領」を有し、大名家中に統合されない「戦国領主」の存在は、大名の支配貫徹を阻害するものとされてきた。しかし、本書ではおもに毛利分国の分析から、「戦国領主」の存在と、それを編成して成立している大名分国の権力構造こそが戦国期の特質であると論じた。さらに本書では、こうした権力構造の特質について、従来のように法的支配/暴力的支配、統治権的支配/主従制的支配という二元論的枠組みではなく、権力関係のせめぎ合いのなかで生じる構成的支配の問題として位置づけ、中世権力論の理論的問題にも踏み込んだ。(村井良介)

2012年2月、思文閣出版

佐々木衞著・李 升訳『全球化中的社会変遷―日本社会学者看現代中国』

本書は、『現代中国社会の基層構造』(2012年3月、東方書店)の中国語版である。中国で出版するに際して、概念の整理と、図表を更新した。 李路路(中国人民大学、社会与人口学院、教授)による「序」を掲載した。この序によると、本書は、現地調査に深く入って第一次資料を収集し、日常生活によって構成される基層社会の変化を考察している。日本人研究者の目から現代中国の社会変動の論理を「基層構造パラダイム」として提起している点に置いても、また、日本研究者による精密なミクロ調査法を代表するものとしても、現代中国学研究に重要な示唆を与える、と評価している。(佐々木衞)

2012年7月、科学出版社(中国)

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