Ver. 1.6 (2005/2/10)

 

言語学における修士論文・博士論文執筆の手引き[i]

 

松本 曜

 

1. 論文とは?

●特定の課題に関して、自分の論を展開したもの。

 

当然だが、

●他の文献から学んだことを自分なりに整理しただけでは論文にはならない。

●内容に関する責任は、執筆者自身にある。内容に関して指導教官に依存すべきではない。

 

 

2.    研究の進め方

 

2.1. 枠組み、研究課題、研究対象、研究方法の設定

 

 まず、どのような理論的枠組み(あるいはアプローチ)で、どのような課題に関して、どのような言語表現・現象を、どのような方法で分析することによって議論するのか、を考えなければならない。「認知意味論的なアプローチにより、プロトタイプという概念の必要性に関して、lieという語の実験的データに基づく分析を通して論じる」というようにである。

 といっても、実際にはいろいろ紆余曲折を経る場合が多い。課題を先に決めた人は、どのような言語表現・現象を取り上げるのか、絞る必要がある。表現・現象を先に決めた人は、それをどのような研究課題を論じるために使いたいのかを考えなければならない。

 

●課題に関しては、論文を読むことなどを通して、何が議論する価値のある課題であるかを考え、決定する。論文によって異なる答えが主張されている課題は特に取り上げる価値がある。まだ取り上げられていない新しい問題を取り上げても良いが、この場合は苦労するかもしれない。文献の中に、やり残されている課題が書かれている場合もある。

 

●取り上げる言語表現・現象に関しては、普段から興味を持っている表現・現象の他、他の文献ですでに取り上げられている言語現象、それと類似の現象、などがある。

 

●研究方法としては、内省、コーパス調査、実験などがある。

 

 

 よくあるパターンとしては、次のものがある。

 

ある課題に関して、他の論文を読んだときの疑問点(納得できない点)を出発点として、同じ言語現象を取り上げて、再分析を行い、新たな答えを見出す。

 

●ある課題に関して、他の文献で提案されていることを、類似の言語表現・現象や、他の言語の同一表現・現象に適用して検証する。あるいは別の方法(実験、コーパスなど)で検証する。

 

●自分の興味がある現象に関して、とことん調べ尽くす。優れた観察や記述は大きな意味があるが、同時に理論的貢献についても考えること。

 

 

2.2. 先行研究の調査

 

 課題に関する先行研究を調べる。指導教員に相談することのほか、以下のようなデータベースを用いて探す。

 

英語の文献

Google scholar      http://scholar.google.com/    internet上にある論文のみ

Linguistics bibliography   http://www0.kb.nl/blonline/   文献が限られている

LLBALinguistics and Language Behavior Abstracts)大学図書館等に問い合わせる

MLA international bibliography          大学図書館等に問い合わせる

SIL Bibliography     http://www.ethnologue.com/bibliography.asp

 

日本語の文献

国語学研究文献検索           http://www6.ninjal.ac.jp/kokugogaku_bunken/

NII論文情報ナビゲーター       http://ci.nii.ac.jp/

日本語学系情報収集サイト『やちまた』論文目録リンク

                http://www.d1.dion.ne.jp/~tmogi/yachimata/mokuroku.html

 

特定のトピックに関するもの

メタファー        http://www.benjamins.com/online/met/

認知言語学          http://www.degruyter.de/rs/384_8259_DEU_h.htm

テンス・アスペクト   http://www.scar.utoronto.ca/~binnick/TENSE/Bibliography.html

動詞-不変化詞構文    http://www.phon.ucl.ac.uk/home/nicole/bibl/PV.html

移動表現           http://www.lit.kobe-u.ac.jp/~yomatsum/motionbiblio.html

語用論            http://www.benjamins.com/online/bop/

フレーム意味論     http://framenet.icsi.berkeley.edu/index.php?option=content&task=view&id=39&Itemid=42

コントロール            http://folk.uio.no/janengh/KONTROLL/KONTROLLref.html

意味論                  http://www.lit.kobe-u.ac.jp/~yomatsum/resources/semanticsbibliography.html

 

2.3. データの収集と分析

 

 関連するデータの収集を行う。内省、コーパス調査、実験など様々な手法がある。データを集める際には、かならず何らかの形での仮説が必要になる。内省によって文を判断する場合も、仮説があるからこそ、この文はどうか、と問うことになる。実験に関しては仮説を検証できるような実験をデザインしなければならない。各種の調査を行う際も、何をみたいかを明確にすることによってはじめて、統計的な処理を行うことが出来る。

 

 実際の進め方は分野によって異なる。『日本語学』 Vol.13, No.6 (19945月増刊号)を参照のこと。

 

日本語、英語のコーパスの関しては以下のサイトを参照のこと

 

KOTNOHO 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』 デモ         http://www.kotonoha.gr.jp/demo/

小学館 コーパスねとワーク      http://www.corpora.jp/~scn/information.html?page=top

BYU-BNC                       http://corpus.byu.edu/bnc/

 

3.      論文の執筆

 

3.1.  良い論文とは?

 

論文は通例次のような点から評価される  NICE PAPERと覚える。

1) New     独創性がある主張がなされているか

       (新しい視点、新しい事実の発掘、より正確な記述、新しい説明)

2) Integrated   まとまりがある構成になっているか

3) Clearly argued 論旨が明快か

4) Empirical   経験的な検証がなされているか

 

5) Proper treatment of previous works 先行研究を正しく理解し、公正に扱っているか

6) Adherence to style sheet      決められた書式にあっているか

7) Phrased in refined language    しっかりした文章で書かれているか

8) Engaging            読んでいて言語のおもしろさを感じさせるか

9) Reader-friendly         読者のことを考えているか

 

 

3.2. 論文で絶対にしてはならない、三つのDon’t

 

 以下の行為は、研究者として最も恥ずべき行為であり、それを含むものは、どのような理由があっても論文として受け入れられることはない。

 

盗用(剽窃):他人の文章を論文中でことわることなく使う (Plagiarism)

代筆:他人に書いてもらう

虚偽:事実(データを含む)を意図的にまげて書く

 

 このうち、盗用(剽窃)に関しては、部分的にでも書籍からスキャナーにかけたものや、インターネットからのcut&paste等によるものが含まれる。以下のサイトなどを参照し、盗用と見なされる行為をしないように注意すべきである。

 

Turnitin.com What is plagiarism?: http://www.plagiarism.org/research_site/e_what_is_plagiarism.html

 

 代筆は、当然ながら、有料・無料のサービスを利用した場合も含まれる。

 

 修論、博論は個人の論文であり、共著論文はありえない。したがって、通例、共同研究による研究成果の場合、自分が中心になって行った部分のみ自分の研究として論文に含めることが出来る。その際は、共同研究であることに触れて、自分の役割を明記する。また、執筆はあくまで自分で行う。

 

 

3.3. 全体的な構成

 

●修士論文、博士論文は論文集ではなく、一つの作品である。一つの読み物として読めるものでなければならない。

 

●論文全体で主張したいことは何か、一点に集約させる。一点に集約させることができない部分は思い切って削除する(削除した部分はまた別の論文に発展させればよい)

 

●その「主張したい内容」は、論文の1ページ目に書く。

 

自分で扱いきれないような長さになると思ったら、思い切って切り落とす。

 

章、節、セクションに分けて書く。あまり細かく分けると全体の構成の中での位置がわかりにくくなるので注意する。各章、節、セクションの内容は一つの主張にまとめられるようにする。

 

●最初の章では、論文で扱う課題、論文の目的、論文の全体の構成などについて必ず述べる。

 

●先行研究の議論は必要のある範囲内で幅広くする。問題点を見つけて、自分が議論する課題を明らかにするために行う。当然ながら、先行研究の紹介も自分の文章で書く。(用語・定義まで新しくすると言うことではない)

 

本論に入る前に、自分の取るアプローチ(あるいは理論的枠組み、理論的立場、理論的前提)をはっきりさせる。どうしてそのアプローチ(理論)を用いるのかについても触れる(特に、読者に選択の理由が分かりにくい場合)。

 

●自分が得た分析から、一般的に何が言えるか、理論的な貢献は何かを必ず考察する。(「だからどうなのか?」という質問に答えられるように)

 

謝辞を入れる場合は前書きにする。有名な学者の名前を、自分の研究の信憑性を高めるために利用しない。

 

●目次、文献リストを忘れずに。

 

●構成の例

 目次

 前書き

 1. 研究課題の提示など

 2. 先行研究(その評価、問題点など)

 3. 自分の理論的枠組みの提示、仮説の提示

 4. 論証(複数の章に分ける)

 5. さらなる考察(残された問題、先行研究の再考、広範囲の問題との関連など)

 6. 結論

 文献リスト

 

構成の例1

 

 

3.4. 文章の展開

 

●論文は自分のために書くのではない。常に、ほかの人(指導教官以外も含む)が読んで分かるかどうかを意識して書く。

 

●また、執筆に至る前の考察における紆余曲折などをそのまま書く必要はない。自分の最終的な結論にもとづいて書く。

 

何がその論文における新しい貢献なのか、何がおもしろい点なのかが分かるように書く。

 

一度に二つ以上のことを議論しない。ひとつずつ積み上げていく。

 

●同じ内容の繰り返しをせず、簡潔にまとめる。

 

●結論を述べるのを後回しにせず、議論を進める前に述べるようにして、読者を方向付けておくようにする。

 

自分が当然だと思うことを、ほかの人(読者)も当然だと思うとは限らないことに注意する。

 

●課題となる用語は定義して使う。最初に登場するところで(ひとまず)定義する。

 

用語は一貫して用いる。意味もなく二つの用語を同じことを指すために使わない。考察の結果として途中で用語を変えるのなら、「後に明らかにする理由にしたがってと呼ぶことにする」として、最初からその用語を使った方がよいかもしれない。

 

新しい概念を導入する場合は、用語を定義して用いる。今まで使われている用語を定義し直して使うか、新しい用語を導入するか、適切な方を判断する。

 

●提案内容は、ほかの人に引用してもらえるように書く。提案する規則、原則、制約、定義などは、例文のように番号を付けると良い。名称も付けると、後で言及しやすい。

 

母語ではない言語で論文を書く際には、提出前に必ず母語話者に見てもらうこと。誤りが多いと、内容をきちんと読んでもらえない。論文の内容を評価できる人よりも、書くのに使われている言語の文章能力を評価できる人の方が多いことを覚えておくべき。

 

書式に注意する。括弧、イタリック、大文字などを一貫して使う。

 

注釈番号は、特定の語句に関するもの以外は、できるだけ文末や段落末などに入れる。文章の途中で注番号が出てくると、いつその注を読んだらいいのか分からない。特に、長い注だと、読んでいる読者の思考が中断してしまう。

 

非性差別語の使用に関しては以下のサイトを参照のこと。

Linguistic Society of America Guidelines for nonsexist usage:   http://www.lsadc.org/info/lsa-res-usage.cfm

 

 

3.5. 他の論文への言及

 

●ほかの人の観察、主張は、そうだと分かるように書く。ほかの人の論文に書かれていたことのみならず、個人的に聞いたことについても同様(いわゆる私信=personal communication)。何も断っていなければ、自分が考えたことだと解釈される。

 

論文への言及は著者名と出版年で示す。長い論文や書籍の中にある例文や主張などに言及する場合は、それが出ているページも示す。「柴谷(1976:32)によれば….

 

複数の論文に言及する際は、出版年順に並べるか、著者名のABCあるいはあいうえお順に並べる。

 

●他の論文などから、文章を変えずにそのまま引用する場合は、日本語論文では「」、英語論文ではdouble quotationを用い、最後にページも含めてどこからの引用かを示す。長い場合は、インデントを施したパラグラフにすることもできるが、通例それは引用する文章の表現(言い回しなど)に注目するような場合のみ。

 

他の人の指摘に言及する際には、誰が最初に指摘したことなのかをはっきりさせる。

 

孫引きをしない。他の論文で言及されている文献が入手不可能な場合は、どこからその情報を得たかが分かるように書く。例:According to Hopper and Traugott (1982:21), Meillet (1912) claims …; Meillet (1912), cited in Hopper and Traugott (1982:21), claims …

 

特に注意が必要なのは教科書用に書かれた本の中身に言及する場合。教科書として書かれた本の内容の場合、それが教科書の著者の主張なのか、そこで言及されている文献の著者の主張なのかを確かめる。後者なら、言及されている文献に直接当たって、それに言及すべき。そうしないと、誰の主張かについて誤解を生じさせる。また、教科書的な本しか読んでいないという印象を与える。

 

他の人の主張はフェアーに扱う。たとえば、他の人の提案を拡大適用して「誤りである」とすべきではない。ある提案が「誤り」であるとされるのは、それがある現象に関して誤った予測をするとき。何も予測が出来ない(適用範囲が狭い)というのは「誤り」と言うよりも「限界」と言うべき。

 

自分と異なる理論的立場の研究からも、学ぶべきことは学び、言及すべきものには言及する。

 

引用に関しては以下の文献も参照のこと

Pullum, Geoffrey K. 1988. “Citation etiquette beyond thunderdome.” Natural Language and Linguistic Theory 6: 579-588.

 

 

3.6. 議論の展開

 

●自分の仮説は何かを明確に書く。仮説は反証が可能な形で提示されなければならない。(正しくないことを示すことが不可能な仮説は、仮説としての価値がない。)

 

●何を主張するにも証拠を示す。(何かを主張したいときは、どのような証拠を提示すればよいかをいつも考える。)

 

●自分の挙げる証拠が正しく使われていることを確かめる。他の説明ができないかどうかに注意する。たとえば、ある文が非文なのは、自分が議論している事項故に非文なのかどうか。

 

observation(観察)description(記述)explanation(説明)の区別に注意。observationとは事実の指摘、descriptionとは現象の一般化を行って(表面的なレベルでの)規則・制約を立てること、説明(explanation) とは「なぜそのような規則が見られるのか」という問いに答えることを指す。

 

英語ではaccount forexplainが区別される。account forは、分析が現象の規則性を捉えることを指して使う。explainは先のような意味でのexplanation を行うこと。日本語では両方とも「説明する」が用いられる。

 

仮定(assumption)と提案・主張(proposal, claim)にも注意。仮定は、議論に先立って何かを正しいと見なすこと、提案・主張は議論を通して「これが正しい」と述べること。

 

●過剰な一般化をしていないか注意する。

 例:ある現象が英語、ドイツ語、フランス語に見られる —/→ インドヨーロッパ語族ではその現象が見られる (他の言語はどうなのか?SlavicIndo-Aryanなどは?)。

 

●論理性に注意

  例:「-lyは形容詞に付く」 -lyが付けば形容詞だ」(形容詞以外には付かないとは言っていないから) ≠ 「形容詞なら-lyが付く」(すべての形容詞に付くとは言っていないから)

    英語話者のみに、ある傾向が見られる ≠ 英語を話すこととその傾向との間に因果関係がある

 

●新しい原則、制約などを提案する際は、それを支持する独立した根拠があるかどうかを示す。

 

ほかの人の説の問題点を、自分の代案が解決しているかどうか、注意する。以前の説で解決していた問題も解決できているかどうか(あらたな問題が生じていないかどうか)にも注意する。

 

●自分の説の問題点として気がついていることは正直に書く。将来の課題として指摘するのは弱点ではない。ある意味では新たな研究の出発点になるので、ごまかすと、あとで困る場合がある。

 

 

3.7. データの提示

 

●例文、図、表には番号を付ける。図と表の区別に注意。図表には題を付け、何を示したものかが分かるようにする。

 

●本文中で例文言及するところで(読者に例文を読んでほしいところで)例文を出す。(あまり離れているときちんと読んでもらえない。)

 

●同一のことを複数の例文で示す場合、また、複数の文を対比する場合は、同じ例文番号でa, bなどとする。

 

●例文のどの部分に注目しているのかが分かるように工夫する(イタリック体、アンダーラインなどの使用)。意味もなく複雑な文にしない。

 

●複数の文を対比して提示する場合は、どの点で対比されているのかが分かるように、他の点では違いがないようにする。

 

●以前に出てきた例文に言及する際、何頁も離れたところに出てきたものはもう一度提示する。

 

例文は何を示すために挙げられているのかが分かるように、また、議論していることとの関係がよく分かるように、本文中で解説する。

 

●文の容認性に関しては、文としておかしい文には*を、ややおかしい文には?を文頭に付加する。おかしくない文には何も付けないか、OKを付けて示す。判断に個人差がある場合は、*/?のようにスラッシュで示す。%を用いる場合もある。統語的には良いが意味的あるいは語用論的にはおかしい場合に#を用いることがあるが、そのような区別がしにくい場合もあるので、#をどのような時に使うのかを注で示しておくと良い。

 

例文の容認性の判断には、自分が最終的な責任を持つ。個人差がある場合には誰の判断かを書く。容認性が意味や文脈による場合は、どの場合の容認性かを明示する。

 

日本語論文では日本語・英語以外の言語の例文、英語論文では英語以外の言語の例文に、グロスと訳の両方を付ける。

 

グロスは、各単語ごとにタブを用いて付ける。例文で語中の形態素境界をハイフンなどで示した場合には、グロスにおいても境界を示し、形態素ごとに訳語を付ける。一つの形態素のグロスを二つ以上の語で示す場合は、その語をピリオドでつなげる。グロスに使う語に多義性がある場合はどの意味かが分かるようにする。以下は一つの例。

 

(1)  Kare-wa  booru-o  hako-no   naka-ni     nage-ire-ta.

    He-Top  ball-Acc  box-Gen   inside-Goal   throw-make.enter-Pst

    “He threw a ball into the box.”

 

非文の場合、訳にはどのような意味の文として意図された文なのかを書き、それが意図している意味であることを示す。以下の例を参照のこと。文の意味が書けない場合は書かない。訳文として非文の英語文や日本語文を書くと意図が分からなくなる。

 

(2)  *Kare-wa  Marii-o   hon-o    yom-ase-ta.

    He-Top  Mary-Acc  book-Acc  read-Caus-Pst

    “He made Mary read the book.” (inteded reading)

 

●例文に関しては、(理由もなく)読者が不快と思うような内容のものを使わない(男性が女性を殴っている例文ばかりとか、殺人の例文ばかりとか)。先の非性差別語に関するサイトも参照。

 

図は出来るだけ簡潔なものにする。線の太さなど無意味に多様なものを用いない。

 

イメージスキーマは挿絵ではない。スキーマ化されたものであり、言語的表示であることに注意する。

 

●数値データを示す場合、どのような統計的処理をしたのかが分かるようにする。(%は何を何で割ったのか、どの統計テストを何に関して行ったのか)

 

●実験結果を示す表は、どこに注目すればいいのかが分かるように工夫する。

 

●考察したい観点から集計したデータのみを本文に載せる。集計前のデータは載せる意味が少なく、読んでもらえないことが多い。

 

 

3.8. 書式

英語論文では、イタリックを言語表現(考察している単語、句など)を指す場合、及び強調を示す場合に使う。日本語論文では「」を用いる。カタカナで言語表現を表す場合もある。

 

●略号は、論文の一番最初の部分で一覧にして示すか、最初に出てくるところで注か本文中で内容を示す。

 

文献リストは、著者名のアイウエオ順、ABC順に並べる。出版年、論文名、書籍・雑誌名、掲載ページ、出版社、出版地に関して情報を載せる。書籍、雑誌論文、論文集の中の論文の三つに関して書き方が異なる。書式はいくつかの種類があるが、以下は一つの例。

 

書籍論文の場合  影山太郎 2002 「非対格構造の他動詞意味と統語のインターフェイス」 伊藤たかね編『文法理論:レキシコンと統語』(シリーズ言語科学第1巻) 東京大学出版会

雑誌論文の場合  国広哲弥 1985 「認知と言語表現」 『言語研究』88: 1-19

書籍の場合    姫野昌子 1999 『複合動詞の構造と意味用法』 ひつじ書房

 

書籍論文の場合  Talmy, Leonard. 1996. “Fictive motion in language and ‘ception’.” In Paul Bloom, Mary A. Peterson, Lynn Nadel, and Merrill F. Garrett, eds., Language and Space. 211-276. Cambridge, Mass.: MIT Press.

雑誌論文の場合  Crowley, Terry. 1987. “Serial Verbs in Paamese.” Studies in Language 11: 35-84.

書籍の場合    Levin, Beth. 1993. English Verb Classes and Alternations: A Preliminary Investigation. Chicago: University of Chicago Press.

 

特に、論文名と書籍名では書き方が異なるので注意。

英語の論文名、書籍名、著者名などが、表紙などですべて大文字で書かれている場合がある。これはデザインとしてそうなっているだけなので、上記のような一般的な書き方に直して書く。

 

●以下のサイトなどを参照のこと

『言語研究』:http://wwwsoc.nii.ac.jp/lsj2/gk/gkstyle-jp.pdf

English Linguisticshttp://wwwsoc.nii.ac.jp/elsj/el.html

Linguistic Inquiryhttp://mitpress.mit.edu/journals/LING/li-style.pdf

 

 

4.        論文の発表

4.1  学会発表

●決められた発表時間内に収まるように、相応しい内容に絞る。

 

●完成した論文を応募する。しっかりした準備が出来ていない段階で発表の応募をすると、本人にとっても後になって困ることが多い。

 

●同一の内容のものを複数の学会の大会に応募することは禁止されているので注意する。

 

発表のハンドアウトを前もって提出するときは、その提出前に発表予行演習を行うと良い。

 

発表に対するコメントは、すぐに真意を捉えられないことがある。よく理解できなかった場合は個人的に聞く。

 

 

4.2.        論文の投稿

●決められた枚数で論じることが出来るように、相応しい内容に絞る。

 

●完成した論文を投稿する。特に、母語以外の言語で書いたものに関しては、必ず母語話者にチェックしてもらう。

 

●同一の内容のものを複数の雑誌に投稿することは禁止されているので注意する。

 

査読者のコメントは謙虚に受け止め、指摘された論点を用いる場合は、論文中で査読者によって指摘された点であることを書く。

 

査読者が誤解をしていると思ったら、どうしてそのような誤解が生じたのかを考えて、そのような誤解を生じないような書き方にする。

 

査読者との論争を論文中で繰り広げるような形にならないようにする(査読者以外の読者を意識する)。

 

●ある人の説を批判する論文を書いたら、その論文が公になる前にその人に送るとよい。その人の説を誤解していることが分かれば、公になる前に訂正する。(Joan Bresnan は、論文に雑誌に投稿するのと同時に、関係する学者に「こういう論文を執筆し、投稿している。あなたの考えを誤解しているようなら教えてほしい」という文を添えて送るという)

 

 

5. 論文執筆に関わるQ & A

 

●自分が考えたことと同じ(似た)ことを、ほかの人の書いたものの中に見つけたときにどうするか?

 自分と似た考えの人がいることを喜ぶ。

 その研究に必ず触れる。「独立して類似の結論に至っている」と書いても良い(ただし、その研究がよく知られたものであれば、新たに類似の主張をすることには価値が少ないことになる。)。

 よく読めば必ず違いがある。その違いに気がつけばさらに深い研究に発展する。

 

●ほかの人の学説を批判するのは失礼か?

 意見が異なるのは何ら失礼ではない。

 失礼に当たるのは、1) 批判の対象を学説ではなく、その主張者の人格に向けること、2)誤解に基づいて批判すること、3)本質的ではない点のみを取り上げること、4)批判するのみで代案を出さないこと。

 

 

論文執筆に関して参考になるサイト

京都大学大学院人間・環境学研究科 言語科学講座 東郷雄二先生のサイト 「私家版 卒業論文の書き方」:http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/thesis.html

 

研究生活全般に関わる書籍

東郷雄二 2000 『東郷式文科系必修研究生活術』 夏目書房

家入葉子 2005 『文科系ストレイシープのための研究生活ガイド』 ひつじ書房

吉原真里 2004 『アメリカの大学院で成功する方法留学準備から就職まで』    中公新書

 

 

構成の例1

 

Acknowledgement

Abbreviations

1. Introduction

 1.1 Japanese Loanword Accent              …1

 1.2 Goals of This Thesis                 …5

 1.3 Structure of This Thesis                …6

2. Previous Studies

 2.1 Antepenultimacy vs. Pre-antepenultimacy        …8

 2.2 The Input to Japanese Loanword Accent System     …13

3. Investigation

 3.1 Investigation into Japanese Loanword Accent      …16

 3.2 Method                     …16

 3.3 Results of the Survey 

  3.3.1 HLH Loanwords                …18

  3.3.2 LLH Loanwords                …21

  3.3.3 Summary of the Results: Four-Six Mora Loanwords  …26

 3.4 Influence of Syllable Structure on Accent Patterns     …28

 3.5 Summary: Implications of Results           …32

4. OT Analysis

 4.1 Overview of Our OT Analysis            …35

 4.2 Constraints, Ranking and Reranking      

  4.2.1 Constraints and Their Functions          …40

  4.2.2 Ranking and Reranking: the Case of HLH Loanwords  …46

 4.3 Advantage of Our Analysis                     

  4.3.1 Reexamination of Katayama (1995)         …58

  4.3.2 Some Advantages of Our OT Analysis          …61

 4.4 Summary of Chapter 4                 …71

5. Conclusion

 5.1 Summary of This Thesis               …74

 5.2 Remaining Problems                 …76

Notes

References

Appendix

 

Giriko, Mikio. 2006. Japanese Loanword Accent Reconsidered Master’s Thesis, Kobe University から一部修正



[i] この執筆に際して、神戸大学文学部言語学専修の同僚の西光義弘、窪薗晴夫、岸本秀樹、パルデシ・プラシャントの諸氏、今まで指導してきた学生たち、また、筆者がかつて指導を受けた諸先生方、特に、池上嘉彦、太田朗、吉田研作、Joan Bresnan, Karvanuur Mohanan, John Nissel, John Rickford, Elizabeth Traugottの諸氏、さらに、諸雑誌の匿名の査読者から学んだことが多いことをここに記しておく。